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芸術文化の助成金 アーティストの段階毎の助成

日本では長らくアーティストの段階をプロとアマの2種類で分けてきたが、現在ではその境目は明確ではなく多様化しているといえる。
何をもってしてプロと呼ぶのか、例えば昔は「音楽だけで食えていたらプロ」などという通説があったが、現代ではそう簡単に断言できないと考える。

ニューヨーク 芸術家と共存する街
著者 塩谷 陽子 氏
の中ではアーティストの分類について下記のような記述がある。

Starving Artist(生活にもチャンスにも飢えている芸術家)
Working Artist(芸術家稼業以外の職で生活費を稼いでいる芸術家)
Full-time Artist(芸術家稼業だけで食べていける芸術家)
Emerging Artist(頭角を現しはじめた芸術家)
Well-known Artist(名のよく知れた芸術家)
Living Artist(過去の巨匠ではなく、今この時代に生きて作品を作り続けている現存の芸術家)※生きる伝説的なニュアンスがある?


ちなみにWorking Artistについては、塩谷氏は「芸術家稼業以外の職で生活費を稼いでいる芸術家」と意訳してくれているが、現代では
「芸術家稼業以外の職"でも"稼いでいる芸術家」
「芸術家稼業だけで稼げるようになっても、仕事を続けている芸術家」
なども含まれるであろう。
もしくは新たに「Two-way Artist」などのネーミングが存在しているのかもしれない。


上記のような分類意識は、日本ではこれまであまり無かったように思う。
こういった分類について抵抗を感じる人もいるかもしれないが、各段階によって必要な施策というのは異なるのではないかと考えられる。


例えば Living Artist や Well-known Artist に必要なことは金銭的支援ではなく、アーティストの権利を守るような助成?もしくは制度作り?ではないかと考える。
具体的には贋作問題、著作権問題、「有名税」などと悪意をもって言われる誹謗中傷や人権侵害問題、もしかすると人やモノの海外流失を防ぐ?などが考えられるのかもしれない。

一方で Starving Artist には、チャンスやスキル、パートナーが必要ではないかと考えることができる(もちろん一概にはあてはまらないが)
例えば作品発表の為の資金、ネットワーク、販売チャネル(販売経路)、育成の機会、創作アトリエ(稽古場)などが必要と考えられる。

当然 Full-time Artist と Working Artist も必要な内容というのは異なる。
コロナ禍の状況においては、Full-time Artist がより打撃を受けているのでは、と推測することもできる(実態は調査が必要だけど)
どのスタンス・段階のアーティストをどのように育成するか、協働するか、保護?するか、支援するか。
ビジョンが明確であればその為に必要な対策は具体的になり、効果はより高まるのではないだろうか。

日本では公益財団法人 セゾン文化財団が、セゾンフェロー1・2というアーティストの段階に応じた助成を行っている。
現代演劇・舞踊の作家(劇作家、演出家、振付家)に特化していて、アーティストからの評価が非常に高い助成といえる。

なぜ評価が高いかというと、日本の助成のほとんどはプロジェクト内容の評価を助成基準とするが、セゾンフェローではアーティスト自身を評価基準とする。
もちろん助成期間内に何らかの芸術活動はしなくてはいけないが、プロジェクト単位の単発的な支援ではなく、長い目でアーティストをトップクラスに引き上げるという、目指しているであろうゴール(役割)が明確と感じる。

セゾンフェローに選出されたアーティストは助成金をもらえるだけではなく、創作の場も優先利用できるようになる。
「森下スタジオ」は4つのスタジオの他に宿泊施設、会議室、ゲストルームなどを備えており、稽古や発表の場として活用されている。
セゾンフェロー1は2年継続、2は3年か4年継続して助成してもらえる。

また、選考項目にアーティストのステートメント(声明文、自己発信)を取り入れているのも日本では珍しい(海外では多い)。
予算は適切か、計画の実現性はあるか、ではなくアーティストとしての思考や質、キャリアを評価対象としている。

助成を受けるためのステップが設けられており、セゾンフェロー2にはいきなり申請することはできない。

◎セゾンフェロー募集要項
http://www.saison.or.jp/application/2021guidelines_01a1.pdf


今回、一番書きたかったことは「対象と目標がぼんやりしている助成」を少なくするためには、明確なゴール設定はもちろんだが、アーティストやプロジェクトのスタンスや段階に応じたステップ・幅のある施策が必要なのではないか、ということである。


アーティストと一言でいっても

「売れる作品があり、ビジネスシーンでも活躍できるアーティスト」
「教育現場などでコミュニケーションを育んでいるアーティスト」
「社会的弱者に寄り添い、社会問題の提起を続けるアーティスト」
「アートを活用したセラピーを行うアーティスト」

など様々なアーティストが世の中にはいるのである。
そして、それらのアーティストには Starving Artist や Full-time Artist などそれぞれのスタンスや段階がある。
どのアーティストと、どのようなミッションを共にし、ゴールに近づいていくのか。
助成側にもクリエイティビティ―(創造性)やオリジナリティー(独自性)ビジョン(視点)が必要になってくるのではないか。


国際交流、社会教育、芸術文化振興、住民活動支援・・・
助成の募集要項では、様々な聞こえがよくて少しぼんやりしている目的が並ぶことが多い。
アーティストの多様さや現状を踏まえた上で、それらをもう少し具体的な内容にし、明文化していくことは大事だと思う。
また、人材育成や芸術振興が目的で在れば、アーティストを一括りにしないで幅の広い施策を期待したい。

文章:森嶋 拓
参考文献:
ニューヨーク 芸術家と共存する街
著者 塩谷 陽子 氏

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