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調剤と校正は似ている

両方経験した人間は少ないと思うが、調剤と校正は似ている。

医師からの処方せんに基づいて、患者が安全に使用できることを確認して薬を調合し、患者さんが適切に薬を使用できるよう指導を行うこと。この一連の流れを調剤という。
医師の処方ミスを見落としたり、患者さんが飲み合わせの悪い薬を使っていることに気付かなかったりすれば、最悪の場合患者さんの命や健康にかかわる。
調剤業務ではミスを出さない、医療事故を起こさないことが当たり前で、その上で患者さんに何ができるかが重要になる。薬剤師は棚から薬を取っているだけに見えるかもしれないが(たまに言われる)、実際に調剤をしてみると一つ一つの所作に責任がのしかかる。

校正とは原稿の誤字脱字や内容の誤りを正し、内容を整えることだ。漢字が間違っていれば指摘し、「又は/または」など表記が統一されていない(「表記の揺れ」という)単語があればどちらかにそろえる。
もし印刷物を校正していて、ミスを見落としたまま原稿が印刷されてしまったら。私が校正を頼まれるとき、いつも頭に最悪の想定がよぎる。クライアントの信頼に関わるし、ひいては会社の威信が揺らぐことにもなりかねない。
端から見れば涼しい部屋でパソコンとにらめっこをしているだけのように思われるかもしれないが、私はライターに転職してからも常に緊張感をもって仕事をしている。

校正を生業としている人の本に、次のような文章を見つけた。

本は校正がされているもの、間違いがなくてあたりまえのものだと思われている。裏を返せばそれは、本が信頼されているということではないでしょうか。その信頼はどのようにして培われてきたかといえば、これまでに世に出た数多の本の積み重なりです。日頃から本は間違いだらけで信用できないものという認識が読者に共有されていたなら、いちいち誤植が問題になったりはしません。多くの読者にとって、本とは安心して読めるものなのです。その信頼を失わないために、損なわないために、やはり校正はあってほしい。

文にあたる(牟田都子/亜紀書房)

本に誤植があったとして、直接人の命に関わることはない。しかし調剤が人の健康、そして命を守るために行うものだとしたら、校正が背負うものは「信頼」そして「歴史」かもしれない。調剤も校正もどちらかというと目立たない仕事ではあるが、どちらもかけがえのないものを守っている。

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