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【スクリーン旅】#003 帰れない山
イタリアってよくって……
山ってよくって………………
と思っていたらイタリアの山映画が公開されていました。これは観るしかないですよね。
ということで、第三回目の『スクリーン旅』は北イタリアへの旅。
鑑賞日:2023/6/10
◆鑑賞経緯
冒頭でも触れた通り、イタリア映画が観たい気分のところに出会った作品。
あとから発覚しましたが原作者はミラノのアラフォーのおじさまです。へえ。
ミラノのアラフォーの美術家やピエモンテの写真家を思い浮かべながら鑑賞を決意しました。
◆概要
一生にひとりの最高の親友っているよね。
そういう話、です。
この映画について
2023年5月5日本邦公開のイタリア映画。
監督はフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン&シャルロッテ・ファンデルメールシュ、お二方ともベルギーの方です。
原題は『Le Otto Montagne』(8つの山)。
パオロ・コニェッティというイタリアの小説家による長編が原作です。
あらすじ
都会育ちで繊細な少年ピエトロは、山を愛する両親と休暇を過ごしていた山麓の小さな村で、同い年で牛飼いをする、 野性味たっぷりのブルーノに出会う。まるで対照的な二人だったが、大自然の中を駆け回り、濃密な時間を過ごし、たちまち親交を深めてゆく。
やがて思春期のピエトロは父親に反抗し、家族や山からも距離を置いてしまう。時は流れ、 父の悲報を受け、村に戻ったピエトロは、ブルーノと再会を果たし……
総評
ままならなさ ★★★★★
余韻 ★★★★★
映像 ★★★★★
閲覧注意の場面: 無
雄大な北イタリアの山麓を撮る映像美、育まれる二人の友情。
友情物語だからといって生死をかけて『ファイト一発』みたいに手を取り合ったり、橋の両端から跳んで子供を救ったりはしない静かな映画です。
穏やかでたまに残酷な時の流れと、そこに置かれる人間について思いを馳せる作品。
◆見どころ
美しい北イタリアの山々と、無邪気な子供の頃のふたり…… そして、歳と一緒に人生の諸々の経験も重ねた現在のふたり。
長い時間についての描写になるので、少年・若者・現在の3人の役者さんが演じています。
一緒にいる間も離れている間にも、重ねた歴史は降り積もる雪のよう。
邦題の『帰れない山』、そして原題『Le Otto Montagne』をふたつとも念頭に置いて見てみると情緒への重厚さがひとしお。
◆こんなときに
・帰りたい場所があるとき。
・山に行きたくなったとき。
・人生ままならないなあと不貞腐れ気味な気持ちのとき。
・爽やかな友情ものが観たいとき。
・ほろ苦いドラマが欲しいとき。
・長年会っていない友達に久々に会いたくなったとき。
・家族とうまくかみ合ってない気がするとき。
このnoteは鑑賞記録であり、情緒の標本箱です。
なのでこれより、ネタバレオンパレードの感想を連ねていきたいと思います。
視聴予定のある方はここで引き返してください。
★鑑賞済みの方向け:ネタバレ満載の感想
Le Otto Montagne…………………………………………(天を仰ぐ)
「ひとつの山を極めたお前と、8つの山を巡る俺。さあ、どっちが偉業をおさめるのだと思う?」
「もちろんお前だ」
最初の一番高い山、友のいなくなったその山にはもう還れない。人生には時に帰れない山があるんだと、父が時間を越えて教えてくれたようであると。
ピエトロの登山や山に関する諸々の原体験は父に醸されたもので、やっぱりそれがずっと体に残っているのだよね。上手く行かない時期もあったけれど。今となってみては…… ね……。
人生って…… こうですよね。
この、パパと不仲になってからもブルーノがピエトロの代わりになるかのように一緒に山で過ごしていたの物凄く心にクるものがあったね……
きっとパパにとっては「もうひとりの息子」であって代わりではないのだけど。
まあでもピエトロ結構放蕩気味でフラッフラしてるわけで、小説家として大成できたから過去のゆるいとこ許せちゃうの割と生存バイアスだよな。
これ小説当たらなかったらブルーノの牧場経営並みに深刻だった気がするもん。
工場でいいポジになるまで都会の息もつまるような暮らしを心を殺して頑張ってたパパ、思う所はあったろうよ……
全体的に、すべてが『降り積もった時間』の話だったなあと思う。
それはつまり人生と呼び変えるべきところでもあるかもしれない。
子供のころのきらきらした夏の思い出ってあるじゃないですか。
もう会えなくなった友達とか、今はもうこの世にいない祖父母とか、疎遠になっちゃった兄弟とかと過ごしたような思い出。
どうやったって帰れない山を、みんな多かれ少なかれ心にもっているわけで。そこをぐっと掴まれる作品だった。
グラーナ村の美しい夏の描写が綺麗であればあるほど切なくなっちゃった。
あの頃には戻れないけれど、あの頃は降り積もった過去のうちのひとつで、アルプスの万年雪のその一部。
固く固く積み重なっていく。仕舞った過去として、閉じた時間の中に置き去りになる。
だけどいつか遠い未来で解けて川になることがあったら、きらきらと清いきらめきをまとって海まで降り注ぐんです。
ブルーノとダリオの友情のありかた、分かりあってるからこそのあのラストなのがな……
ブルーノは本当に追い詰められて辛い思いをしていたとはいえ、最期は望んだとおりの鳥葬。大好きな山のその一部に還っていったわけで。
ダリオ、それを分かっているからこその喪失感。あんなのは彼の望んだ終わりじゃなかった、って思えていたらまだ感情を高ぶらせて現実に抗う気持ちにもなったかもしれないけれど……
ブルーノがブルーノらしく孤高の山の男として山に還っていったのって、もう圧倒的にどうしようもないよね。30年親友やってればさ……
心のどこかでこうなるって分かってた。
彼を喪って自分は思い出のある山に背を向けて新しいどこかへ、きっと至高のまんなかのスメール山を越えることはできないけれどもどこかへ、ひたすら足を向け続ける人生を歩むんだなっていう諦めのような悼みに満たされるラストシーン。
ビターだなぁ……………… 余韻よ…………
あとあれラーラさん絶対ピエトロと付き合ってるorピエトロの片思いだったでしょって思ってたら、原著だと付き合って二か月にしてもうすっかりお別れの空気だったので最後の旅行として山に行ったパートらしいですねえ。
この先ピエトロはラーラとアニータには会うんだろうか。
お母さんの葬儀あたりまでもう会いに来ないのかもしれないな。
二人で過ごした山の家はもう役目を終えた、二度と帰れない山だって思っているわけだから。
お母さんめちゃめちゃ働いてたよね、色んなシーンで……
パパともブルーノとも繋げてくれてたよな。そんなお母さんの若いころの話とかは原著で読めます。トリノの都会レディの印象が強い映画版ですが、原作は描写がしっかり山の娘という感じ。
まだまだ色々言葉にしたい感情があるけれど、このじんわりした余韻は明文化しないほうがいい類のものかもしれないなあなんて思ったりする。
ダリオとブルーノの間にあったもの、ブルーノとラーラの間にあったもの、ピエトロとパパの間にあったもの…… 色んな関係性について考えては天を仰ぐタイプの映画。
良作でした。原著実はまだ全部読み終わってないので終わったらまたこの感想ノートを編集しようかな。