ポーチドエッグの作り方
はじめに
【HATTORI食育クラブ】が運営していた食育通信onlineというサイトが(色々ありまして)2017年10月31日で閉鎖したので、こちらに引っ越してきました。掲載していたレシピコンテンツを順次、転載していきます。(あ、もちろん新しい記事も載せてます)
料理の基本研究『ポーチドエッグ』
材料(2人前)
卵 2個
調理の基本は温度(Temperature)という要素をコントロールすること。基本の卵料理を研究することで調理温度について理解を深めることができます。
卵には多くのタンパク質が含まれていますが、まず憶えておきたいのは二つ。卵に最も多く含まれているオボアルブミンとオボトランスフェリンです。
オボアルブミンは卵に最も多く含まれているタンパク質。硫黄アミノ酸を含んでいるので、加熱調理時の風味、食感、調理後の色に影響を与えます。80℃で凝固をはじめ、温度が上がるにつれて弾性が出てきます。
オボトランスフェリンは鉄原子と結合し、外部から入ってきた細菌が鉄を利用できなくする(結果として細菌の増殖を防ぐ)のと、ヒヨコに鉄分を運ぶ役割を担っています。全卵で加熱する場合は卵白だけで加熱する場合よりもタンパク質が凝固しずらいのは、卵黄中に含まれる鉄とオボトランスフェリンが結合し、凝固しにくくなるためです。また、卵を加熱した時に最初に固まりはじめるタンパク質で、60℃から固まりはじめます。
卵白を加熱していくと白身は63℃で凝固をはじめ、65℃で軟らかい個体になります。さらに加熱を続け、80℃を超すと主要タンパク質であるオボアルブミンが凝固をはじめ、ここでぐっと白身に弾力が出てきます。
一方、卵黄タンパク質は65℃でとろみがつきはじめ、70℃で固まります。だから、温泉卵をつくる場合は65 ℃〜 68℃程度の湯で1時間程度加熱する場合が多いのです。
また、卵料理ではクリームや牛乳、砂糖を使って、タンパク質を希釈し、凝固温度を上げるテクニックも多く用いられます。一般的に酸や塩は凝固したタンパク質を硬くすると思われがちですが、じつはやわらかくします。レモンと卵黄でつくるレモンカードというカスタードはその性質を利用したものです。
ポーチドエッグで目指すべきは「滑らかな黄身」と「柔らかな白身」。ポーチドエッグのよくあるレシピは沸騰した湯に卵を割り入れるというものですが、目指すべき仕上がりを考慮すると100℃では加熱温度が高すぎます。
まずは卵の割り方から。ポイントは平らな面で卵を割ることです。ボウルの縁などで割ると殻が入るリスクが上がるので避けること。二つ以上の卵を割るときは卵同士をぶつけると片方だけにヒビが入り、きれいに割れるので効率がいいですよ。なお、ポーチドエッグには濃厚卵白の割合が高い、新鮮な卵を使うのがコツ。
まずは卵から水溶性卵白(水様性ともいいます)を取りのぞきます。網杓子かざるに卵を割り入れると、下に水溶性卵白が落ちます。水溶性卵白は加熱しても茹でる湯のなかにモヤモヤと散ってしまうだけなので、あらかじめ取りのぞいておくと、仕上がりがきれいになります。
水を張った鍋を強火にかけ、皿を沈めましょう。皿を沈めるのは卵が鍋肌に触れてくっついたり、硬くなったりするのを防ぐためです。ここで茹でる湯に塩や酢を加える人がいますが、避けましょう。なぜなら
〈酢や塩を加えることで早く固まるが卵の表面に不規則な膜が生じる〉(『マギーキッチンサイエンス』p88 共立出版 Harold McGee著 香西みどり監訳)
からです。
お湯の温度は鍋底から泡が浮いてくるくらいの85度を目安に。
卵を投入して、五分間待ちます。一つか二つ、卵を茹でるだけなら火は止めておいても八十度以上をキープできるはずですが、もしも温度が下がりすぎるようならごく弱火にかけます。
この時、沸騰させると水の対流が生じ白身が崩れてしまうので避けましょう。同様の理由でかき混ぜてもいけません。加熱温度を71度〜74度の範囲内に保つことで卵白は滑らかに、黄身はクリーミーになる、ということを頭に入れておくこと。
五分間待った状態。網杓子でとりだします。
キッチンペーパーで水気をとってから盛り付けます。
この調理法を採用すると非常に柔らかい仕上がりになります。ポーチドエッグには様々な作り方があり、大量に調理する場合にはもっと温度を上げて、外側の卵白を硬めに凝固させたほうが扱いやすいのですが、失敗するリスクも上がります。
最後に安全性について。普通のポーチドエッグは充分に殺菌されていないので、万全を期すのであれば六十五度の湯で十五分間加熱し、パスチャライズドする必要があります。逆に考えれば事前に作って置くのであれば冷やすよりも湯につけておいたほうが具合がいい、ということは覚えておくと役に立つかもしれません。ま、日本の卵ではそんなに心配いりませんけど、一応。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!