推し活したらゾンビの甥が人魚になった話
訳あって画像は無いですが、内容はあります。
私の家族であり、友であり、推し活仲間にまでなった甥は、全介助の車椅子生活。
自称ゾンビ。
そんな彼がついに人生初の推し活をしにバスケットボール観戦に行きました!
大阪エヴェッサvsサンロッカーズ渋谷 12月7日のGAME1
色々とありまして、席は選手ならびに来場者、そして甥の安全の為にゴール裏に変更。
本来は選手と目と鼻の先の席なんですが、私も介助しながら選手の動き(真後ろを通る)のに気をつけないといけない。
しかも甥の手が無意識に選手通路側にいってしまうので、悪気なくお触りしてしまう(選手は背が高いのでお尻ではなく腿あたり)
だから、離れた席にしてもらえて助かりました。
さらに、介助者は車椅子の後ろに待機ところ、ここなら隣に座ってもらって構いません!と配慮してくれて助かりました。
選手と接触なく関係者通路へも入れて私も安心でした。
車椅子で選手轢いてもたら士道不覚悟で切腹もんですからね。
大阪エヴェッサのスタッフの皆様、忙しい中手を止めさせても笑顔で対応してくださって本当にありがとうございました。
トイレも済ませ、急いで遅くなったお昼ご飯を甥に食べさせる。
2番目の姉一家が少し遅れて入場し、ジュースや私のお昼を買ってきてくれてとても助かった。
ちょうど目の前で姉の推しの田中選手がストレッチしていたので伝えると「この席めっちゃいいやん!羨ましい!」と大興奮。
甥はドヤ顔。
姉は人生で1番推しの田中大貴選手に近づき、空気を堪能して自分の席に戻っていった。
さて、私たちにはミッションがある。
最後の2つは試合に飽きないようにの母心からのミッション。
田中選手がいつもOS-1でこまめに水分をとるので、水分は「田中選手がOS-1飲んだら、一緒にジュースを飲む」ルールを徹底。
最初はうっかり忘れたりもしたが、そのうち田中選手がベンチに向かうと自動で口が開くようになった。
なるほど。
これが、パブロフの犬か。
試合を見ながら、甥はお昼の蒸しパンもしっかり完食。
パン1つ食べるのに1時間かかるんですよ、池の鯉が聞いたらびっくりですよね。
当初気にしていた音や光の演出も平気だったようで、準備していたイヤーマフも使わなかった。
今の所、順調。
一安心して伸びをしたら隣にミャクミャクがいた。
アリーナが万博会場の隣なんですよね。
普段の甥ならすぐにそっちに気持ちが行ってしまうところ、無視。
「ミャクミャクいるよ」
と言っても「うん」とだけ言ってコートを見つめる。
正直、集中力がもたないと思ったんです。
人も多いし、子供もウロウロしているし、ゴール裏は迫力がある分、音や選手の顔、声も聞こえ怖がる可能性が高い。
映画館での2時間も耐えれない甥が、今まで避け通した「怖いもの」ばかりの中で4時間は無理じゃないか?と心配だった。
ハーフタイムを終え、3Qに突入。
バスケが1番面白くなる時間帯なので立ち歩く人が減る、今のうちにおトイレを済ませる口実で1回会場の外に出してあげよう。
と、言うのも、口数が極端に減ったので疲れてしまっているのに、引くに引けなくなってるのではないか?と思ったからだ。
「おしっこは?」
「でた」
「今のうちにトイレ行っといたらラスト見れるから、サッとパットだけ変えてこよう?」
私が立ち上がると、甥は不自由な手で服を掴んで引っ張った。
「まだ試合終わってない!!」
「おしっこかえれないよ?気持ち悪いの我慢できる?」
「大丈夫!!」
縋る目がコートに憧れる男の子の目だった。
自分のバカな判断が悔しい。
そうやな、試合はまだ終わってない。
「分かった、最後まで応援しよう」
抜きつ抜かれつの大攻防戦の試合に最後まで熱狂した。
渋谷が勝利を収めて、選手がコートで手を振るのを眺めながら甥が呟く。
「明日も試合?」
「せやで!明日も渋谷が勝つかなぁ!」
「すごかったなぁ〜早かったなぁ。また見たいなぁ」
嬉しい感情の裏に寂しさを感じた。
「ぼく、また来たい」
甥は推しのチームが遠征してきて、体調が良くないと行けない。
推しのチームの渋谷が大阪に遠征する、たった2日のうちの1日に賭けていた。
1年に一度、たった4時間程度しかないチャンスが終わった。
ディズニーの名作、リトルマーメイドをご存知だろうか。
人魚のアリエルが、人間の住む世界に憧れ、プリンスに恋をして、自分の声と引き換えに足を手に入れて陸に行く話。
私は会場で甥の介助をしながら、映画で使われていた曲が頭から離れなかった。
自分のタイミングで飲み食いはおろか、背中が痒くても掻く事も出来ない不自由な体の甥は、こんなに自由にコート内を駆け回る同じ年頃の選手を見てどう思うのか。
きっとこの子に劣等感があればここまで来ない。
こんな体に産んだ親を憎んでいたら、もっと蔑んだ目で見ているかもしれない。
かっこいい、とは言うが「僕もああなりたい」とは思わないのか一切口にせず、まるでシュワルツネッガーの隆々の筋肉を眺めるように「あぁはならないけど、憧れはあるよね」くらいの不思議なスタンスでいる。
憧れ続けすぎて疲れたのか、それともハナから「自分とは別物」と飲み込んで消化しているのか。
それを言語化するのは難しく、本人の口から聞くことはないと思う。
この子といると、自分は何でも好きに出来るのに、動かずにいるのがバカらしくなる。
ぐずぐず言い訳を考え、失敗を恐れて尻込みをするのは愚の骨頂、ちゃんちゃらおかしい。
甥は外の世界も知っているけど、同じ障がい者の人といる方が介助者も近くにいて安心かもしれない。
今までみたいにテレビで見るだけの方が明らかに本人も楽だし、安心で安全。
なんとなく知っている世界をのぞいているだけで充分なのだ。
だけど、
僕もあそこに行く。
不自由な足でどうにか行こうとお母さんを説得し、恐ろしい外の世界に出てきた。
リアル リトルマーメイドここにあり。
そう考えたらディズニーやスタジオジブリの作品は、目線を変えると全く違う作品に変わりますね。
帰宅後、興奮冷めやらぬ甥は密かに田中大貴選手に推し変しようとしていた。
「なんで急に田中選手なんや?」
バァバの疑問に甥は必死に田中選手の凄さを語っていたが、私は魔法の呪文に気がついた。
「田中選手がOS-1飲んだら、一緒にジュースを飲む」
あの徹底したルール。
ははぁん、さては行動を共にした事で親近感が湧いたな。
これがミラーリング効果か。
お前のプリンスはD・TANAKAなの?
だけどプリンス呼びは大貴さんのご機嫌に触れるから今は御法度。
聞こえないように海の底でこっそり呼ぶんだよ、アリエル。
最後に。
試合後にある、選手からのコート一周のお手振りタイム。
どんなに手を振っても気がついてくれない席の私達に、たった1人、わざわざ覗き込んで満面の笑みで手をふり返してくれた選手がいた。
今季、名古屋ドルフィンズから大阪エヴェッサに移籍してきたレイ・パークス・Jr選手です。
献身的なプレイと高いシュート力に定評があり、選手やブースター間でも「人懐こくて優しい」と大人気の選手。
選手は試合で疲れているし、気付かなくても無視しても全然構わないんですが、この特別感が1番嬉しかったです。
ちなみに甥はレイの後からきた可愛いチアのお姉ちゃん見てやがりました。
ちょっと男子〜。
レイは昨シーズン、推しの侑太郎さんのチームメイト。
侑太郎さんに向けられていた笑顔と同じ笑顔を私は今一心に浴びている。
ありがとう、大阪エヴェッサ。
ありがとう、レイ。
そして全てを幸せに導いてくれる全人類の心の太陽、侑太郎さん。
ありがとう。