9.未来ファンタジー_ホロパース2121
#小説 #闇の輪郭 #光の変容 全11話
トゥガク
「それはあなた方人類が何百年も前に答えを出していますよ。『世界は混沌から生まれた』。聖書の創世記にありますね。人はどちらも持ち合わせていいます。だから人間なのだと。しかしなぜか今まで人類は、性善説と性悪説で戦ってきましたね。どうして混沌は認めるのに、グレーは認めないのでしょうか。善と悪といま判断しても、時間が不確定要素に変えます。
ガリレオの地動説は宗教裁判で有罪でしたが結果、人々を真実に導きました。悪銭を盗み民に還元していた石川五右衛門は死刑になりましたが、本当に悪いのは『貧困に対策しなかった中央集権』です。しかし中央集権はどんなことがあっても『善』なくてはならない。善をとおすために、悪を犯す。人を傷つけないための嘘は、善でしょうか?悪でしょうか?そしてその判断は、永遠にそのままなのか?覆るのか?それは生きている間か、死んだ後か、いつ判断されるかはわからない。そんな善悪の矛盾に人々は生涯苦しめられてきました。
そこで我々スター連盟は脳を幼少に戻すという作用をコスモルールに加えました。人間が抗えないのは、遺伝と幼少期の環境です。遺伝子として物理的に『悪』の要素が多い、例えば生まれながらの殺人鬼などは隔離されたまま死を迎えなければならないのか?社会に役立つ能力を持ってはいないのだろうか?私たちはそう考えず、彼らの人生を再構築する手伝いを始めました。これが人類に受け入れられるかかなり疑問でしたので、かなり慎重に始めたのですが思った以上に認められ、犯罪の抑止力として絶大な効果を発揮しました」。
ユラ
「じゃぁ全部見ているのですか?人類の行動」
トゥガク
「すべてではありませんが、治安維持と公平性に関するものは見ていますよ。人には知られたくないこと、プライバシーがたくさんあります。ご存知のように『リングボックス』という個人クラウドにアップされています。具体的な内容を私たちは見ませんが、悪の温床となりやすい嗜好や性癖のデータが入ったことは検知できます。例えば快楽殺人や小児性愛という類ですね。その場合オープンになっているデータにAIが照らし合わせ、問題の仮説と、解決策を提案し、学校やコミュニティの動きに『分からないように』変化を加えます」
サトリ
「そんなことできるのですか?」
トゥガク
「70年前からしていますよ。小児性愛の傾向があるとすれば、哲学的な書籍やコミュニティに出会うセレンディピティを演出したり、逆にその人物と相性の良い子どもを見つけたり。本来恋愛そのものは自由ですが、人間は人間を知らないことの方が多いことで取り返しのつかない事態を招いてしまうので、その自由が担保されるような手伝いを少しだけしています。地球の事象のごく一部ですが、量子コンピュータは私たちのアクションと人類の幸福を近づけてくれました。
裏カジノももちろん検知してますよ。リングをはずして裏カジノに行っていますが、リングをつけ直すと明らかに脳波に変化が起こっているのでわかりやすいです。監視の目から解き放たれたい、自由でいたいというのはごく自然な欲求です。その行動をカバーする設計は最初から織り込み済みなので『黙認』ということです。超大国それぞれにカジノ法はありますが『隠れて過激なことをしたい』という人間の危うい面白さや自由を削るわけにはいきません。そういった面でも、人類はとにかく興味深いのです。非生産のなかに、快楽を覚え、そこからクリエーションを生み出すのですから。リングは平和と安全は届けますが、スリリングさは提供しません。そういう意味ではサトリ君のお父さまがモモンガになって崖から飛び降りるのも、想定外の想定内ですね。
リングを外すことは法律違反ではありません。公共サービスが受けられないし、世界リンや地球リンが貯まらない。ただそれだけです。お酒を浴びるように飲んだり、暴飲暴食をしたり、夜更かしをしたり、葉巻を吸ったり、大音量で音楽をかけたり、鼻からタバスコを吸ったり。面白いです。とても面白い。本人や他人に悪影響がつづくようでしたら警告の対象になりますが、そのギリギリの線引きを分かってやっているのが人間の知性というか、動物的の防衛本能とでもいうべきか。カジノやギャンブルは独自の脳内回路が構築され、その時に放出されるアドレナリンが快楽を生み出します。自滅の制御できない人間もこちらでコントロールしますが、運とプライドをかけた心理変化はとても興味深い。
地球では放送されていませんが、アルク星で『忘却ドラマ』として放映されてますよ。忘却ドラマは、一度見たら二度と見れませんし記憶から消えるという特徴を持っています。ただ楽しかった、面白かった、ためになったという感覚だけが残る、他星で人気を博する地球ノンフィクションドラマです。人気なのは、理数系の研究者です。彼らは研究だけをしたいので、カメラマンがいたり、見られていることがとても好きではありませんね。しかしリングはそのデータをアルク言語にだけ変換させて、ビジョンに映しています。研究者が新種の生物や数学の定理を発見したり、新たなビジネスを生み出したときアルク星ではお祭り騒ぎになります。人類は本当に、宇宙で人気者なのです」
サトリ
「へー!そんな風になってるんだ。全然そんな話、聞いたことない!面白いな!」
トゥガク
「話を戻すと、私たちがグアンの支配から人々を解放するきっかけは2020年の世界的なウィルスの蔓延です。このときはまだ不動産と金融という概念がありましたね。経済が止まっているにもかかわらず、生きているだけで命の手綱が削られていくあの仕組みです。これら人類独自のルールを作っていたグアンとそれに加担する人々の抵抗力はまだまだ強かった。しかし地球に住むスター連盟の子どもたちが大人になっていたため、ネット上に同時多発的に正しい情報を拡散していきました。4000年ものあいだ『都市伝説』として情報コントロールされていた国家の歪な支配構造があらわになり、人類がお金や中央集権に対する洗脳が解けていきました。私たちスター連盟はその頃がちょうど良い時期だと思い、第三次世界大戦の導火線に火をつけました」。
「え?!」二人は同時に驚きました。
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