ワインエキスパートへの道 その3
今回は座学から離れた試験勉強について書こう。
昨年、つまり2021年の日本はコロナ禍2年めを迎え、好きなように外出してワインを楽しめる機会は少なかった。そんな状況でも、ときにはなじみのお店に出かけていって常連さんのワイン談義に耳を傾けたり、少人数で集まってワインを飲んだりして、憂さばらし、もといワインを味わう勉強を続けていた。
なかでも、既にワインエキスパートを取得された先輩が少人数で開催してくれたブラインド・テイスティングの勉強会では、自分の好きなブルゴーニュのピノ・ノワール産地を記憶するヒントをもらった。
この勉強会では白、赤それぞれ3本ずつの品種・産地・ヴィンテージを当てるという難問に挑戦した。わかったのはシャルドネだけで、それも産地はまちがえた。しかし、それまでに飲んだことのない、やや濃厚で力強いピノ・ノワールがとても印象に残った。ガメイかグルナッシュと予想しただけに、正解を知って驚いた。それはFIXIN産で、先輩によれば、この地のピノ・ノワールは、自分が知るなかでも最も力強いとのことだった。帰宅して、教本でFIXINのページを開くと、「ジュヴレ・シャンベルタンの隣だけあって、赤は比較的力強い」と記述されていた。まさにこの記述通りのピノ・ノワールを飲む機会に恵まれたわけだ。これで少なくともFIXINが頭に入った。
なじみのワインバーで、ある日のお勧めワインとしてカウンターに並んだピノ・ノワールが、やはりジュヴレ・シャンベルタンの産地であるLes CaZetiersだったのも幸運だった。偶然にも試験で「ジュヴレ・シャンベルタンのプルミエクリュを選べ」という設問が出されたのだ。もし飲んでいなかったら、きっと記憶に残らず、正解することはできなかっただろう。
他にも、エキスパート資格保有歴の長い方が、バーの店主さんと語らっているのを横で聞いているだけでも勉強になった。「コート・シャロネーズの値が上がってきたね」などと話しているのを聞いた日は、教本で位置を確認し、記述を何度も読み返して脳内に刻み付けようと努めた。知識と経験の豊富な人たちの会話には、勉強のヒントや箴言があふれている。これはワインの勉強に限ったことではないだろう。
一次試験の勉強はどうしても座学に傾きがちだけれど、こんなふうに飲んでみることで頭にたたきこむことができる場合もある。そして、実際に飲んだワインは、教本の記述を読んだり問題集を解いたりするよりもはるかに鮮やかに、記憶に残るものだ。