ワインエキスパートへの道 その1
「ヴィオニエ! これ絶対にヴィオニエだ」 。声を出すことはできなかったため、心の中で叫んだ。2021年10月18日、目黒雅叙園のバンケットルームでのことだ。
2021年の3月から、日本ソムリエ協会が主催するワインエキスパート資格の試験勉強を始め、老いた脳細胞を無理やりフル稼働させて、分厚い教本の内容を頭にたたき込んで約5カ月間を過ごした。
それまでに数冊のワイン書籍を翻訳する機会に恵まれてきたけれど、しっかりと系統立てた勉強をしていなかったことが、私にはコンプレックスとなっていた。
翻訳者仲間からは「ワインエキスパート資格をもってる翻訳者もいるよ」と言われ、ワイン仲間からは「資格があると仕事にも役立つと思うよ」と受験を勧められていた。翻訳の参考用にと2013年と2019年の教本を購入してはたびたび参照して、大いに助けられてもいた。だけど数センチの厚みを誇り、しかも年を追うごとに厚みを増してきているあの教本の中身を自分が覚えるなど、到底不可能に思えて、試験からはずっと目をそらしてきた。そもそも、3年ほど前から書籍の翻訳仕事が続き、そのあいまに他の勉強をするなど、ただでさえ切り替えの苦手な初老の頭脳には無理だった。
(*辞典の横から順に2013年、2019年、2021年の教本 写真ではわかりづらいけれど580、710、790ページと、じわじわとページ数が増えている)
それが2021年3月、前年後半から取り組んでいた書籍の翻訳が終わり、世はコロナ禍真っ盛り。旅行もワイン会もできず、仕事も減ってしまい、時間だけはたっぷりあった。そこでふと考えた。「これは勉強をするにはうってつけのタイミングなのでは……。」
気持ちが揺らがないうちに日本ソムリエ協会のサイトを開き、受験を申し込み、知人に勧められた講師の方に連絡をして半年間のマンツーマン指導を依頼した。
こうして始まった”5△歳 真夏の大冒険”について、数回に分けて書いておきたい。
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