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いつから星が好きだったのだろうか

 どんなきっかけで星──宇宙、天体諸々──が好きになったのか。いつ頃から興味を持ったのか。

 これ、自分でもさっぱりわからない。手元に残っている(残してある)最も古い宇宙や星に関係する本は小学校低学年向けの星座の本なのだが、きっかけとなる出来事が思い出せない。

 もしかしたら、最初からないのかもしれない。

 メカ好きになったのも同様なのだけど、こっちは当時物のミニカーという物証(日本製トミカ三菱ランサーターボ)が記憶としっかり結びいているので、恐らく与えられたおもちゃの中で自動車に興味を示したからだと思われる。実際、私のメカ好きは自動車からはじまっている。

 しかし、星に関しては〝これ〟という心当たりがない。

 手元に残っている(残してある)本やポケット図鑑(※1)は、大人になっても十分な資料価値を持つ内容で、特に後者に関しては読み込み度が異常である。
 小学校低学年の頃はむしろ昆虫に興味があって、図書館にあった『ファーブル昆虫記』を原書で読んでいるような子供だった。

※1:昆虫、動物、植物、水の生物、地球と宇宙の五巻セット。A5の半分くらいのサイズ。


 変な言い回しだが、自然に好きだったのかもしれない。ある程度の知識を身につけてからも、天体望遠鏡を欲しがったりプラネタリウムに行きたがったりするようなことはなかった。
 その一方で、高校生の頃にテンプル・タトル流星(しし座流星群の核)の大接近があると知り、寒いのが何よりも嫌いなくせに二月の夜一時過ぎに近所の土手まで一人で自転車を漕いで見にいく、なんてことをしていた。年齢がバレそうだけど、まぁいいか。

 高校生の頃と言えば、これ以前に宇宙や星が好きだということがなぜか周囲に知られていて、図書委員の後輩女子とこんな会話を交わしたことがある。

「先輩、宇宙とか星好きですよね。星座も好きですか?」
「えっと、好きだよ。夏の星座なら大体繋げる」
「じゃあ、このシリーズお薦めです。読んでください」

 こうして日向章一郎の星座シリーズを薦められ、最終的には既刊全巻を読破していた。
 そう、わかるひとにはわかる。コバルト文庫である。同時期に長野まゆみを読んでいたので、いわゆる乙女ゲー系に属するジャンルに抵抗が少ないのは、ここで素地を作っていたからだと思う。

 自分の目はいまある星空を見ていながら、その先に続く想像でしか捉えられない宇宙を見ていたのかもしれない。

 これが根っこだとして、幹や枝葉が妙な方向に伸びたきっかけは明確で、中学生の頃に架空戦記を入り口にしてSFへ足を踏み入れたからだ。国立天文台の3D天体シミュレーターMitakaは公開当時に嗅ぎつけていて、いまは亡き埼玉県立浦和図書館で手に入れた太陽系近傍恒星の図表と照らし合わせて一人宇宙旅行をしていた。

 当時の私のお気に入りは太陽系最外縁部で、まだほぼ球形で描画されていたオールトの雲を飽きもせず眺めていたのを覚えている。この時点ではエッジワース・カイパーベルト天体の研究がいまほど進んでいなかったし、太陽系の各惑星(特に土星)もいまとは異なる部分が多かった。
 残念ながらMitakaをインストールしていたマシンがマザーボードの突然死によって、サブマシンだったLet‘s noteを急遽メインマシンに切り替える措置を行った際のゴタゴタでつい最近までその存在を忘れていた。
 
 Mitakaの存在を思い出したのは、今年の六月に『放課後のプレアデス』(※2)を半ばまで見たときだった。
 国立天文台のサイトを経由し最新のMitakaをインストールしたみたら、オールトの雲の姿が様変わりしていてボイジャー1号、2号も太陽系を離脱しようとしていた。

 
※2:富士重工業(現SUBARU)がスポンサーに付いたGAINAX制作のSFジュブナイル・アニメ作品。最初にこの作品を私に教えた大学の同期ハルサメ氏は「見ていないし、知らない」と答えたら、絶句して目を見開き「え、本当に?」とひと言だけ漏らすという出会ってから最大級の驚愕を示した。以降、ある程度私と交流のある人からは漏れなく驚かれた。この話をすると、一つ記事が書けてしまうのでまた別の機会に。


 最新版Mitakaの情報量は膨大にして精緻で、はやぶさ2やあかつきの位置も特定できるし、そうした探査衛星の姿も綺麗に描画されている。現在の私のお気に入りは、マケマケの軌道までが視野に入る太陽系を俯瞰するポジションで、そこにボイジャー1号、2号とはやぶさ2、あかつきの軌道を表示させた画面である。

 しかも、かぐやをはじめとする月探査衛星のおかげで月面地形がはっきり見て取れるし、火星はマーズ・グローバル・サーベイヤーから積み重ねたデータによる地形図が見られる。半ば想像で描かれた火星地図を見ながら、起伏がどの程度なのか考えていた十代の私に見せたら食いつきが半端なものではないだろうな、と思う。

 というか、国際宇宙ステーション(ISS)からのライブ中継が手軽に見られるようになってから十年近く経っているのだ。特に若田光一コマンダーの放送は毎回視聴していたし、無重量状態(微小重力空間)における挙動については大いに勉強させて頂いた。見事に〝それ〟が知りたかったという点を突いてくるので、興味のある方はYouTubeで『週刊若田』で検索されたし。


 ここまで書いてきてわかってきたが、どうやら私は天体望遠鏡で星を観測したりプラネタリウムで解説とともに星座に思いを巡らせたりするよりも、自分の目で見て自分が──あるいは他の誰かが──思い描いた星の姿が好きらしい。
 さらに突き詰めると、そうして思い描いた空間を体験したいのだと思う。

 本音を言えば、天体望遠鏡は欲しいけど、周囲が明るすぎて家では使えないため、使用頻度に対して全く見合わない投資になってしまうので手を出していない。小説に出す際にあれこれ調べてうっかり本来の目的を忘れそうになったことはあるが。
 
 このところ曇り空続きで全く星空が見えないので、双眼鏡を持って灯りのない堤防へ車で星を見に行く計画が実行できずにいてもどかしい。

 
 Mitakaと言えば、本来の開発目的とは違うので要望を出す気は無いが、地球の衛星軌道を拡大して見られればもっと楽しいのになぁ、と思うことはある。ISSや気象衛星ひまわり、地球観測衛星しきさい(CGOM-C1)、準天頂衛星システムみちびきシリーズの姿もシミュレートしてくれたら、と思う。ISSはGoogleマップで見られるのだけども、私が見たいのは中ではなく外なのだ。周回軌道をトレースしてくれれば最高である。

 あと、地球衛星軌道と言えばロケット打ち上げと軌道投入より、軌道離脱と再突入の様子が見たい。打ち上げと軌道投入中継は見ているけど。再突入シークエンスが大好きなのだ。それだけで一本小説を書いちゃうくらい。
 はやぶさ2のおみやげ(リエントリーカプセルのこと)が今年の十二月に届くはずなので、是非とも見届けたい。


 ん、おみやげ?


 もしかすると、きっかけは星新一の『おみやげ』かもしれない。

 小学校一年生の六月から三年生の九月まで秋田市に住んでいたことがある。父は銀行員だったため住まいは社宅で、子供は上は中学生から下は幼稚園児までいた。歳の近い遊び相手がすぐ側にいたのである。
 社宅内に限って言えば、同級生より二つ、三つくらい上の男子と気が合ったので、よく遊びに行ったり来たりしていた。その際、国語教科書の音読の聞き役になったことがある。それが星新一の『おみやげ』で、記憶にある中ではじめて読んだSF作品である(あの内容を聞かされて、読まないでいられるはずがない)。

 さらに芋づる式に思い出したが、記憶にあるうちで最も古いアニメは何度目かの再放送かわからない『ゼロテスター』と『宇宙船サジタリウス』である。どちらも幼稚園児の頃で、紙工作で似ても似つかぬサジタリウス号やゼロテスター基地を作った覚えがある。しかし、これはメカ方面の系譜なので星に関してはやはり『おみやげ』なのだろうか?

 空想方面は『おみやげ』だとしても、リアルな星空や宇宙とは繋がりが薄い気がする。そして、秋田で過ごした小学校低学年の頃には社宅のベランダで星を見ていた記憶がある。

 これよりさらに昔に遡ると、幼稚園以前になってしまうのだけど、最もそれらしい記憶は札幌に住んでいた二歳くらいのときのものだ。おぼろげながら、父と二人て外食したときに見た夜空の記憶がある。
 なんで覚えているかというと、出掛けたおりに父が(恐らく気まぐれで)ミニカーを買ってくれた記憶とくっついているからだ。トヨタ・ハイラックス(日本製トミカ)という物証も残っている(※3)。ちなみに、何を食べたかは覚えていない。
 もう一つ、札幌での記憶でかつ私がいちばん好きな星座がこぐま座なこととも結びつく出来事があるのだけど、これはやや重たい話になるのでこの記事では取り上げないことにする(※4)。

※3:映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、マーティが両親からサプライズでプレゼントされたあの4WDと全くの同車種。
※4:真面目な話なので軽い気持ちで突っつかないようご注意ください。


 うん、大体良くわからないということは大体わかった。


 はっきりしたのは、星──宇宙、天体諸々──とメカという要素は、私の中では繋がっているということだ。

 昔からそういう部分を一切隠そうとしない人間なので、そこに来て「『放課後のプレアデス』を見ていない」と言えば、この作品を知る人に驚かれて当然だろう。
 二つの要素があってこそ成り立つので、切り離せないのである。

 そんなわけで。

 こういう何となく変な人間なのです。


BGM/茶太「anemotaxis」作詞:interface、作曲編曲:大嶋啓之(『ORBITAL MANEUVER phase 2 : anemotaxis』)


※今回の見出し画像「みんなのフォトギャラリー」よりモリコハルさん作の「夜間飛行」をお借りしました。

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蒼桐大紀
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