記憶の中の風景(29)
東京体育館のトレーニングルームに半年近く通うと、それなりに筋力も付き体重も減った。丸ちゃんに半強制的にエントリーさせられた11月の横浜マラソンまで半年しかないので走るしかない。
トレッドミルでしか走ったことがないボクは試しに家の近所を走ってみることにした。しかし走る格好をして外に出るということだけで恥ずかしい。走れもしないのに格好だけ一丁前のランナーになったボクはとにかく早く帰りたいと思った。
速度設定できない路上を走るので、どのくらいのスピードで走って良いのか分からない。我武者羅に走っては立ち止まり荒い息をする。その繰り返しを三回やったら嫌になった。
普段歩いている道を走るのは不思議な感覚で、街の風景が新鮮に見えた。二回目以降はゆっくり走ることを心掛けたので、空の青さや鳥のさえずりに気付き、路傍に咲く花に季節の移り変わりを感じるようになった。
百日紅の花が散り、金木犀の花が香る頃になるとボクはゆっくりだが5kmだけ走れるようになった。時間は掛かるが40歳になっても人間は成長するのだ。
つづく
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