【短評】「憐れみの3章」文脈を楽しめる映画は良い映画なのである。
「哀れなるものたち」からわずか9ヶ月。
ギリシャ出身の映画監督ヨルゴス・ランティモスの最新作。
これは「籠の中の乙女」を彷彿とさせる不条理な3つの現代劇で構成されており、「女王陛下のお気に入り」「哀れなるものたち」と比べて、オムニバスで息抜きというには濃度の高い作家性を摂取できる逸品である。
そもそも「女王陛下の〜」も「哀れなるものたち」も初期作品に比べると、アメリカナイズドされたルックと分かりやすいテーマで、そのトゲは鳴りを潜めていた。それが今回、満を持しての不条理短編3本立てである。
原題「KINDS OF KINDNESS」は直訳すると「親切の種類」。
確かに色んな種類の親切な人が登場する。
何でも言うことを聞く代わりに身の回りの世話を何でもしてくれる社長だったり、お願いしたら指を焼いて食べさせてくれる妻だったり、プールに頭から突っ込んで死んでくれる女の人だったり。
お気に入りは1つ目のエピソード「R.M.F.の死」。
なんだか分からないルールの中で、なんだか分からない強迫観念の下、なんだか分からないことに精力を注ぐ主人公のジェシー・プレモンスが非常に愛らしい。
なんだか分からない壊れたラケットを大事にしたり盗みに行ったり。
また、楽しいのは音楽。
不穏なゴスペルが流れ始めると、そのまんま不穏な事が起こる。
昭和のコント番組かと心の中でツッコみたくなる完成度である。
お高く止まったアート作品だと敬遠することなかれ、いちいちギャグセンスが高いのもランティモス映画が愛される理由である。
そんな描写を一つ一つ楽しんでいると2時間半もあっという間。
文脈を楽しめる映画は良い映画なのである。
お気に入りのショットは犬のドライブ旅行。
「哀れなるものたち」から引き続き、イェルスキン・フェンドリックスの劇伴もおすすめ。