自動車開発の思い出 その17(鈴鹿)
鈴鹿サーキットでの研修は?
鈴鹿サーキットがらみの記事です。
テストドライバーとしての社内研修はもちろんあります。
テストコースの説明はもちろん、機密保持、話を聞く姿勢から、サーキット同様のフラッグの意味や吹き流しを見ての風速の把握。緊急時の対応やハンドルの持ち方、マシントラブルの知識まで。
後部座席に新人指導の担当が乗り、一般道や高速道路を走行しながら悪い点は矯正されます。
研修での運転技術や態度、行動の癖なども鑑みて配属を決めるのでしょう。
それが終わると配属も決まり、いよいよテストコースの走行が認められます。しばらくはもちろん助手席に先輩が乗って、モード(走り方の決まり)に沿って一から十まで教え込まれます。
同期入社はH君だけ。お互いに車に興味がありますからすぐに仲良くなりましたが、何とも調子が良い奴でした。
ある程度慣れた頃を見計らって、いよいよ鈴鹿サーキットでの研修です。
当たり前ですが、自力で指定された日時にサーキットに集合。
メーカーの技術者も来ますからかなりの大人数で、試作製造の人や設計、テスト部門等など、開発に携わる人が日本中から集まるのです。
どういう配分かは分かりませんが、7~8人のグループに分かれてローテーションで訓練や研修を受けます。走行で言えば、鈴鹿サーキットのフルコースを使っての走行。車両は市販車ですがテレビでしか見た事のないコースを実際に走るので、それはもう胸は高まります。
事前にコースの注意点や危険個所のブリーフィングを受けて、ピットに向かいました。
走行前には毎回点検します。灯火類、エンジンオイルやクーラントの量、タイヤの目視点検等です。
これも大切なのは、ドアミラーやルームミラーの調整。昔、テレビで中嶋悟氏が市販車に乗る映像を見た事がありますが、自分が最も確認し易い角度に細かく微調整してから乗り込みました。
自分もそうしていましたが、「さすが中嶋!(さん)」と思いましたね。
学生時代からライン取りも考えながら走っていたし、限界走行する訳ではありません。ストレートでも最高で150km/h出ていたかどうか…市販車ですからね。
それでも、複合コーナーの1/2コーナー、立体交差、ヘアピン、デグナー、スプーン、カシオトライアングルを実際に走っているのです!
コーナー前のブレーキングやライン取りを考えながら走ります。もちろん、車両のタックインの癖も少しずつ確認しながら使っていきます。
調子に乗っていきなりフルに活かそうとして、コースオフでもしたら大変ですからね。
ちなみにタイムは計らなかったと思います。ラップタイムを計測するとどうしても競ってしまうからでしょう。
何週か走ると皆さん慣れてきて、心に余裕が出来て来ます。数日同じ釜の飯を食べたり、雑談したりして仲間意識も生まれています。
それで、メインスタンド前で交代の順番を待ちながら見ている人達に、何人かが手を振りながら通り過ぎていきました。見ている方も「がんばれよ~」という気持ちで手を振り返しました。
いい連帯感だと思っていたのもつかの間、ドライバーが戻ったら教官が「今、運転しながら手を振った奴は前に出ろ!」と激怒。
前に出た数人は、その場で腕立て伏せ数十回。まぁ、昭和の時代はこんなのは良くありました。遠い昔ですから、今はないでしょう。
要は”運転時はそれくらい気を使え”という愛のムチですね。
それがあってから、次はだれも手を振らなくなったのです。
研修はちょうど6月の終わり頃。私たちの走行研修が終わるのを待ちかねていた、鈴鹿8時間耐久ロードレースの練習走行が始まるのです。
そこで凄い物が見られました。
次に続きます。