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悠季仁と桜

家族ではじめて はなみに行った

産まれてはじめて さくらを見た

きみの名は、


はじめての町を歩き

公園へ

青い空に白い線

あれはひこうき雲って言うんだよ

ぼくも 見たのは久しぶり

目に入ってたはずなのに

まるではじめて見たような


桜の木の下

花びらの絨毯の上

レジャーシートに 横たわる

枝々の影と木漏れ日が

きみに模様をつくってる

外では眠ってばかりの

きみが目をあけて 世界を見る

瞳にうつる

青空、さくら、ぼくの影

きみは見る

不思議そうに

はじめての桜は

きれいかい?

それとも


ある作家は言った

桜の木の下には

死体が埋まっている

誰かが言った

桜は散るから美しい


廻る季節

花は散り

花火は落ち

もみじは枯れ

雪は解け

また春が来る


春よ、来い

家に帰ってから

きみはずっと泣き叫んでいた

触れるすべてが新しい きみのアンテナにとって

世界は刺激に満ちている

今日の記憶

たくさんのはじめてが 頭のなかを駆けめぐって

眠りたくても眠れない

春よ、来い

テレビから流れるメロディ

ピアノが奏でるその曲で

きみは眠った

春よ 遠き春よ

それはたぶん 記憶の歌

いつかは今日も遠くなる

きみは覚えていないだろう

飛び去っていく

花びらは風にさらわれて

戻らない


けれど

春よ、来い

また来年になれば咲く

再来年も そのまた来年も

そのたびにぼくは思い出そう

きみの名は、悠季仁

悠季仁の季は、季節の季

ぼくらはこれから

一度きりの四季を 何度も過ごす

最初はすべてがはじめてで

だんだんはじめては減っていく

いつからだろう

打ち上げ花火に 心が動かなくなったのは

ぼくのアンテナはすり減っていく

大人になることは 失っていくことだと思っていた

それは半分当たっていて 半分まちがっている


帰り道にたんぽぽを見つけた

蘇る

忘れ去っていた記憶

茎をちぎって 綿毛を飛ばした

あのころのぼく

ちぎられた花は 命を失い

次の命の種になる

死と生は循環する

冬に絶えたものが

春に芽吹くように

大人になることは 死に近づくこと

けれど死は

いつでも次の希望を孕んでいる


きみの瞳にうつるのは

青空、さくら、ぼくの影

きみが世界に触れるたび

あの日のぼくが 蘇る

きみのなかに

何度でも生き直すことができる

何度でも

たんぽぽを見つける


ぼくの瞳にうつるのは

不思議そうに見上げるきみの顔

きみも忘れて、失っていく

でもぼくが、覚えている

だから安心して大きくなって

なくしたら帰ってくればいい

いつでもここに、いまのきみが生きている

桜は散った

でもぼくたちが、たしかに見ていた

春が来るたび

きみの瞳を思い出そう

いこう、悠季仁

次の季節へ

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