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究極のスクランブルエッグ

スクランブルエッグは朝食の定番。作り方は様々ですが、ホテルの朝食で出されるのはフランス式が多いようです。というわけで今日はフランス式の究極のスクランブルエッグをつくります。

十九世紀なかばにブルジョワ家庭のフランス料理を本にまとめたサン・タンジュ夫人はスクランブルエッグを「もっとも洗練され、もっとも繊細な卵料理」と言っています。当時、熱源が火力調節のしづらい石炭だったため、おいしいスクランブルエッグをつくるのはとても難しかったのです。

究極のスクランブルエッグとはどんなものでしょうか。それはとろりとやわらかく、滑らかな食感であること。そんな仕上がりを得るためにイギリスのシェフ、ヘストン・ブルメンタールは湯煎で加熱することをすすめています。

スクランブルエッグ(2人前)
 卵   3個
 生クリーム 大さじ1(または牛乳大さじ2)
 バター   10g

まずは卵の割り方から。

卵を割るときは平らな場所に軽く打ち付けます。

尖った場所に打ち付けると殻がなかに入る原因になるからです。物理学的には同じ円筒状の物体にぶつけると横方向にヒビが入るので理想的に割れると思いますが、キッチンには平らな面がいくらでもあるのでこちらのほうがベターでしょう。

生クリームを大さじ1加えます。目的はタンパク質を希釈し、凝固温度をあげて、滑らかな食感を得るためです。ようはタンパク質を希釈すればいいので水でも牛乳でもいいのですが、水よりは牛乳、牛乳よりは生クリームのほうがリッチに仕上がります。ちなみに中華料理では油で希釈する調理法があります。(トマトと卵の炒め物をつくるときに試してみるといいでしょう)

塩を少し。塩は卵料理に欠かせませんが、入れすぎには注意。少なすぎるくらいでも大丈夫なので、安全運転でほんの少し加えるだけにとどめるのが無難です。

胡椒も挽きましょう。卵料理には白胡椒を使います。黒胡椒を使うとゴミが入っていると勘違いされる恐れがあるからです。

泡立てないように溶きます。そこに小さく切ったバターを加えます。

弱火で静かに煮立っている湯にボウルをのせ、湯煎にかけていきます。とにかくゆっくりと時間をかけて加熱することでリッチでクリーミーな味になります。卵の加熱温度、黄身:65度~70度、白身:75度~78度を一応、頭に入れておいてください。

ヘストン・ブルメンタールだけではなく、ジョエル・ロブションも

湯煎でつくるスクランブルエッグは、鍋で直接加熱する方法よりも、より滑らかな食感に仕上げることができる。加熱時間はやや長くなるが、温度はむしろコントロールしやすい。鍋肌に卵が付着したり、火が入りすぎることが心配ならば、湯せん(バンマリー)をお勧めする。
(『ジョエル・ロブションのすべて』より)

と湯煎をすすめています。この時のボウルの材質は金属製ではなく、ガラス製がベター。金属だと温度の上昇が早すぎるからです。

外側から内側に向かって混ぜていきます。

10分が経過しました。この状態で温度は65℃といったところ。

12分経過で70℃くらい。鍋からボウルをおろします。

この状態で・・・・・・

74℃です。理想はフォークにやっとのるくらいの70〜72℃。濃厚卵白は凝固をはじめていますが、完全には固まっていない状態です。写真では2℃ほど温度が上がりすぎたようです。ほんの2℃違うだけで仕上がりが変わってしまうのがスクランブルエッグの難しいところ。皿に移してからも余熱で温度があがるので、早めに湯煎からはずし予熱で仕上げるのがコツです。もしもゆるければまた湯煎にかければいいのですから。

辛抱強くゆっくりと加熱していくことでコクが出て、チーズでも入っているのではないか、というくらい濃厚な仕上がりになります。ハロルドマギーはスクランブルエッグの秘訣を「低温と忍耐」と表現しています。

ヘラで返しながら混ぜ続けると、底側だけが層状に固まって分離することなく、卵黄と水様卵白のクリーミーで均一な塊の中に濃厚卵白の細かい塊が混じった状態になる。(『マギーキッチンサイエンス』より)

目指すのはまさにこの状態。カリッと焼いたパンを添えて食べるのがフランス式の食べ方ですが、バターとマヨネーズを薄く塗った食パンに挟んでサンドイッチにしてもおいしく食べることができます。

ちなみにつくる前にボウルの内側、上部にバターを塗っておくとこびりつきを防ぐことができ、洗い物が楽になります。もう一つのポイントは(工程写真では上手にできてませんが)ゴムべらで卵を混ぜるときに静かに混ぜて、上部に卵液をつけないこと。こういう部分の作業をきちんとするのがロブションスタイルですね。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!