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003_いつも同じ心の位置でいられる?:スウィングする心と自分という迷子

人生って、ジャズみたいですよね。
高揚したり、沈んだり、突然アドリブを求められたり。
「いつも同じ心の位置でいる」ことは可能なのでしょうか?
今日はジャズ喫茶スマイルでリラックスしながら、この難問について、ジャズや哲学の視点から考えてみましょう。


スウィングしなけりゃ心じゃない?

ジャズの本質である即興演奏は、まさに「同じ心の位置でいられない」ことを前提としているのではないでしょうか。
ジャズプレイヤーは、その場の雰囲気、共演者との相互作用、そして自身の内的衝動に導かれ、瞬間ごとに新たなフレーズを創造します。
これは、固定化された感情や思考に留まることなく、常に変化する「今」を音楽で表現する行為と言えるでしょう。

平たく言うと、ジャズの即興演奏は、人生の縮図です。
予測不能な展開、予期せぬコードチェンジ。
昨日はハッピーなスイング、今日はメランコリックなブルース、明日はカオスなフリージャズ、という私たちの人生のように。

「今日はヘロヘロだ。なんか色々あったんだよね。」という愛すべき私たちのため(?)に、今回は桑原あいの"Somehow It's Been A Rough Day"(LIVE at BLUE NOTE TOKYO, 2019)を分かち合いましょう。

桑原あいの煌めくピアノに乗せた、ウィル・リーの自由なベースとスティーブ・ガッドのブラシワークがたまりません。
心の位置が定まろうが定まらまいが、今日がうまく行こうが行くまいが、すべては神様の手のひらの上。
足掻きもがいて苦しもうと、それも宇宙の采配のうち。
私たちのコントロールを遥かに超える内容で、人生は面白く展開していく。
そんな気持ちにさせられる、珠玉の一曲です。

ジャズプレーヤーは、楽曲の中でモードを転調させることで、感情や雰囲気の微妙な変化を表現することがあります。
これは、「同じ心の位置」ではなく、流動的で多様な心の状態を表現する手法と言えるでそう。(←噛んだ)

考えるな、感じろ!

西洋哲学、特に古代ギリシャ以来の伝統は、ロゴス(理性、論理)を重視してきました。
プラトンはイデア論において、真の知識は理性によってのみ把握されるとし、感覚的な経験は不完全で信頼できないものとしました。
デカルトも「我思う、ゆえに我あり」で、理性による自己認識を哲学の出発点としました。

これに対し、「考えるな、感じろ」というブルース・リーの有名な言葉は、理性による分析や判断を一時的に停止し、直観的な理解、身体的な感覚にアクセスすることを促しています。
一見すると反知性主義的な印象を受けますが、深く掘り下げると、西洋哲学の伝統的な理性偏重へのアンチテーゼとして、東洋思想、特に禅や道家思想に通じる深遠な意味が込められています。

禅は、言語や概念を超えた悟りを目指します。
公案を用いて論理的な思考を混乱させ、思考の停止状態を作り出すことで、直観的な洞察を促します。
「考えるな、感じろ」は、まさにこの思考の停止、言語化以前の直接的な体験を重視する禅の精神と合致していますね。

道家思想は、作為的な行動ではなく、自然の摂理に沿った無為自然を重視します。
「考えるな、感じろ」も、過度な思考による作為を捨て、自然な流れ、自発的な行動を促している点で、道家思想と共通しています。

東洋思想に関しての本は言わずと知れたベストセラー、しんめいP氏の『自分とか、ないから。』。
もともとは、しんめいP氏のnote記事『東洋哲学本50冊よんだら「本当の自分」とかどうでもよくなった話』を書籍化したものです。
天才と不器用さの同居から生み出される、形容しがたい不思議な文体。
哲学書(?)なのに、なぜか吹き出す笑いをこらえ切れません。
「空」や「縁起」「タオ」といった東洋思想の概念を、これほどまでにわかりやすく令和風にアレンジして説明した本は他にないでしょう。
難解な概念をわかりやすく伝える、しんめいP氏の熱量と咀嚼力にただただ驚嘆します。

お釈迦様は、完全に独立して存在する実体はないという「諸法無我」を説いたと同時に、生きとし生けるものすべて(一切衆生)に対する「慈悲」も説きました。
「慈」とは生けるもの全てに平安を与えるという慈しみで、「悲」とは苦しみを取り除くという憐れみです。

自分とかないにしても、私たちの本質は慈悲そのものなのかもしれません。
他人がいて慈悲に気付きます。
世界があり慈悲に気付きます。
私たちが感じる慈悲は、外側に探すものではなく、私たちの内側から引き出される本質ではないでしょうか?
私たちは、本来慈悲であることを、単に忘れているだけかもしれません。

慈悲を思い出す旅

ジャズや哲学を通して、「いつも同じ心の位置でいられる」方法を探ってきました。
ジャズには様々なリズムがあります。
スイング、ビバップ、ボサノバ…それぞれのリズムが独自のグルーヴを生み出します。

人生にも、人それぞれのリズムがあります。
他人と比較したり、焦ったりするのではなく、自分自身のリズムを見つけることが大切です。
ゆっくりとしたテンポでも、速いテンポでも、自分のリズムで歩むことで、「慈悲」を思い出し、人生を愛することができるでしょう。

人生は、ジャズのように即興を求められる音楽かもしれません。
不協和音も、転調も、静寂も、「慈悲」に気付くためのきっかけ。
全てを受け入れ、楽しむことで、私たちは慈悲そのものであることを思い出し、自分らしい人生を創造することができます。
私たちそれぞれのリズムで、人生というジャズを奏でていきましょう。

#ジャズ #哲学 #桑原あい #しんめいP #慈悲

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