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「あくどい」と「せめぎあう」

 今回は「言葉の誤用っぽい状態」のお話です。

 まず、「あくどい」と言う言葉、どういうときに使いますか?
 多分この下に何か単語を足すとすれば、真っ先に思い浮かぶのは、「~商売」「~やりくち」などでしょう。

 では、「あくどい」って漢字でどう書きますか?
 というか、試していただきたいのですが、「あくどい」と入力して変換すると、どんな字が出てきますか?
 自分のケースだけで「絶対こうなるはず!」とは申しませんが――そもそも漢字変換、できなかったのでは?

 強いて漢字をあてるとすれば、「悪どい」ではなく「灰汁あくどい」です。

 なぜ突然こんなことを言い出しかといえば、先ほどYou Tube動画をBGM的に流していたら、自動読み上げで「ワルドイ」という言葉が出てきたからです。
 wildワイルドのアナグラムか何かと思ったら、単に「悪どい」をそう読んだだけのようです。
 自動読み上げ自体がびっくりするほど精度が悪いことも多いので、実際のところはどうだか分かりませんが、単なる読み間違いではなく、「あくどい≒悪どい」という認識した上での誤りのような気がします。

あくどい
1 程度を超えてどぎつい。やり方が行きすぎてたちが悪い。
「—・い宣伝」「—・商売」
2 色や味などがしつこい。
「化粧が—・い」「柄 (がら) がけばけばしくて—・い」

goo辞書

 このように、そもそも純粋に「悪い」という意味はありません。
 2の意味で使う人はあまりいないし、使ったら絶対、別な意味に捉えられるでしょう。

 「嘯うそぶく(大言壮語する・または・知らないふりをしてとぼける)」を、「うそ」という音に引きずられて「うそをつく」という意味で使ったり、「すべかららく(ぜひともそうすべき)」を、「すべ→全て」に変換してしまうような事例に近いかもしれません。
 実際、「あくどい商売」だと、詐欺まがいのやり口をそう指しているならば、「悪い」のニュアンスになってしまうし、やっかいではあります。

 ちなみに付け加えると、標準用字例では「あくどい」という見出しと用例だけで、漢字をあてる前提にはなっておらず、記者ハンドブック(第14版)では、「悪どい」と書いた上で、「悪」の字の脇に▲(誤用の字という意味)が添えられています。

 ジャーナリストの本田勝一氏は、誤字であることを承知の上で、「こっちの方が実態に合っている」という理由で、アメリカ合衆国ではなく合国と表記しました。
 また、「健康」を「健幸」と書いたり、「人材」ではなく「人財」と表記したりといった、誤字というよりも、敢えての当て字的なものもたくさんあります。
 創作(エッセイを含む)活動においては、自分だけの造語をしたり、敢えてそう表記したりというこだわり・・・・が、ある程度認められてもいい場合もあるでしょう。

 ただ、老婆心ながら一言。
 実は特に強いこだわりもなく、ただ単に間違えていた場合、自分の認識が誤っていたことを認めて改めるのと、「わざとこうやってんだよ、ほっとけ!」と強弁して使い続けるのと、どちらが心理的に楽かということをひとまず考えることをお勧めします。


次に、唐突ですが、 「せめぎ合い」という言葉があります。

せめぎ合い
互いに争うこと。「政権をめぐる—が続く」

goo辞書

 この説明だと、例えばスポーツや学業成績など、切磋琢磨(のちょっと過激なやつ)的なニュアンスを感じないでもありません。これ「競い合う」では駄目なのかな?

 では、根本的に「鬩ぐ」とはどういう意味でしょうか。

鬩ぐ
1 互いにみ争う。2 責め苦しめる。【goo辞書より引用】
※傍点は筆者によるものです。

goo辞書

 やや血なまぐさいいというか、競争程度では済まない雰囲気になってまいりました。遺産を巡る骨肉の争いとか、暴力団同士の抗争の方が近いかもしれません。

 とはいえ、例えばスポーツの対戦相手(やレギュラー争いのライバル)、「受験戦争」とも表現される競争の中では、自分以外は全員にっくき敵という感情も否定できない場合もあります(20年以上続いている某テニス漫画の試合のシーンは、今やほぼタマり合いと化しています)。

 それだけに、「なんか個人の温度差はあるけどその辺の意味でしょ」で通ってしまっているのが、この「せめぎあい」ではないかと思います。

 あまり深く考えずに「その辺の意味」で使っている言葉を改めて調べ直してみると、面白い収穫があるかもしれません。

 終始疑問を持ち過ぎ、辞書ばかり引いていると、仕事も執筆も進みませんが、たまにはいいでしょ、たまにはね。コトバ警察になるギリギリのところまで攻めてみるのも一興です。


 

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