さらわれたヨル(第一夜)
今日も街を一人歩くヨル。何年経っても変わらない景色と変わらない子どもの声。変わらないピンク色の花びらが舞い、今年も変わらない、私 ヨルが歩いている。たったひとつ 途切れてしまった景色は、あの日の夜。ヨルはさらわれたかった。ヨルは夜にさらわれて、あの日をもう一度確かめたかった。
あの日の夜は冷たい空気の膜に包まれていた。昨日の風で散ってしまった桜の花びらが地面を覆い、私たちはその地面を踏みしめながら同じ空の下 桜散るこの道を手を繋いで歩いていた。そこは二人の帰り道だった。