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ショップTRAVISの日常

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ショップTRAVISのぬいぐるみたち誕生秘話を、ミニ小説や写真にして載せています。
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#Travis

小話『アントニーとパトリックの休日』

とある休日のこと。 アントニーはパトリックと自室でのんびりとお茶を楽しんでいた。 診療所を出奔してからというもの自由気ままに行動しているとはいえ、ジェイドに世話になっている以上、“彼の厄介な仕事”に携わらなくてはいけない。ジェイドの強面を見続けているとストレスがたまる。なので、何処か気の抜けたパトリックと話すと心の底からリラックスできるのだ。 「アントニーもジェイドを頼ったのが運の尽きってことさ。上から沢山仕事を言い付けられて、昼間はぬいぐるみ屋を隠れ蓑にしているものの、

小話『ツバメのメノウ』

鳥の国のツバメ族第一王子であるメノウは、複数の追手から逃れていた。 真っ黒な仮面を付けた鳥の集団は何の種類かもわからない。ただ、自分達ツバメよりは少し大きくて、猛禽類よりは小さい。 「今回はしつこいな」 かれこれ二時間ばかり逃げ回っているが、気がつけばどんどんとツバメの王宮から離れてしまっている。常々、第二王子をツバメ族長に願う派閥から命を狙われてはいたのだが、こうして白昼堂々襲われることになるとはさすがのメノウも予想外であった。三羽ほどいたお付きのものは早々に襲われて、

小話『オーナーの秘密』

「じゃぁ、私はこれで」 オーナーのジェイドが店の書類をビジネスバッグに仕舞い込むと、そそくさと立ち上がった。長身の彼がジャケットのボタンを留めている姿は優雅にも見えるが、指先にどこか焦りを感じるのは気のせいかと、アントニーは思った。 「では」 「お疲れ様です。また明日」 「お気をつけて」 アントニーとサラはジェイドの後ろ姿を見送った。その背中は何処か喜びに満ちているようにも見える。 「ねぇねぇ、店長。オーナーって、独身なの?」 彼の物言わぬ背からサラも何かを感じたの

小話『サラからみたアントニー』

私はサラ。 ぬいぐるみショップTRAVISで販売員をしているの。 オーナーのジェイド・シルバーが世界中で買い付けてきたぬいぐるみや雑貨品を販売していて、デザイナーズの高価なぬいぐるみも置いてあるし、子供も喜ぶお手頃価格のぬいぐるみも取り揃えていて、オーダーメイドのぬいぐるみも作ることができるから品揃えは良いと思うの。 でもね、お店は開店したばかりでまだ従業員が私と店長のアントニーの二人しかいないの。人手が足りないのが悩みだけど、オーナーがそのうちスタッフの募集をするという

小話『すみません、うちの先生知りませんか?』

もう何十件回っただろうか。 虱潰し、針の筵という言葉の意味をヨウランは身をもって知ったような気がした。多分、本人としては休暇と称しているのだろうか、携帯電話の電源はずっと切られている。 「まったく、先生どこ行っちゃったのかなぁ」 夏の日差しを全身にうけ、額から玉のような汗がしたたり落ちるなか、仲間内から“ド根性ヨウラン”と呼ばれているヨウランですら、この猛暑ではさすがに気弱になって、公園のベンチにドテンと座り込んだ。 赤ひげ先生ことドクター・アントニーの弟子の中で一番の若

小話『ヨウランと飲みかけのお茶』

子供の頃から医者になりたかったヨウランは、東の国に有能な赤ひげ先生がいると聞き、遠い遠いアジアの国よりやって来た。 きっと、この先生に師事すれば自分も素晴らしい医師になれるかもしれないと期待して、ハードな勉強を重ね、先輩の嫌味も聞き流し、日々頑張ってきたのだ。 だが、結局のところ現実は違うのだ。 「ヨウラン! アントニー先生がどこにもいないんだが」 「え、さっきまで診察中だったような気がするんですけど」 「私もそう思ったんだが、急に裏口から出ていったという目撃情報がある」