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「大きくなったら俺のお嫁さんなって!」という幻想小説
先月、地元の祭りで妹が帰省し、久しぶりに小学生の甥に会った。
話の流れで甥に
「嫁になってやってもいいで」
と言ったら真顔で
「考えとくわ、お互いにいつまでも1人は寂しいよな」
と返してくれた。
この子、もしかして人生2周目?
可愛い仕草とか、可愛い子供の話を読みながら、いつもハンカチを噛み締めている。
難しいんです、どうかしてる発想の人か、エロいお兄さん以外が。
ちくしょう。
コソ練したったわ。
可愛い小学生の練習書きがあったので、次の小説のお題を入れて仕上げたろ!思ったら2個で終わってボツにした。
お墓をきっかけに始まる、墓場で書いた話なので供養にそっと置いておきます🙏
暇な時間に読んでください。
読み方次第でただの「子供の知恵比べ」「ブラコン小説」「育てばBL」の話かな。
登場人物
・後の同人作家・宗谷充時・ハイパーブラコン弟
・後のプロバスケプレイヤー宗谷有時・エールの方向間違える兄
Special thanks
・ジュテーム
タイトルはありません、思いつかない。
私はバスケ観るんで誰かつけて。
長門家代々の墓
一年生になったばかりの俺、宗谷充時には、どうしても理解出来ない事があった。
お花を入れ替える係を担い、輪ゴムで束ねた仏花からはみ出た菊の枝をぎゅっと握りながら、墓石の字をじっと見る。
「ねぇ、なんて書いてるの?」
「ん?あぁ、長門のばぁばのお家のお墓って書いてるのよ」
「うち、“そうや“だよ?なんでばぁば、名前ちがうの?」
母方の祖母だから苗字が違うだけの簡単な事でも小学生の俺には難しかった。
「お母さんも結婚する前は長門だったのよ?」
「え?なんで?」
「結婚してお嫁に行くと名前が変わるの。お母さんはお父さんの、宗谷のお家にお嫁に来たから名前が変わったのよ」
「ばぁばも?」
「そうよ。ばぁばは長門のおじいちゃんのお家にお嫁に来たから、長門。
そこでみっちゃんのお母さんが生まれて、今度はお母さんが宗谷のお家にお嫁に行って、お兄ちゃんとみっちゃんが生まれたの。
だから、あなた達は宗谷のお墓に入るのよ?」
隣で顔が写るほど墓石を磨き上げた兄の有時が会話に混ざる。
「じゃあ、母さんとばあちゃんは家族だけど一緒のお墓に入れないの?」
その素朴な質問にばあちゃんは「あらあら」と線香に火をつけ、手であおいで炎を飛ばしながら答えた。
「そうね、もうよその子になったのよ、お母さんは」
「お嫁に行くと家族じゃなくなるの?」
「う〜ん、血は繋がっているけど、もう宗谷の家のものになりますって届けてしまうから、簡単にいえばそうなるかな」
線香の火が煙になってゆらゆらと離れて消えていく。
嫁に行ったら家族ではなくなり家を出ていく。
ばあちゃんが長門に嫁にきて母さんが生まれ、母さんが宗谷に嫁にきて兄貴と俺が生まれた。
順番で考えたら、次は兄貴?
小さな頭は大きな不安に襲われた。
「ぃやだぁ!にぃにおよめ行かないで」
今思い出しても狂気のような俺の発想に家族は時を止めた。
墓石を磨いたタオルを静かにバケツの水で洗っていた兄貴は、突拍子もない俺の発言に手を止めて、どうしよう?と祖母を見上げている。
「かぞくじゃないの、ぃやだ!まだにぃにとねるの!」
就学するまで呼び続け、卒園とともに捨てた「にぃに」の呼び方で、俺は墓場で狼狽した。
当時の俺には「お化けがいる日」と銘打った兄貴と同じ布団で甘えて寝る大切な時間があって、嫁に行かれるとそれが霧散する事を恐れたのだ。
少し遅れて腹を抱えて笑い出した祖母と母を困惑した顔で見た兄貴は、タオルをぎゅっと搾って畳んで置き、お気に入りのウルトラマンのハンカチで手を拭いた。
「みつ、にぃにお嫁に行かないよ?」
もう、そもそも論である。
「だって、じゅんばんばんじゃん!行かない!ずっとかぞく!」
「だから“お嫁“には行かないって」
嘘ではない。
婿養子にはいくかもしれないが「嫁」の定義に兄貴は当てはまらないのだ。
「普通は「お嫁さんにする!」でしょ?なのにみつったら!ぁあおっかしい!」
笑い過ぎて涙をぬぐいながら母さんは墓に手を合わせなさい、と視線で俺達を促す。
だが俺は納得が出来ない。
「だって、にぃに“そうや“だから、もうオレのおよめだよね?」
俺のとち狂った発言に家族は動きを止め、なるほど、と母さんが腕を組む。
「はぁ・・・そうか、お嫁になると家族だから、もう家族のにぃには嫁ってことか」
「あぁなるほどね!みっちゃんは年上女房がいいのかしら!いつも一緒に寝てるお兄ちゃんとみっちゃんは夫婦みたいなもんねぇ!」
「えぇ・・・それは、ちょっと」
あの時の兄貴の絶望した顔を俺は一生涯忘れないだろう。
兄貴には隣のクラスに、ミオちゃんという彼女がいて「お嫁さんにもらう」予定があったらしい。
小学4年生にしてすでにまさかのダブルブッキングである。
嫁にいきつつ嫁をもらう、嫁の二足の草鞋の重圧に今度は兄貴が狼狽した。
だが。
「学校行ったらミオちゃんの、家に帰ったらみつの俺になればいいのか?」
折衷案を捻り出せるあたり、モテ男だな、と今でも感心する。
その日の夜から俺は必死になった。
兄貴を嫁に出さないために、夫婦生活を維持しようと思ったのだ。
それには小さな俺なりの大きな理由があった。
我が家は子供と夫婦の寝室を早くに分けていて、兄貴は4歳から1人部屋をあてがわれ、そこに俺が生まれて2人部屋になった。
俺は物心ついた頃から親と寝る発想が無く「夜はにぃにとねんねする」が常識で、毎晩布団を敷いて2人で一つの布団で寝ていた。
だが、平和な日々は続かない。
俺の寝相が悪すぎて2段ベットに分断されたのだ。
子育て経験者はご存知だろう、子供の荒ぶる寝相を。
上下逆さになったり、隣の人を乗り越えて反対側に転がったり。
兄貴は毎晩無駄に体だけはデカい俺に、顔を蹴飛ばされ、布団を奪われ、かけ直しては乗り越えられ、夜中におしっこ行くから着いて来いと起こされ。
理由のない不安に襲われ「お化けがいる」と泣きつかれる。
俺の一方的に幸せな夜は、ある日サイレンの音を立てて崩れた。
兄貴は授業中に全身に蕁麻疹がひろがり鼻血を出して倒れてしまったのだ。
原因は言わずもがな、ストレスと睡眠不足。
でも一言も「弟のせい」にはせず、救急車の中で点滴をされながら「一つの部屋で別々に寝る方法」を救急隊員に相談したらしい。
隊員は驚きながらも「仮眠室は2段ベットでプライベートを保っている」と助言をし、病院に駆けつけた母さんが「大丈夫?」と聞くと「2段ベットがあれば大丈夫」と、ほっとした顔をしてそのまま15時間、昏昏と寝たそうだ。
現役生活11年目に入る今でも「自分の長所は真面目と忍耐です」と、インタビューの度に堂々と胸を張る兄貴を見ながら「俺が育てました」と同時に胸を張れる酷さだ。
忌々しい2段ベットに分断されて以降「お化けの日は一緒に寝る、おしっこは言っていい」の許可を頼りに孤独な夜を超えていた俺に、更なるピンチが訪れたのだ。
俺は兄貴の使う上の段に登って勝手に布団に入り込む強攻手段をとった。
「みつ、約束は?今日はお化けいないでしょ」
兄貴は苛々しながら布団を奪う。
「お父さんとお母さんはふうふだから一緒にねるもん」
「ううん、俺達は兄弟」
「ばぁば、にぃにはおよめでふうふって言った」
「言ってたけど」
「ここはうち、ミオちゃんいない!」
兄貴は困った。
たまに一緒に寝ること自体は構わないが、これを許すとまた二の舞になる。
とは言え、濫りに侵入を拒んで泣かれても困る。
そこでスパダリ兄貴は折衷案を捻った。
「あのね、夫婦は好きだよって言い合うんだよ?それでね、」
「すき」
「ラ、あ、うん、ありがとう。えぇっと、ラブレターとか書くの」
「にぃにはすき?」
「みつは書いてくれないから好きじゃない。お化けの日以外は一緒にねない」
おおかた、ミオちゃんに言われた事をそのまま俺に言っただけだと思う。
だが、それが俺の心に火をつけた。
生まれ持ってのモテ男、女だったら峰不二子の俺の兄貴は手強い。
だが、俺はその兄貴の弟だ。
次の日の休み時間から俺は、兄貴にラブレターを書こうと頭を捻った。
お化けがいると夜毎嘘を吐く事も考えたが、狼少年になってしまうと本当にお化けが出たら兄貴に守って貰えなくなる。
ひらがなを習っている途中だったが、兄貴のおかげでカタカナと多少の漢字までは読み書き出来る。
だが、いかんせん内容が分からない。
隣の席のたっちゃんにとりあえず聞いてみた。
「ラブレター?ちゅーしておっぱいみせてって書くの、ヒヒヒッ!!」
ちゅーは要らない、それにおっぱいは見放題だから参考にならない。
仕方なくお昼休憩に職員室に相談に行くと、珍しく校長先生が出てきてくれた。
朝礼以外で見かけないレアキャラだが、愛妻家で奥さんがフランス人、それが保護者の間で話題になって「ジュテーム」と呼ばれていた。
「ラブレターの書き方おしえてください」
俺の一言にジュテームは両手のひらを見せて、まぁ!とリアクションし、普段は入れない校長室に通してくれた。
「愛を伝えるのは素晴らしいことだ!誰に書くんだい?」
「にぃ・・・兄ちゃん」
「お、お兄ちゃん?」
「はい、兄ちゃんは4年2組のそうやゆうじです」
自分の名札を見せて、俺はふんっと少し胸を張る。
「兄ちゃんがおよめにいかないでほしいから、ふうふでいたい、けど・・・から、いっしょにねるんです。でもオレ、ぼくは、ラブレター書いてないからねてくれないから書きたいです」
ジュテームはこんらんしている!!
「えっと、お兄ちゃんと一緒に寝るための嘆願書を書きたいのかな?」
「?ラブレターです」
「そうか、家族の愛もラブだもんね、それを綴ればレターになる」
「おふとんですきって言ったら、およめには・・・」
「・・・ァアスゥ〜、ちょっと、待ってね。えっと、宗谷君のお兄ちゃんは〜?」
「4年2組のそうやゆうじです」
俺は一旦職員室に差し戻された。
代わりに兄貴が校長室に呼び出され、担任の先生に連れられ中に入っていったが、5分程で出てきた。
そして真っ赤になったほっぺたを両手で包んでふうっと溜息をつく。
「にいちゃん」
でも俺が声をかけてもプイッと外方を向き、校庭に走り出てドッチボールに混ざってしまった。
俺が再びジュテームと向き合ったのは、もう予鈴が鳴る頃だった。
副担任が扉の側で立って、目が合うとほっこり顔で俺に笑いかけ、ジュテームもニコニコしながら「驚かせてごめんね」と麦茶を出してくれた。
どうやら兄貴は上手く大人に話をつけたらしい。
「宗谷君はお兄ちゃんが好きなんだねぇ。その好きって気持ちをそのまんま書けばいいんだよ?」
「それだと「だ、い、す、き」の、4こ?もっと書かないと。兄ちゃん手ごわいんです」
「それは先生もわかる気がする。弁の立つお兄ちゃんだねぇ、塾行ってる?」
「行ってません、市のバスケクラブ行ってます」
「あぁ、背が高いもんね」
「ガードです、おっきいからぁホワードもいいって言われるけど、シュートしたいからガード」
「そっか。よし、大好きなお兄ちゃんにラブレター書こうか」
「はい」
「先生はね、奥さんが大好きだからいつも自作の詩をラブレターにして贈るんだよ。とても喜んでくれるから宗谷君も書いてみたらどうかな?」
「し?」
「国語の勉強にもなるし、放課後に先生からしっかり学びなさい。お母さんにも連絡しておくからね」
副担任を見るとガッツポーズをしてくれ、本鈴に少し遅れたけど担任にも何も言われなかった。
放課後に皆んなより早く詩を学び、帰宅後も宿題を済ませて黙々と机に向かう。
次の日は下校後に図書館で参考資料を探し、机に積み上げ、ベットの中でも兄貴に電気を消されるまで読み続けた。
今思えば、物書きになりたいと思ったのはこの時かもしれない。
きっかけは些細でも、何かの気づきになっていたと思う。
バスケクラブから帰った兄貴は、俺が諦めて真面目に勉強をしているんだと思ったのか、自分も宿題を済ませると声をかけてくれた。
「分かんないとこ聞いていいよ?」
「これよめない」
「ん?・・・待って兄ちゃんも読めない。辞書引いてあげるね」
「じしょ」
「まだみつ出来ないもんね、頑張る人は手伝うよ」
そろそろお気づきだと思うが、兄貴は間違ったエールを俺に送ってしまう事に長けていた。
真面目な懐深さが時に自分を欺く事を、30を過ぎた今でも気付いていない無垢な可愛い人だ。
3週間かけて俺は兄貴に愛の詩を綴った。
これで「すき」をもらえれば夫婦関係を保持し、兄貴と未来永劫、同じ墓でも眠れる。
それに万が一、兄貴がミオちゃんをお嫁さんにしても、家にいれば俺のお嫁さんでいてくれるのだ。
兄貴の誕生日に贈ろう。
途中経過を気にしたジュテームが好きな人には花を贈ると教えてくれたから、毎日のおやつの駄賃を貯めて花屋に走る。
店員さんに「ラブレターとわたすお花ください」と全財産を出したら、ガーベラを3本用意して「きっと上手くいくよ」とかすみ草をおまけした小さなブーケを仕立ててくれた。
およめがもってるやつだ!
母さんの許可を得て、バスケクラブから帰る兄貴を家の前で待ち伏せた。
少し離れた駄菓子屋の角で送迎のトキさんの車から降りた兄貴に手を振ると、大慌てで走ってきて俺を抱きしめた。
「みつ!!真っ暗なのにお外危ないって!母さんは?いないの?」
家の明かりを確かめながら髪を撫でる。
「ラブレター書いた!」
「え?」
「おたんじょうびおめでとう」
この時の兄貴の「おいマジか」顔も一生忘れない。
街灯の下でブーケとラブレターを渡すと、観念した兄貴は溜め息混じりの声で「ありがとう」と言って胸に抱えた。
母さんがブーケを花瓶に活けてくれ、バースデーケーキを2人で食べた。
「夫婦はケーキをお口にアーンし合うのよ」
母の要らぬ入れ知恵に兄貴が渋々「ほら、あー?」と自分のケーキをすくって口元にくれる。
もう金輪際俺を黙らせようと、誕生日なのに健気に言いなりになってくれた兄貴のファーストバイトはフォークいっぱいで、俺は鼻と顎にまで生クリームをつけて一口で食べた。
「もう、クリームついてる」
そのクリームを指で拭って舐める仕草はもう立派な俺の伴侶だ。
「ふふ〜!にぃにすき?」
お誕生日さんの特権のチョコレート齧りながら兄貴は眉毛をハの字にして仕方なさそうに俺を見る。
「にぃにも好きよ」
俺はブンブンと足のつかない椅子の下で両足を振り、今晩はお化けが出ないことを祈った。
後書きになるが、兄貴の生育に良くないと両親も判断し「お化けの日」は毎週火曜日「夫婦の日」は土曜日が設けられ、安眠が保証された。
大人になった今でも兄貴の添い寝がたまに夢に出る。
タバコをやめた人が「夢の中で吸うタバコが美味い」と言うように、何年振りかにこの秋キャンプに誘い、狭いテントで一緒に寝た兄貴の隣は、懐かしさよりも中毒性と征服感があって最高に気持ちが良かった。