はじめてのペルソナと、勘と気合のグロースハック実践ーUXデザイナーの独り言②
こんにちは。
お気に入りの黒いワンピースが無くて散々探しまわって「母さん、僕のあの黒ワンピ、どうしたんでせうね?谷底に突き落とした記憶もないのに」と途方に暮れてたところ、黒い洗濯かごの底部分と同化しているのを発見した、夏の昼下がりの内藤です。あー-----見つかってよかった!!!
さて、前回は「UXデザインとの出会い編」を書かせていただきました。
今回は少し話を進めて「はじめてのペルソナと勘と気合のグロースハック実践編」をお送りします。
前回→https://note.com/trinitydesign/n/n9b29880ee7c7
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月日は流れ、今度は電子書籍アプリを立ち上げることになった内藤さん。
というのも、ある日のこと社長が私の席までやってきて、やおら
「予算あげるから、なんかアプリ事業立ち上げてよ」
とだけ言い放って、自分の席に戻っていったではありませんか。
さあ大変です。現営業元八百屋が新規事業の立ち上げなんかできると思いますか?できねーでしょう。何を言い出したのでしょうね、このおっさんは。
※あとから社長に聞いてみたら「なんか、出来そうだったから」という非常にアバウトな感想をいただきました。
でもまだ若かった内藤さんは素直に「はーい、しょーちしましたぁー」くらいのノリで、アプリ事業の立ち上げと運営に尽力することになります。
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さてさて、なんのアプリを作ろうかな?
一からコンテンツを作ったり集めるのはめんどくさすぎる、じゃない工数がかかりすぎる。会社内にあるリソースを見渡して、すぐできそうなアプリ事業は何かを考えました。
ある日、今度は社長の奥様がやってきて「電子書籍アプリなんてどう?」と提案してくれました。「今のサービスにはマッチしてなくて出せてないコンテンツがあるの」。
それは恋愛マンガやボーイズラブ、レディースコミックetc、女性向けの電子書籍コンテンツでした。
当時はまだスマホアプリ黎明期。マーケットには電子書籍アプリが1~2個だけ、しかも「女性向け」なんてターゲットを絞っているのは一つもありません。
よし、社長!女性向け漫画アプリに決定だ!
社長「君、そういうマンガ好きなの?」
私「いや、全然」
正直、全っっっ然興味がなかった。本来の内藤さんは恋愛要素の無い青年系コミックスがお好きです。
でもこの時は死ぬほど読みました。各ジャンル1000冊ずつは読んだと思います。出社してずっとマンガを読む日々。
まずは自分自身が「作品のファン」にならないとね。
じゃないと、ユーザーが何を望むかがわからない。どんなマンガが売れるのか、どう表現すれば売れるようになるのかがわからない。
本来の自分の趣味嗜好なんてどうでもいい。
アプリ事業立ち上げで私がまずはじめにやったこと。
それは「女性向けコミックが好きな20代~30代の女性」になりきること。
つまり仮面(ペルソナ)を被ることでした。
※ペルソナなんて言葉を知るずっと前の話です。
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大変な紆余曲折がありましたが、3か月後にはちゃんと「電子書籍アプリ」が立ち上がったので驚きです。
そして、その数か月後には社内のサービスで2番目の規模まで急成長させました。
なぜ、新規事業ど素人の内藤さんにそんなことが可能だったのか。
まずは例のUX課長さんがブレーンとしてついてくれた、これが大きかった。
そしてもう一つ。「予算だけもらえて、全部自分で決定できた」ことが大きいのではと思っています。
もちろん足りない部分は社内外の色々な人にお手伝いいただきますが、コンテンツ収集・アプリ集客・企画・設計・運営まで、基本は全部ひとりで進めます。意思決定は私だけ。
毎日毎日アナリティクスツールやユーザーの反応を見ては「これが悪いのか?」と仮説を立てて、改善策をすぐさま実践。
ダメだったらすぐ止めて次の策を実施。
「これ、やろう」と思ったら5秒後には実施に向けて動くことができます。
なに?煩わしいプレゼンや承認?全部スルーです。だって私が一番えらいんだもん。
今思うとこれって「グロースハック」ですよね。当時はそんな言葉ありませんでしたが。
数年後、このアプリは会員数80万規模にまで成長しましたが、残念ながら途中で成長が頭打ちになってしまいました。
社長とアプリの将来について話し合った際、大きな方向性の違いが出てきたことなどもあり、私はこの事業から手を引き、転職することになります。人生で初めての大きな挫折です。
今思えば、この時の私にもう少し知識や経験があればよかったと思うこともありますが、逆に知識や経験がなくて「恐れ」がなかったからできたのだろうなとも思います。
もう一度同じことやれって言われたら・・・こわいから超やだー。
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さて、このアプリ開発はほぼ一人だったということもあり、システム開発の面倒も自分で見なければなりません。
書いたこともない画面体系図やシステム要求。なんとかエクセルにまとめては開発会社の人に伝えようとします。でも、まー伝わりません。
「これ、そういう意味じゃなくてこういう意味です」
「あ、それ、そういう実装にしたんですか・・・なんで?」
「そこ、こちらで考慮しないといけないんですね」
強制的にシステム開発に関わる業務が多くなっていく中で「要望を伝える」のって本当に難しいんだなと思いました。
でも、なんで難しいんだろう?
考えた末「私に、エンジニアリングの知識が無さ過ぎる」からだと。彼らとの共通言語が無いんだと、そう気が付きました。
これは早急に、エンジニアリングの知識を身に着ける必要がある。開発分野に大きく興味を惹かれ始めました。
それに、システム開発領域は少なくとも私が生きている間は盛り上がりこそすれ、廃れることじゃなさそうじゃない?今から身に着けておけば食いっぱぐれることもなさそうじゃない?
とはいえ、「システム開発に詳しくなる」にはどうすればよいのだろう?
今からPGを覚える?間に合うのか?私にできるのか?他になにか方法はないのか?
日に日に、私の開発分野への興味関心は高まりました。
それは前向きな気持ちではなくもっと後ろ向きな、言うなら「焦燥感」に近かったと思います。
エンジニアリングを知らないことへの焦り、危機感、恐怖感。
このままだと、私は時代に置いてけぼりにされてしまう。
「御社内に、プロジェクトマネージャーが必要ですよね」
ある日、開発会社のSEさんがそう呟きました。
「プロジェクトマネージャー?」
「システム開発をマネジメントする専門職ですよ。今は内藤さんが気合と根性でなんとなくこなしてますが、本来は専門で立てた方がいいです」
プロジェクトマネージャー。システム開発をマネジメントする専門職。システム開発を俯瞰で見渡す人。エンジニア達と一緒にシステムを作る人。
「・・・なるほど!」
こうして私はもう一度転職を決意します。
本音を言うとWEBデザインがやりたかったのですが、なぜか本能的に「デザインやる前にきちんとプロジェクトマネジメントを学んでおいた方がいい」と思い込んでいたのですね。
なので、ガッチガチのSI企業にプロジェクトマネージャーとして転職しました。
結果的に、この思い込みは大正解だったと思っています。
ですが、これは人生で一番きつく、辛い時代の幕開けでもありました・・・
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・自社コンテンツのファンになる
・ターゲットのペルソナになりきる
・PDCAを高速で回す
現在ではあたりまえすぎて、何かの記事に出したって読んでて欠伸が出ちゃうような内容だと思います。
知識・教養としては、ね。
さてさて、じゃあちゃんと実践できている企業は果たしてどのくらいあるのでしょう?
この当時は20人程度の小さい会社でした。
その後、転職を繰り返して企業規模が大きくなるにつれて、給料はどんどん上がっていきました。
その引き換えにどんどん自由でスピーディな働き方ができなくなってしまいました。
拝啓
日本の企業の経営層様、マネージャー様、予算管理して決済権をお持ちの色々な立場の皆様。
ユーザーを理解するための工数、ちゃんと確保してあげてますか?
提案・実施の際にしちめんどくさいプレゼンや承認フローをかませてませんか?
ペルソナやグロースハック、いえそれ以外にも、たくさんある数多のビジネス手法、スキーム、フレームワークを。
どうぞ「知識・教養」で終わらせないようにしてあげてください。
次回→https://note.com/trinitydesign/n/n24b2286306fa
◆◆◆はじめてのペルソナと、勘と気合のグロースハック実践編 完◆◆◆
内藤亜由子
UIUXデザイナー/サービスデザイナー/人間中心設計専門家
アプリ事業のディレクターを経験後、SIerに転職しシステム開発・ソフトウェア開発のマネジメントと開発実装に従事。その後、UXデザイン・デザイン思考など「広義のデザイン」と出会い、UIUXデザイナーに転向。再転職したBtoB事業会社ではシステム開発のマネジメントとともに、デザインチームのチームビルディングを担当、開発組織へ「デザイン遺伝⼦」をインストールする。担当したHR系サービスにおいて、グッドデザイン賞を受賞。
現在はUIUXコンサルティングや、DXDキャンプでデザイン思考の講師を務めるなど、「UX翻訳家」として実務と⾃⼰研鑽をし続けるHCD専⾨家。