アイヌの見た星空(秋)
はじめに
取り上げている星座は、末岡外美夫氏(Sueoka Tomio)の著書『アイヌの星』および『人間達(アイヌタリ)のみた星座と伝承』を中心とした書籍や資料から、興味深いものを筆者の視点で選んだものになります。
アイヌ語表記は末岡外美夫氏(Sueoka Tomio)の著書『アイヌの星』および『人間達(アイヌタリ)のみた星座と伝承』の内容を基本とし、国立アイヌ民族博物館アイヌ語アーカイブをはじめとするアーカイブやアイヌ語辞典を参考にしています。
アイヌ語は地域によって発音が異なる場合が多く、本動画では各地の言葉が混在している点をご理解願います
アイヌの星座の配置や名称などは地域・集落により呼び方が異なり、ここで紹介している星・星座の名称や星座線の結び方等はあくまで一例になります。
アイヌの人々が見てきた星空には、神話の人物や身近な動物たち、豊かな自然観、そして生活の様子など、多彩なものが描かれています。
西洋の88星座とは異なり、北の大地で独自の文化を形作ってきたアイヌ民族が見た星空を、どうぞお楽しみください。
※参考文献等についてはこちらを参照ください
カシオペヤ座
カシオペヤの“W”(αβγδε星)を二艘の船で引網している姿に見立て
ヤシヤ ノカ ノチウ(yasya noka nociw - 曳き網をしている 姿の 星=曳網 星):北部・南部以外
と呼び、ペッノカの中で二艘の船が引網している姿に見立ていたようです。
ペガスス座、アンドロメダ座
秋の夜空で目立つペガススの四辺形(ペガスス座のαβγ星、アンドロメダ座のα星)を
マクワノハプ(makwanohap - 奥 に ある からっぽ のもの=空虚):東・北部
などと呼んでいました。
ペガスス座、みずがめ座
ペガスス座のε星とθ星、みずがめ座のα星とβ星を結ぶ台形を
ニッネカムイ(nitnekamuy - 悪いカムイ):南部以外
などと呼んでいました。
アンドロメダ座
ペガススの四辺形の一部であるアンドロメダ座のα星からδβγ星と結んでできる、やや曲がったラインを
コイリリ(koyrir - 波のうねり):東部・北部・内陸部
などと呼んでいました。
すぐ北側で輝くヤシヤ ノカ ノチウ(カシオペヤ座)から寄せているうねりになります。
他にもアンドロメダ銀河を探す際に頼りになるβμν星と辿る星並びを
アイルム ノカ ノチウ(ayrum noka nociw - 矢尻 の 星):南東部
などとも呼んでいました。
ν星の先には肉眼でも見えるM31アンドロメダ銀河があり、矢尻に塗るトリカブトからとったスルク(surku - トリカブト、毒)と見ていたようです。
この他にもモヤが広がる様に見える姿を何かが集まっている様子と見て
チェプルピ ノカ ノチウ(ceprupi noka nociw - 魚の群れる 姿の 星):中・東部地方
ウパシキキリ ノチウ(upaskikir nociw - 雪虫 星):中西・南部地方
などとも呼んでいました。
おひつじ座
おひつじ座のαβγ星の三つで作る三角形を
クマイクシペ ノカ ノチウ(kumaikuspe noka nociw - 物干し棒 の形の 星=乾燥柱の形の星):中・北部地方
などと呼んでいました。
うお座
うお座の特徴的な“V”字の星並びを
ロンロナッキ ノチウ(ronronatki nociw - 木などを打ち鳴らして騒ぐ 星=騒々しい 星):全域
などと呼び、敵が攻めてきたときにコタンの人々が一列に並んで木を打ち鳴らし、侵入を防いだ姿と見ていました。
うお座、くじら座
うお座のα星とくじら座の上半身を結んで
オパリケプ カムイ(oparikep kamuy - 台風の カムイ):南部・中部
などと呼んでいました。
また、くじら座のαγξ2μνの五角形とδ星、ο星を結んで
ウプンチセ ノチウ(upuncise nociw - 雪を舞い上げるつむじ風 星):中部
などとも呼んでいました。
くじら座の変光星ミラ(ο星)を
ペワンケタ(pewanketa - 脆い星):北部
ルハイタノチウ(ruhaytanociw - やや足りない星)
などとも呼び、明るさが変わることに気付いていたようです。
ペルセウス座
“人”の字に並んでいるペルセウス座のうちα星、β星とγαδ星でできる“T”字形の星並びを
キンラカムイ(kinrakamuy - 巫術のカムイ):中・東部地方
などと呼んでいました。
これはβ星アルゴルが変光星であり明るさが変わるためかもしれません。
そのアルゴルも
パウチコロ ノチウ(pawcikor nociw - 巫術のカムイに憑かれた 星):全域
ラムラム ケタ(ramram keta - うろこ 星):北部
などとも呼ばれていました。
みなみのうお座・みずがめ座
みなみのうお座のα星フォーマルハウトを中心に、みなみのうお座とみずがめ座それぞれで開いた帆立貝のように見て
セイコヤンケ ケタ(seykoyanke keta - 貝殻で陸へ来る=ホタテ 星):東・北部
アッケテク ノチウ(akketek nociw - ホタテ 星):中・南部
ハッケテク ノチウ(hakketek nociw - 帆立貝 星):北東部海岸地方
などと呼んでいました。
初秋に南東の空に上り海上を低く移動する姿を、海上を滑走する貝が空に映る様子と見ていたようです。
フォーマルハウトを中心に、みなみのうお座とみずがめ座それぞれで開いた帆立貝のように見ていたのかもしれませんね。