台風被害の思い出
台風で川が氾濫、通勤は?
ノロノロ台風で大変な事になっています。それで思い出したのが、テストドライバー時代の台風の思い出です。
テストコースは田舎にあるので、周りは自然豊かな環境です。と、いう事は河川整備も進んでいない訳です。テストコースの選定には周りの住民の事や自然環境も考えながら、自治体と交渉しつつ進めます。「自分の土地だから、どうしようと勝手だろう」という訳にはいきません。
仕事には車で向かうのですが、大型の台風が上陸した事がありました。台風は通り過ぎたのですが、テストコースの近くを通る、中くらいの川が氾濫した事がありました。
写真はレンタルフォトですが、この状態での走行は危険です。
このような時は、大雨でいつも氾濫する付近の道路はもちろん、抜け道的な細い道を通るのは避けた方が良い。理由は、対面の片側一車線で反対車線が渋滞していたら逃げ場はありません。そのまま水かさが増えると水没してしまいます。
雪道でのスタックと同様で、前の車一台が動けなくなると逃げ場がありませんから、動けた車も水没してしまいます。
ガード下のアンダーパスでの水没も、前が詰まっている状態で動きが取れずにどうしようもなく…という場合が殆どです。
そのような事態を避けるために大きな道を選んで走るのですが、それでも案の定、渋滞に当たりました。その当時は少し車高が高めのマニュアル車に乗っていましたが、停止すると車の腹下まで水があり、「チャッポン、チャッポン」と底に波打っている音が聞こえました。
大雨や台風となると、必ずテレビ局の取材班が「画になる」場所や映像を探し回ります。インタビューもしますが、局の伝えたい内容に沿ったコメント以外は採用しません。
必ずあるのが、ボンネットまでの冠水をかき分けながら突進する車の映像。これは冠水が深ければ深い程、上司から「おぉ、○○いい画撮ったな!」と褒められる。
その映像を見る度「車の事を何も知らない」と思うのです。
車で走っていい水位は最高でも車の腹下までです。それにはちゃんと理由があり、そこまでなら車内に水が入らない構造になっているからです。車を少し知っている人なら、エアクリーナーボックス内への水の侵入を気にするでしょう。では、車が動くにはエンジンだけでいいのでしょうか?という事です。
位置的に言えば、エンジンには補器類といって、エンジンを動かすのに欠かせない部品が付いています。例えばオルタネーターですが、発電してエンジンに電気を供給する重要な部品。この中には発電を制御する電子部品が組み込まれています、そこに水が入ればショートする可能性があります。
もう少し高い位置にはエンジンルーム内にレギュレーターという電子部品が取り付けられている事もあります。レギュレーターは部品が非伝導シリコンで埋められているので内部には水は入りませんが、配線のカプラーに水が入る可能性があります。
その時は冠水をかき分けて進んでいるかも知れませんが、しばらく走るとそのような部品に水が浸入してショートしてしまう事があるのです。
また、構造的に腹下までは車内に水が浸入しない構造になっています。それより水位が高くなると、高級車はドアの下部にゴムのモールが付いていて、遮音性を高めるようになっていますが、密着していますから水もある程度は浸入を防ぎます。
でも、車は密閉性が高いように見えて、他の隙間からも意外と外気が入るのです。
例えば、エアコンの配管の穴は車高の中くらいの位置ですが、IN/OUTの配管を通す穴があり、一応はゴムのグロメットで塞がれていますが、防水ではありません。
ECUは多くの場合は座席の下とか、コンソールボックスの裏あたりに取り付けられていますが、車内に水が入るとそれらの機器は使えなくなります。
多くの場合は大きな道路には大きな歩道があり、一段高くなっています。車の構造を考えると、場合にもよりますが、いざとなったら車を歩道に一時的に移動するという事も考えていいと思います。
もちろん道路交通法ではご法度ですが、車の故障での交通障害、交通状況や歩行者、周辺の住宅状況等も鑑みての非常手段です。歩道は車道より20cmは高くなっていますから、水没を回避できる事もあるはず。
基本はそのような天候や状況ならば家を出ないか、高台に移動しておくのが筋です。現在では、悪天候の場合は出社を控えるという考え方が広まってはいますが、どうしても移動しないといけない場合もあります。
冠水での走行は別の意味でも危険性が高まります。ブレーキパッド/ブレーキシューとブレーキディスク/ブレーキドラムが水が浸かり、制動性能が大幅に低下します。
もう一つあったのが、大雨で小さな川沿いの道を通った時に、予想外で道路が冠水していた事がありました。川が氾濫した訳ではありませんが、雨水がその低い場所に流れ込んで来ていたのです。ちょうど青信号だったのですが、走って行くとクラッチに水が浸入してジャダーが起きました。「ここで止まったら、動かなくなる」と、クラッチを上手く操作して、ジャダーをごまかしながら通り抜ける事が出来ました。
走行テストを終えた車は、完全に分解して部品を検証します。そのような経験があるからこそ、場合によっては超法規的措置も考えるようになりました。
車の構造を良く知っている事や運転技術の高さで、いざという時の危機を乗り越えられる確率が高くなると思いませんか?
この土砂崩れでは不幸中の幸いで、負傷者は出なかったそうです。
一瞬の判断で生死にかかわる事もありますから、冷静に対応したいものです。
おそらく、このような事まで考えて運転しているドライバーは殆どいないと思います。その時にはこの記事を頭の片隅に置いて走行して下さい。
状況が厳しい程、その人の持っている資質が発揮出来るのではないでしょうか。
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