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大陸横断紀行④

目が覚めたのはもう9時頃で、日がすでにリノの街を照りつけて、全てのものを熱く焦がし始めている状態であった。わたしは着替えてからビュッフェで朝食を摂るべく、お食事券を手に一階にエレベーターで降りていった。

アメリカ人はベーコンが好きであるが、それには概ね二つの出され方がある。まず多くのアメリカ人が好むカリカリ焼。油が全部抜け落ちるまで炭になるまで焼く方法。これはわたしにとって望ましくなかった。なぜならば、ほぼ炭化している肉にもはや旨味はなく、ただ単にシャリシャリとした食感が残るだけだったからだ。そして第二に、豚トロのように若干の食感を残した焼き方。これをわたしはペッチョリベーコンと呼び、好んで食べた。少し塩気が強いサンギョプサルと形容したほうがわかりやすいかもしれない。そして幸福にもビュッフェのベーコンは後者であった。これに白米があれば完璧なんだが‥

食事を終えたら時計はもう10時を過ぎていた。早く旅路に戻らないと、到着予定日をずれ込む可能性がある。わたしは早めにチェックアウトを済ませ、駐車係の詰所に足を運んだ。昨日とは違う、だいぶ歳を召された爺さんに引き換えの伝票をわたすと

「旦那、少々お待ちを」

といささかぶっきらぼうにわたしに言い、車を取りに行った。 しばらくロビーで待っていると、駐車場から例のレクサスが出てきた。そしてあの係員の爺さんが、態度を180°変えて鍵をわたしてきた。

「いやあ旦那さま、いい車ですなあ、どちらまでで?」

と聞いてきたのでわたしはペンシルベニアに向かう道中だと答え、チップを渡してから車に乗り込んだ。普通の相場より少し多めに渡してやったからかやっこさんはいささか恐縮した様子でありがとうございました、といい、わたしはホテルを後にした。

リノの街は小さい。高速に乗ってしまうとあっという間に何も生えていない谷の中を延々と進むことになる。途中で小さな街は何か所か点在するものの、基本的に人は少なく、火星にでも来たような錯覚に陥る。そして数時間車を走らせていると間もなく真っ白な砂漠の中をひたすら直線の高速道路が続く区間に差し掛かった。これがグレートソルトレイク砂漠といわれるとても乾燥した、土地の塩分が極めて高い地帯であり、州境を渡ってユタに入ったことを意味していた。それにしても地平線の果てまで白だ。こんなところで方向感覚を失ったら万事休すだろうな、と過去にここを横断したであろう開拓者たちに思いを寄せながら車を走らせた。だが彼らと違ってわたしは逆の東へと進んでいる。相変わらず五里霧中の旅ではあったが、とりあえず今日はソルトレイクシティーの先まで行ってしまおうという、直近の目標が見えてきた。

つづく


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