稲荷の狐さんと京都の友人
TRAVISのぬいぐるみのなかで、鳥のオーナメントや猫のぬいぐるみと同じぐらい人気なのが狐のモチーフだ。
とは言え、私の作る狐は普通の狐ではなく神社の神使である稲荷の狐で、白狐が中心だ。
切っ掛けは、京都にいる稲荷神社に所縁のある友人が「白狐の置物みたいなぬいぐるみ、作ってくれへん?」と頼んできたことだった。今まで洋風のぬいぐるみを作ってきた私には「???」という感じで、どうやって作れば良いのかすらさっぱりわからない始末だった。
そこで友人が提案してきたのが、歌舞伎の助六のイメージ。全部が”THE 和”で出来ている、友人らしいアドバイスだ。
私はパソコン画面に映る助六の画像を眺めながらデザイン画を描きつつ、2020年1月のコロナが日本に上陸する直前の京都旅行のことを回想していた。
京都の友人はミステリアスな空気の、とても美しい人だ。私とは生き方も趣味もまったく共通点がなく、よく仲良くしていると傍からは思われていると思う(笑)
「1月に来ると正月の余韻が残って、どこもかしこも混んでいるやろ」
伏見稲荷大社の前に佇みつつ、もう本当にとんでもない人数の観光客を目の当たりにして尻込みする私へ、着物の上に羽織ったベルベッドのコートの襟元を引き寄せながら友人が、
「eve、あんまり他の観光客と顔を近付けへんようにして歩きや」
と、険しい顔で言った。
「何で?」と問うも、友人は理由も言わず微笑みつつ、その微笑みの中に何か緊張感が漂うのを見て、思わずハッとした。私はすっかり、この友人が不思議な力を持った人であるということを失念していたのだ。
そのため、前に進むことすら困難なほどに混んでいる道をなるべく他の観光客と距離を取り、“密”を避けて動いていた。
今思えば、友人の言葉はコロナ流行の暗示だったのだろうと思うが、そのことについては今も何となく理由を聞けずじまいだったりする。
そんな訳でこの日、私がしていたことと言えば、狛狐の観察だった。どの狛狐にも動きがあり、美しい。いつかぬいぐるみにしてみたいと、何枚も何枚も写真に収めていたのを、よく覚えている。
その、伏見稲荷大社で見た数々の美しい狛狐の印象がとても強いせいで、友人のために仕上げたTRAVISの白狐の顔がどうも気が引けた。何せ、作り手の人柄が出てしまうのか、私の作るぬいぐるみはどこか滑稽で、笑いを誘う楽し気な空気をまとってしまうからだ。
「ほんまにおもろい顔して、見てると楽しいねん」
と、ぬいぐるみが届いたらしい京都の友人から連絡があった。
私の予想とは違って、本人はとても喜んで飾ってくれたらしくホッとした。
ミステリアスで美しい人は、単調な私の日々に面白い刺激を与えてくれるのだ。
この度はサポートして頂き、誠にありがとうございます。 皆様からの温かいサポートを胸に、心に残る作品の数々を生み出すことができたらと思っています。