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映画「ダンシングホームレス」感想

・映画「ダンシングホームレス」

 「ダンシングホームレス」という映画を見た。ダンスグループ「新人Hソケリッサ!」に密着したドキュメンタリー映画だ。「新人Hソケリッサ!」は、振付師アオキ裕キが立ち上げ、路上生活者をメンバーとしている。アオキは極限の生活を送る人間の肉体からどのような踊りが生まれるかに興味をもったという。映画ではメンバーの生い立ちやソケリッサの活動、彼らのダンスを観ることができる。
  これは決してホームレスに対するハートフルな慈善事業のストーリーではなく、共生の物語である。踊ることを手段として彼らの生き方を変えようとか、働くように促そうというものではない。純粋に踊ることを目的として集まった路上生活者たちの物語だ。Amazon Primeで視聴できるので、興味がある人は是非みてほしい。

  映画の中で、何度も彼らの踊りを観た。彼らのダンスに細かい規則はない。それぞれが自分の抱える感情をそのままに表現している。原始的なもの、純粋なもの、どこか畏敬の念をかきたてられるものを感じた。人類の祖先が言葉を使えなかった頃、こんな風に身振りで自己を表現していたのではないか。心の動きに名前が付けられずに困惑した。「きれい」とか「感動した」などの言葉はどうもそぐわない。
 それでも自分の感じたものを表現しようとして、ある芸術家を思い出した。

・岡本太郎

 「芸術は爆発だ」で有名な岡本太郎だが、彼の作品をじっくり見たことがあるだろうか。次に引用する書籍にも、彼が描いた挿絵が載っている。彼が描いた、渋谷駅の壁画も見たことがある。「新人Hソケリッサ!」のダンスと同様、彼の作品にはどれも感想として表現する言葉が自分の中にみつからなかった。本文に彼の美に対する価値観が述べられている。

 とかく、美しいというのは、おていさいのいい、気持ちのいい、俗にいうシャレてるとかカッコヨイ、そういうものだと思っている人が多い。ちょうど「衣食足りて礼節を知る」という場合の礼節のように。
 しかし美しいというのはもっと無条件で、絶対的なものである。見て楽しいとか、体裁がいいというようなことはむしろ全然無視して、ひたすら生命がひらき高揚したときに、美しいという感動がおこるのだ。それはだから場合によっては、一見ほとんど醜い相を呈することさえある。無意味だったり、恐ろしい、またゾッとするようなセンセーションであったりする。しかしそれでも美しいのである。

岡本太郎著 自分の中に毒を持て あなたは常識人間を捨てられるか(青春出版社)

 読んだ当時はピンとこなかった。今ならわかる。私がこの映画で感じたものは、まさしくひとつの"美"だったのだ。美というとなんだか綺麗なもの、感動に心を奪われるようなものを連想しがちだが、それだけではない。こちらの感性を突き刺してくるような激しいもの、生きるということをつきつけてくるような根源的なもの。一人一人に固有に内包されているもの。だからこそ、それらを体裁のいい言葉で表現することができなかったのだろう。  
 芸術という単語を手元の大辞林で引く。芸術は爆発だ、という言葉が頭の中でつながる。

特殊な素材・手段・形式により、技巧を駆使して美を創造・表現しようとする人間活動、及びその作品。(後略)

松村明編 大辞林 第四版(三省堂)


・釜ヶ崎夏祭り

 映画の話に戻ろう。西成の釜ヶ崎夏祭りで彼らが踊った時、「わかりにくい」という野次を飛ばされていた。明確なスローガンや主張、ストーリーがあった方が確かにわかりやすく、観客もどこか安心してみていられる。視点が一義的に決定できるからだ。視点がわからないものは、見ていて落ち着かない。
 美そのものをつきつけた時、人の反応は案外快いものではないのかもしれない。後世評価される芸術家が、当時は酷評されるように。岡本太郎の展示を見たある女性が「いやな感じ!」と言ったように。

ほんとうに生きようとする人間にとって、人生はまことに苦悩にみちている。矛盾に体当たりし、瞬間瞬間に傷つき、総身に血を吹き出しながら、雄々しく生きる。生命のチャンピオン、そしてイケニエ。それが真の芸術家だ。
 その姿はほとんど直視にたえない。
 この悲劇的な、いやったらしいまでの生命観を、感じとらない人は幸か不幸か…。感じうるセンシーブルな人にとって、芸術はまさに血みどろなのだ。
 最も人間的な感情を、激しく、深く、豊かにうち出す。その激しさが美しいのである。高貴なのだ。美は人間の生き方の最も緊張した瞬間に、戦慄的にたちあらわれる。

岡本太郎著 自分の中に毒を持て あなたは常識人間を捨てられるか(青春出版社)


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