「本気」と書いて「マジ」と読む映画
普通のSF作品と思う勿れ。
イーサン・ホーク演じるヴィンセントの視線の先には常に宇宙がある。
いや。それ。SFやん?思うでしょ?
ヴィンセントは不適合者だ。
もし適合者だったなら、未来の宇宙飛行士を目指すSFスポ根かも知れない。
約束された宇宙行きが、何らかの原因、陰謀や事件に巻き込まれていくSFサスペンスかも知れない。
それはそれで面白い。行った先の宇宙で事件発生、宇宙人に遭遇、宇宙に取り残される。それこそ星の数ほど話は広がる。
でも彼は不適合者だから、事件は宇宙で起きず、全て地上で起きる。
このヴィンセント・アントン・フリーマンには夢がある!
ギャング・スターになること・・・では無く、宇宙飛行士になることだ。
宇宙には何が広がっているのか?それを見てみたい。これは彼にとって「目標」「夢」「下剋上」そんな生温いものではない。
「覚悟」だ。
死力を尽くし、命を投げ打つ。彼にはそれしか無い。
なぜならヴィンセントは「youは心臓悪いから生きて30年Death」と医師に告げられているのだ。
ちょうどガタカを観ようと思ったタイミングで、私はある本を読了した
オリバー・バークマンの著書「限りある時間の使い方」
ジョジョの5部?って思った方、ハズレやけど朝まで語れそうやね。
本の内容を簡単に言うと、長い目で見たら私らみんな死んでるよね?って本です。
冒頭の「80歳まで生きるとして、私の人生はせいぜい4000週間」とゆうパワーワードが胸に応える。他人事ではない。お前はもう、死んでいる。
図らずも良いタイミングで読んだお陰で、思いが詰まった作品になった。
同僚で不適合者のアイリーン、適正者の弟アントン、宇宙局で身分鑑定をする医師のレイマー。
是が非でも宇宙に行きたいヴィンセントは、彼らを欺くために、適正者のユージーンに成りすます。このユージーンも、スイマーとしてメダルを獲る程の実力者だが、事故に遭い選手生命を絶たれ、車椅子生活をしている。
社会的に死んだ者と、遺伝子的に死んだ者、この2人の終始一貫した成りすましを中心に全ての出来事が気を揉ませにかかってくる。遺伝子で全てを決める社会において、他人に成りすますこと、一寸先は闇。じゃあ生温い。
地獄だ。
周りの人間全てが敵に見え、間、髪を容れず罠に嵌っていく。特にユマ・サーマン演じるアイリーンの意味深い視線に毎回はらはらとさせられる。
職場ですれ違う時の首を傾げて送る視線、初めて体の関係を持った後のベットでの猜疑の視線。噛めば噛むほど味が出る、まるでスルメのような視線の演技は、何を考えているのか全くわからない。目が口以上にモノを言うのだ。
奥歯をすり減らし、心臓を震わせ、嫌なタイミングの尿意と戦い、ユージーン役のジュード・ロウの笑顔は見た目に良いしと、ニントモカントモ感情が忙しい。
だが、最後に下される全員の「覚悟」には声を失くして耳を疑う。
全てはヴィンセントが生涯をかけて見せた「覚悟」の成せる業だ。
どうしてここまで本気になれるのか?
ヴィンセントには、命の短さが常に頭にあるからである。何の弊害も無く生きていると、つい命が有限であることを忘れるし、そもそも考えないで時間を使い続けてしまう。もしくは惜しみ続けてつい時間と戦ってしまう。
限りある時間の中で「いつか」は存在しない、常に今だ。という「覚悟」が必要だ。
ヴィンセントの視線の先には常に宇宙がある。
だが、科学が産んだ未来の話という意味ではSFだが、宇宙の話という意味ではそうではない。
容易なことではない「覚悟」の話だ。