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「 1917 命をかけた伝令 」未見の方向けの感想、見どころ解説(ネタバレほぼ無し)

本年度アカデミー賞にて3部門、その他栄誉ある賞を数々受賞したサム・メンデス監督最新作1917 命をかけた伝令(@1917_moviejp)を鑑賞しました。

映画館に行ったのは2月20日(木)。IMAXシアター、それも300座席のシアターなのに観客はわずか10人余。平日の朝一番の上映回だったからかもしれませんが、普段ならもう少しシニア層で賑わっていたはず。劇場ロビーも人がほとんど見当たりません。正直、新型ウイルスの影響はあると思います。外出自粛は仕方ないですし、感染拡大を防ぐには必要ですが、このままがら空きの状態が続くと、映画館がハコの規模を縮小ないし削減せざるを得なくなるかもしれない。1ヶ月後も今と同じように映画館を利用できるかどうか不安になりました(既に上映が決まっているものは契約があるので心配ないとは思いますが...)。

下で解説する通り、「1917」は是非劇場で鑑賞してもらいたい作品であります。だから、これは感染拡大を煽る発言になるかもしれませんが、今のうちに劇場に行って欲しい。そのときには、体調を整えて、できる限りの対策をしてお出かけいただきたいと思います。

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前置きが長くなりましたが、「1917」鑑賞の感想とおすすめしたい理由を述べていきます。

前提

本作は、全編ワンカット処理された作品として注目されています。つまり、ほぼ2時間カメラを回しつづけたような映像に仕上がっているという作品なんですけども。実際には、何箇所かで区切られていることはわかるのですが、戦地を駆け抜ける主人公をリアルタイムでカメラが追いかけていくので、緊張感・臨場感が伝わる。撮影期間は2ヶ月ということですが、大半時間はリハーサルに割かれたようで、通常の作品の50倍の時間をかけたと監督は語っています(映画プログラムより)。リハーサルにより台詞の長さと背景の広さや情報が調整され、またリハーサルをし...と試行錯誤の結晶ともいえるのが本作「1917」であります

プロダクションデザインが素晴らしい

カットが長いと何が難しいかというと、状況や周辺環境の変化を描くのが難しい。映像の区切りがなく行動をリアルタイムで追いかけるということは、場面状況を急激に変えるのが不可能ということです。主人公が移動した距離=背景の変化ですから。この作品は、背景の変化が巧みです。

映画が始まると、主人公ら若き英軍兵士2人はのどかな草原(設定では4月6日なので春の風景)でくつろいでいます。そこに上官が現れ、司令所への出頭を命じられます。2人は司令所に向かうのですが、奥に草原はまだ写っています。ところが進んでいくと、だんだん地面が茶色くなる。少しずつ茶色比率が画面下から増え、更に進むと脇には休んでいる兵士や積まれた土嚢が見えてくる。土嚢が徐々に高くなり、塹壕の中を進んでいることがわかる。こんな導入です。映像はカットされていないけど、状況が徐々に変わる。これフェードイン・アウトなんですね

来場客が映画的な体験をするために作られたテーマパークであるディズニーランドでは、このクロスフェードの考え方をテーマパークに適用し、各エリアの変化を足の裏から感じさせるという手法をとっています(『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』472ページ)。「1917」は、このプロダクションデザイン技術を映画に巧みに逆輸入しているんです。このときぼくは、この映画は背景の情報を読み取ってストーリーを補助的に読み取る必要があると思いました

塹壕の中でも微妙な変化があり、司令所付近にいた兵士たちはタバコを吸ったり、コーヒー片手にパンを食べたりする人が目立ちましたが、ドイツ軍がいる前線に近くにつれてそうした兵士が少なくなっていく。塹壕内での緊張感の違いや補給の微妙な違いが見えます。

前線を超え、無人地帯(ノーマンズランド)に入ると、腐るどころか白骨化した人や馬の死体がいくつもある。伝わるのは、戦闘の長さです。

主人公らはさらに進み、敵軍の塹壕に潜入するのですが、標識に書かれたドイツ語、土嚢の積まれ方や塹壕の高さ(深さ)の違いによりドイツ軍の塹壕に入ったのだと視覚で一発でわかる。しかも、ドイツの塹壕は、下部をコンクリートで補強されていることから、長期化した戦闘であることはもちろん、イギリス軍よりも経済的に豊かに戦争できていることがわかるわけです。

他にも、枯れた木々(第一次大戦が生み落とした兵器である毒ガスの影響と思われる)や、市街地に掲げられたフランス語の看板などから、第一次世界大戦の凄惨さとぐちゃぐちゃ感を視覚から味わせられる。従来の戦争映画ならば、戦争の状況を冒頭のテロップで説明することがよくあった。無くても、台詞で説明するのが定石です。この映画は、全編ワンカットというただでさえ困難な手法で作成しているにもかかわらず、状況変化を背景のみで伝え、また第一次世界大戦の様相を前提知識が無くとも理解できるようになっているんです。

緊張感の正体

ワンカット(≒リアルタイム映像)の恩恵がもう一つあります。

主人公らがいるのは、戦場です。いつ戦闘が始まってもおかしくない。そして、補給がない状態で進むわけですから、仮に戦闘に遭っても弾薬を節約しないといけません。なるべく敵に見つからずに目的地に向かうのがベストです。

メタルギアというゲームをご存知でしょうか。アクションゲームで、「1917」と同じような状況(見つからずに進む)を強いられる作りになっているんですけども。ゲームはプレイヤーが操作してミッション完遂を目指すものなので、主人公の体験をリアルタイムで体感するという面で「1917」と似ています。戦闘に遭えば、限られた装備で敵と闘うか、ダッシュで逃げるかという選択をしなければなりません。

「1917」の中でも、敵に見つかるというアクシデントは突発的に起こり、どう切り抜けるか苦心する姿が描かれます。ゲームと違って、銃で一発でも撃たれればアウトですし、コンティニューはありません。いわゆるオワタ式プレイ(しかもRTA)を極上の映像を通して体感できる作品なんです。

ゲームの本質は、主人公の体験=プレイヤーの体験となるような感情経験にあると思っています。ゲームを操作して主人公を動かすわけですから、感情移入するという意味では最強のメディアなんですね。「1917」はそんなゲームの持つ良さも兼ね備えていて、主人公が強いられる緊張感をほぼロスレスで体感できるように仕上げられているんです。

不安を払拭するバランス調整

背景の情報量が多いことやワンカットによる緊張感・臨場感が傑出していることを述べました。ここまで書くと引いてしまう方もいるかもしれません。作品についていけるのか?と。

ぼくも背景を読み取るのに必死で、字幕はほぼ読めませんでした。英語のリスニングも得意でないので、ストーリーを追いかけられるか正直不安でした。

しかし、その不安を拭ってくれたのがシンプルなプロットと音楽でした。「味方軍の攻撃中止の命令を伝えるために、別の前線に向かう」というのがメインプロットで非常にシンプル。その間にある台詞は、主人公らの気を紛らわせる軽い会話。あとは敵に見つからないよう黙っています。映像だけ見ていればストーリーが分かる作品です。また、それを補強するように、音楽が良い。状況説明と登場人物の感情とが調整された繊細な音楽が描写理解を助けてくれます

このように、全体のバランスがいい。丁寧さを何十回も繰り返して作られたような珠玉の映画が本作なのです。

鑑賞後には、よくこんな大戦を2回もできるな人類、ときっと思ってしまうことでしょう。

余談ですが

ここからは余談ですが...

本作には要所要所でイギリスの豪華な俳優が登場し、主人公らを導いたり立ちはだかったりします。映画に更なる深みを与え引き締める(ある意味安心させる)演技にはただ感服です。

なんですけども、鑑賞中にちょっと頭によぎったことがありまして...

本作ってワンカット作品じゃないですか。だから、主人公らが進む先にいる豪華俳優陣って、主人公が到着するまで出番を待っていることになるんですけど(実際には何度かカットしているのでそんなことはないのですが、それは措いておき...)。

これってなんかガキ使(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!)の大晦日スペシャルに似ているんですよ笑。ダウンタウンら芸人たちを笑わせる刺客として登場する豪華ゲストたちも、ダウンタウンらが来るまで出番を待機しているので。

なんか過酷な作品の「1917」の舞台裏を想像して不覚にもほっこりしてしまったんですよね。そんなこと思うのは日本人だけでしょうけど笑。

ガキ使も全編ワンカットで作ったらどうなるんでしょうね...更に面白いのか、ただただ疲れるだけなのか...

24時間はキツすぎるので、映画と同様2時間の尺でちょっとやってもらいたい。

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