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小説「対抗運動」第1章5 ミネラル炭工場にて

高橋さん「どっから来た?」

おいさん「東京と四国です。」

高橋さん「ほーっ。ちょいとこれ運べや。そこのネコ使ってっよ。」

おいさん「舞ちゃん、やってみるか。」

舞ちゃん「おいさん、ネコてなんよ?」

おいさん「はっはっはっは・・・。舞ちゃん、一輪車は知っとろう?あれじゃがね。」

舞ちゃん「うん。体育の時、使ったよ。水溜り埋めるのに土、運んだ。」

おいさん「OK。じゃ、あっちの小屋からもみがら運ぶけんね。」

舞ちゃん「おいさん、もみがら、重いね。」

おいさん「あーん?」

舞ちゃん「風、吹いたら飛ぶ、と思うとった。」

おいさん「ちょっと湿っとるけんね。まあ、二袋ずつやけんね。舞ちゃんが運んだ土は山盛りやないやろ。もみがらも、山盛りじゃったら、そら重いよ。ほい、行くよ。」

舞ちゃん「高橋さん、これどこに?」

高橋さん「そこの山にどんどんぶちまけろや。あんまり踏み込んだら、かゆっくなっぞ。」

舞ちゃん「ハハハ・・・。おいさん!ほんとにかゆなった。」

おいさん「ふふう。そいでええんじゃ。仕事、面白かろがね。」

舞ちゃん「おいさん、高橋さん、怖い?」

おいさん「はっはっはっ。舞ちゃん、この仕事終るころには高橋さん好きになっとるよ。」

佐藤さん「舞ちゃん、舞ちゃん、ミネラル炭が出来るところを見してもらお。」

高橋さん「このでっかい機械の上の方へベルトコンベアでもみがらがのぼっていく。そして粘土をまぶされて落ちてくる。」

おいさん「次ぎは、この大砲の化け物のなかで、ぐるぐる焼かれながら進んでいく。作業の始めに、この大砲の入り口のところをバーナーでしばらく焼くんじゃな。真っ赤にやけたら、もう燃料はいらない。今度はそこに入るもみがらが次々真っ赤な炭になっていくから、作業をやめるまで800度の高温が保たれる。」

佐藤さん「一番先まで行って落ちたらミネラル炭になっとる。これは阿部さんというお百姓が作ったんじゃと。阿部さんはね、新庄のエジソンと呼ばれとる。」

おいさん「おー、できよる、できよる。ちっさい粒やね。この工場が出来るまではね、冬は農業できんけん皆出稼ぎじゃったと。ほいでもね、出稼ぎ先でも勉強会はしよったんじゃと。栽培法や農法をそれぞれが研究して発表しおうたそうや。東京では、どこぞの大学の先生のとこに皆が集まって勉強したと。」

舞ちゃん「なんでこのミネラル炭がええん?」

おいさん「炭にはね、ちっちゃな穴がぎょうさん開いとるんよ。まあ、有害物質がそこに吸い取られるんじゃね。でも、もっと大事なのは、その穴が微生物の住処になるんよ。元気な土はふかふかしとるんよ。こんな土だと作物の根が一発で元気になるんやと。いっぱい微生物が住んどるけんね。雪の下でも凍らんそうな。」

舞ちゃん「ふーん。」

おいさん「それにね舞ちゃん、もみがらは今までやっかいものやったんよ。土にまぜてもなかなか腐らんから、少しずつ燃やしよったんやと。だから原料費はただや。むしろよろこんでくれるんよ。量もなんぼでも集まるしね。」

舞ちゃん「高橋さん、Cの農家になってくれるかなあ?」

おいさん「はっはっはっは。舞ちゃん、おいさんとこでもみがらミネラル炭が売れ出したら、ね、間違いなくなってくれるよ。」

執筆:飛彈ゴロウ、2003年1月29日

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