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工芸品と能登 @ある金沢の夜

2024年も終わりに近づいてきましたね。
先日、金沢に行ってきました。

足を運んだのは「CRAFEAT」。石川の伝統 ”輪島塗”で最高の食体験を、というコンセプトで、金沢おでん盛り合わせや加賀野菜金時草のポテトサラダなど、石川県の食材を楽しめるラインナップがあります。コース料理では、輪島塗漆器など工芸品に合わせて、料理を楽しむことができます。

印象深いことがあったので、
そのときのことを書いてみようと思います。


『石川の伝統 “輪島塗”で最高の食体験を』(CRAFEAT公式サイトより)

CRAFEATは金沢駅から車を11分(歩いて30分ほど)走らせた片町地区の近く、金沢市木倉町にある。このあたりは金沢城や兼六園も近くにある中心街のひとつ。金沢駅通りの太い道を脇道に逸れると、小明かりが灯る飲食店が訪れる人を迎えてくれるのですっかり心も躍ってくる。

金沢の夜。立派な造りの建物も並ぶ。

階段を登って席に着くと、カウンターが数席。
正面はガラス張りで雨降りの金沢の町を見下ろすことができた。

それぞれの席に、水引があしらわれたお手拭きと輪島塗のスプーン(早速)、
お箸が丁寧に並んでいた。
学生にはいかんせん高級感が身に余っていたのでドギマギしていた。

よくみるとお箸がキラキラしている。
貝殻をつかった”螺鈿“という技術が用いられている。

最初のお食事は輪島河豚の茶碗蒸し。
たまごの優しい口当たりが緊張をほぐしてくれた。カウンター越しに並ぶ漆器の静かな光沢で、すでにお酒を一杯呑んだようないい気分である。

「コース料理の最初は茶碗蒸しって決めてるんですよ。」
もぐもぐと無心で食べるわたしに、話しかけてくださった。
「お客さまの口がまだお食事に馴染んでいないはじめのうちに、漆器のよさを感じてほしいと思っているんです。」

たしかに、木のスプーンはちょっとやさしい。食材に馴染む。普段使っているステンレス製と比べて、たまごの柔らかさがすんなり口に入ってくる感じがした。見た目の美しさはもちろんなのだが、やはり工芸品。実際に使ってこそ、真価を発揮するんだなぁ、と思う。

他にも、県産野菜の前菜、お刺身や能登牛、フライド加賀蓮根、焼き茄子のにゅうめん。。。季節によって旬物が入れ替わるが、メニューは大まかに下の画像のような、圧巻の石川のいいもの大集合といった感じである。

公式サイトより

お食事の最後は、甘いもの。
「生チョコレートは職人が漆を塗るときの粘度を意識してつくりました。ひとかけら掬うたびに塗り師を思い浮かべられるでしょう。」と。

た、たしかに。。感動。。

チョコレートが載っているこの器は、中が空洞になっている。普段はひっくり返した状態で使われることが多いという。だから、底の部分は傷がつきやすいし、目につきにくい部分。それでも、決して職人は手を抜かない。そんな職人のこだわりも感じてほしいとあえて逆さにして提供するのだという。

口に入れるのは甘味だけど、輪島塗の赤黒が痺れる品位を演出していた。

石川県の食材、調理技法、そして伝統工芸品をこれでもかというくらい楽しむ時間。目で見て、耳で聞いて、もちろんおいしい。五感がフル回転した食事体験であった。

「それぞれのベクトルで届ける」ということ 

印象に残ったやりとりがある。

濃厚な麹味噌に包まれた能登牛が提供されたとき、どっしりとした器が目に入った。「それはね、珠洲焼だよ。」と教えていただいた。

珠洲焼は、平安時代末期から室町時代後期にかけて珠洲市を中心に能登半島の先一帯(現珠洲市および旧内浦町)で生産されていたもの。長らく存在を忘れられていたが、60年ほど前に釜が発見され、いまも研究と製作が進められている、ロマンたっぷりの焼き物なのだ。※ 参考はこちら

とろとろ

珠洲といえば、今や心に浮かぶのは震災・豪雨の状況である。
自分は大学3年の夏に一度だけ、大学のプロジェクトで3泊4日したことがあるのだが、そのときに目にした美しい光景が忘れられない。奥能登国際芸術祭で展示されていたアート作品も印象的だった。

能登半島最先端にある、禄剛埼灯台。青空に映える白。
芸術祭のために、切り抜かれた天井部分。

珠洲のことが気になっていると、ボソッと呟くと
「行ったほうがいいよ」
と声をかけてくださった。
「自分も能登のことが気になって、食材の調達も兼ねて度々足を運ぶんだけど、復興はまだまだ時間がかかるとおもう。腰を据えて10年単位でやっていかなくちゃいけないと感じているよ」
極上の料理を届けてくださっている方の言葉には重みがある。

でも、わたしは、、、
「去年、開催されていた芸術祭にいくか迷って、結局就活やらもろもろの理由で行けなかったんです、、」

文字に起こすのも恥ずかしいような、弱々しい言葉しか出てこない自分に、
「学びになったんじゃないですか」
「人生なんてあのときこうすればよかったの連続ですよ。それを積み重ねていくと、なんとなく「今だ」っていうのがわかるようになるんです。だから、今思い至ったなら向かえばいい」と励ましの言葉をくださった。

神妙な面持ちでうなづいていると、さらに続けて、
「いろんな人に、能登に行ってほしいと思っていますよ」と。

なぜかというと、同じ場所に行って、同じものを見たとしても、感じることはその人によって違うから。いろんな角度からいろんな人が能登のことを考えることで、これまで届いていなかった人に刺さる。腰を据えて被災に立ち向かう必要があるからこそ、小さなベクトルが断続的に向かい合うことに意味があるのだ。

帰りがけに見かけた居酒屋の看板。

ストンと腑に落ちた。

自分のできる範囲で。
でも、歩みを止めずに。
考え続けたいと思っている。

そんな金沢の夜。

※ ちなみにボランティアの募集があるようです(きっと他にも色々ある)


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