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【 感想文 】死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びに連れていく話。【 途中からネタバレ含 】



タイトルにも書いた通り、本noteは第8回ネット小説大賞受賞作品「死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びに連れていく話。」(以下「この作品」と表記)の感想文である。

また、途中まではネタバレを含まない文になるが、「ここからネタバレ含みます」の注釈以降はネタバレを考慮しない文章になる。

以上を踏まえて、皆様にはこの先を読み進めていただければと思う。


~目次~


1、私とこの作品の出会い

2、ネタバレしない範囲の感想

3、ネタバレを含む感想

4、最後に


【 私とこの作品の出会い 】


私がこの作品を知ったのは、作者である星火燎原様のとあるツイートが私のTLまで届いた事がきっかけだった。
その当該ツイートがこちら。

https://twitter.com/seikaend/status/1363057373682618368?s=19

結構な勢いでバズっていたのでもしかしたら目にした方もいるかもしれない。プロの仕事すげー、のような感想が多くリプライされていたのを朧げながら覚えている。

しかし私が食いついたのは、そのタイトルと帯に描かれた設定の方であった。

「この作品間違いなく面白い」

普段から本屋で平積みされている作品を漁っている、ミーハーな私はそう直感した(これを良しとするかは人によって意見が分かれそうだが)。


その後しばらく忙しくなる事が分かっていた為、今回は電子書籍で購入し、仕事の合間を縫って読み進めた。

結果として先の直感は当たる事となる(勿論ネット小説大賞受賞作品が面白くなかったら困るのだが)。

読み終わるまで合計で3時間。

そして読み終えた私が最初に感じたのは、

「この作品は対比が美しい作品だ」

というあまりに短い感想であった。


【 ネタバレしない範囲の感想 】


まず、ネタバレにならない範囲の話をしよう。


これは私の持論だが、良い作品は出だしが良い。

有名作品であれば川端康成氏の「雪国」が最もわかりやすい例だろう。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」で始まる名作である。


https://www.amazon.co.jp/dp/4101001014/ref=cm_sw_r_cp_apa_glt_i_9FH2MP18Z4Q4ADWH1XRG


近年の作品で挙げるならば、私は是非「僕のヒーローアカデミア」を推したい。

本誌新連載開始時の折、私は一話を読んだ時点で大ヒットを確信した(今言うのは卑怯ではあるが)。今ではえも言われぬ少年ジャンプの看板作品の一つである。

https://www.amazon.co.jp/dp/B091SNBTCD/ref=cm_sw_r_cp_apa_glt_i_N47HZCNAXGQAY6PABZ2V


翻って、この作品に話を戻そう。

この作品は例に漏れず、出だしが良い。即ち、私の持論に沿って言えば「良い作品」である。

より正確に言うならば、1ページ目の完成度がとても高い。というのも、1ページ目でこの作品が辿る道筋を綺麗に示す事が出来ているからだ。

とはいえ本の内容を無断で複製(コピペ)するのははばかられる為、内容を確かめたい方は是非御一読頂きたい。


https://www.amazon.co.jp/dp/B08X1Y69SZ/ref=cm_sw_r_cp_apa_glt_D8QPRGV5889X2N71907C


続いて、先程述べた「対比が美しい作品だ」についてネタバレを踏まえて話して行こう(ここからネタバレ含みます)。



【 ネタバレを含む感想 】


まず「対比が美しい」と思った具体例を挙げて行こう。
その最たる例は、主人公:相葉とヒロイン:一之瀬の立場である。


相葉は当初、「死にたがりな少女」であった一之瀬が自殺しないよう尽力していた。しかし物語中盤でその目的が達成されると、今度は青葉が「死にたがり」になってしまう。

そしてその解決策こそがウロボロスの時計であった。このウロボロスの時計もまた、相葉に1つ、一之瀬に1つと対比構造が為されている。

「もう1つのウロボロスの時計」というパズルのピースは、全く想定していなかった私にとって神の一手にも感じられた。


更にこの対比構造は、ハッピーエンドに至る為の重要な役割も担っている。

この物語の根幹である「時間を巻き戻し続けるのは1人では不可能だが2人でなら可能」というアイデアは、死神がウロボロスの時計を取り上げるに相応しい不正行為であった様に思える。

この点でもハッピーエンドに至るまでの道筋に納得感があり、非常に関心させられたのを覚えている。


私がこの作品の中で評価している点は他にもある。とにかく、作り込みが丁寧だった点だ。

例えば一之瀬の自殺を止め続けるには、時間的にも金銭的にもニート並の猶予が必要だった。

自殺を本気で考えている人間はその兆候を悟られない様にする以上、その点を考慮し「毎回死んでからでないと止められない上自発的に調べなければ止めに行けない」としたのは素晴らしい。

またその時間的及び金銭的猶予を生み出す為、ウロボロスの時計という非現実アイテムを用いて株取引を成功させる描写が差し込まれていたのも良かった。

ここの描写があったからこそ、初対面で100万円を渡して嫌われるエピソードも、2人で連れ立って出かけるというアクションを繰り返す描写も説得力が増していた。

同様の具体例として、相葉や一之瀬と家族との関係性を描写していた点も挙げておきたい。

ここが曖昧だと、「中学生の女の子がそんな酷い目に合うわけない」「なんだかんだ逃げ場はあるだろ」等と思われかねない。そういった楽観論もまた、描写により事前に潰せていた点も評価したい。


このような複数の描写を差し込み、読者に不自然さを感じさせないよう工夫している点を「作り込みが丁寧」以外になんと表現すれば良いのだろうか。

不自然さが無ければ文章を読むテンポの良さにも繋がり、ひいては読後の満足感にも貢献する。作者様の技量が光った瞬間にも思える。


【 最後に 】


最後になるが、この作品は前述の通り第8回ネット小説大賞を受賞している。

また過去には小説家になろう恋愛部門でランキング1位を取るなど、非常に高評価を受けている作品となっている。

―――私もその評価に賛成だ。初出は3年前の作品でこそあるものの、私は「今の時代にあった恋愛小説」だと考えている。


ハッピーエンドなのも良かった。そこに至るまでの論理過程の納得感も、それを補強する描写の仕方も、コアラや鳥の巣を用いた比喩表現も、どれもこの作品の素晴らしい特徴の一部だった。

このような作品と巡り会う機会に恵まれ、とても幸福に思う。
作者の星火燎原様、出版して下さった宝島社及び関係者の皆様には感謝の一言である。


そして、ここまで私の感想文を読んでくださった皆様へ。


私がこの作品に出会ったのは、作者様のツイートがバズるという偶然によるものだった。

この作品に限らず、良書に巡り会う機会は刹那的であり、一期一会でもある。そしてそれを失う事はとても悲劇的だ――ー私はそう思う。

ここまで読んでくださった皆様にも、是非良書との出会いを大切にしてほしい。

相葉と一ノ瀬の出会いのように、
私とこの作品の出会いのように、
その出会いはもしかしたら、
人生のかけがえの無い
1ページになるのかもしれないのだから。











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