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カツオと昆布の1.5番出汁

今日はカツオと昆布の合わせ出汁について考えていきます。2002年、大学の研究者と日本料理アカデミーによる実験で「昆布のグルタミン酸を最大限に抽出するには60度で1時間加熱するのがいい」「鰹節は85℃で旨味が短時間で抽出される」という結論が出たことによって、従来の『昆布と水を鍋に入れて沸騰直前に取りだし、鰹節を加え一煮立ちさせる』という方法では鰹節の旨味成分は充分に引き出せないことがわかりました。
科学的に旨味を最大限、抽出するための出汁のとり方は以下の通り。

まず鍋に昆布と水を入れ、弱火にかけます。六十度に達したところで火を止め、そのままの温度を保ちながら30分~1時間かけて旨味を抽出します。

旨味が充分に抽出されたところで昆布を取り出します。これが昆布だしです。この昆布だしを85℃まで加熱し、火を止めます。

今度は鰹節を投入します。

削り節が沈むまで待ち、それを濾します。

濾すときはサラシの布巾を使うのがセオリーですが、リードクッキングペーパーが衛生的で便利です。温度帯をコントロールすることで昆布の遊離グルタミン酸、鰹節のイノシン酸を雑味を出さずにかつ効率よく抽出することができます。

ところでこれは一番出汁ですが、日本料理の世界では他に『二番出汁』が使われます。二番出汁は一般的に一番出汁をとった残りの鰹節と昆布を水とともに鍋に入れ、再び抽出したもの(あとから鰹節を足す=追い鰹をする場合も)とされています。淡い味なので懐石でははじめの汁椀に使い、あとに提供する煮物に一番出汁を使ったりします。(最初に濃い旨味を出すと舌が慣れてしまいあとの料理の味を感じにくくなるため)逆に人によっては「鰹節と昆布を一緒に入れて水から煮出した濃厚な出汁」を二番出汁と呼び、これを煮物出汁と言う人もいます。

実際の日本料理店では一番だしのだしがらを使わずに煮物用に二番出汁を引くケースも多く、出汁と言っても店や人によって解釈は様々。また、鰹節と昆布の種類、量、水の質などもすべて異なるので、100人の料理人がいれば100通りの出汁があるということで、用途に応じて適切な出汁を考える必要があります。

最近、よくおすすめされる昆布出汁のとり方に水出しがあります。昆布と水を冷蔵庫で10時間抽出すると、遊離グルタミン酸の量は60℃一時間より多少落ちるものの、充分に抽出することができます。ただし実験では24時間水出ししたものは遊離グルタミン酸量が10時間よりも少なくなり、官能検査でも「雑味や磯臭さを感じる」という結果が出ます。グルタミン酸の成分が減少するとは考えづらいので、昆布から出たぬめり(アルギン酸)が検出値を抑えてしまうのかもしれません。水出しを選択する場合、十時間経ったら昆布をとりだしましょう(ずっと入れっぱなしにしていませんか?)

また従来通りの水から弱火にかけて80度まで加熱し、昆布をとりだすという形(加熱時間としては五分程度)も便利だと思います。60℃で1時間抽出、水出し10時間より遊離グルタミン酸量は少ないものの、短時間で抽出できるというメリットがあるからです。科学的に正しい出汁の取り方は60℃で1時間かもしれませんが、実際は用途や現場の状況に応じて使い分ける必要があります。

家庭向けの出汁 1.5番出汁

ところで、家庭では一番出汁と二番出汁を使い分けるのはほぼ不可能でしょう。家庭向けの出汁に求められるのは煮物にも味噌汁にも吸い物にも使えるような汎用性です。その点を踏まえると理に適っていると感じるのは青柳の小山裕久さんが考案した『1.5番出汁』です。

1.5番出汁
水 2L
昆布 10g
鰹節 30g

もちろん、出汁をとる工程もアレンジしていますが、小山さんが発表しているレシピよりも昆布の量は増やしてあります。関東の水は関西よりも硬度が高いため、昆布の旨味成分が出づらいからです。もしも、関西の水で試される方はもう少し控えてもいいでしょう。鰹節や昆布はいいものを使うに越したことはありませんが、とりあえず手に入りやすいものからはじめましょう。

鍋に昆布と水を入れて中火にかけます。半量でつくる場合(水1L)は煮立つまでの時間が短くなるため弱火にかけます。

水温が70℃を越えると鍋の底の泡が浮いていきます。このタイミングで鰹節を投入します。

そのまま3分間。水温は最終的に85℃〜90℃前後です。この温度帯をキープすれば雑味も出ず、アクも出ません。次に火を止めて、鰹節が沈むまでしばし待ちます。

静かに濾します。鰹節から酸味が出るので絞らないようにしましょう。

出来上がり。一番出汁のように澄んではいませんが味は抜群です。ちなみにこの1.5番出汁はそれなりに濃いので味噌汁に使う場合には二倍に薄めてもいいでしょう。保存は冷蔵庫で二日間、それ以上の場合はジップロックに入れて冷凍庫で保存します。

あるいは吸い物が少しだけ飲みたいときはティーポットに昆布と鰹節を入れて、湯を注ぐほうが楽かもしれません。昆布と鰹節、それぞれの旨味成分が抽出される温度帯さえ理解しておけば応用は自由自在です。

出汁を取りおえた昆布も冷凍庫で保存。溜まったら干し椎茸とあわせて煮昆布にするのがおすすめ。鰹節の始末はふりかけにして保存するのが一般的。

余った鰹節は鍋に入れて、酒、醤油を大さじ1加えて火にかけます。

強火で水分を飛ばしていきます。

ほぐれてくればOK。鰹節を煮るときは砂糖やみりんを入れない方が上手にパラパラになります。

水分を飛ばしてますので冷蔵庫で一週間は食べられます。さらに長く食べたい場合はやはり冷凍ということになりますが、ご飯などに混ぜ込んでさっさと片付けてしまうのが吉です。

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樋口直哉(TravelingFoodLab.)
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!