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Homecoming⑧

バスターミナルに戻ってパソコンを開いた。Eからのメッセージは減っていたが、まだ未読のものがたくさんあった。アマンダからのそれは前の倍であった。心配させたくなかったので先に彼女に連絡を取った。

「セントルイスから全く音沙汰がなかったから心配してたよ??今どこにいるの?」

「テキサスだ。心配させて悪かったけど、バスに乗ってるだけだから大丈夫だよ」

「そうなんだけど‥あとEと話したよ」

「えっ、やめてっていったのに。どういう話をしたの?」

「わたし、色々耐えられなくなって、怒鳴っちゃった。あなたをこんな目に合わせるなんてありえない。それに‥」

「それに?」

「なんでもない。とにかく次に長く止まるときにちゃんと連絡してね」

「わかった‥じゃあ、ニューメキシコについたら連絡する」

「ちゃんと連絡してね?あと気を付けてね、連絡して」

そう言って通話を終えた。彼女は一体Eになんて言ったんだろう?そう思いながら今度はEに連絡を取ってみた。出る気配がない。仕方がないのでパソコンを閉じてバスの発車時刻まで入口で待つことにした。目の前には真っ青な空が広がっていた。今までの、暗い雪雲がすべてを灰色の世界にしていた東部とは明らかに違う空にふと安心を覚えた。テキサスを出ると、もうニューメキシコだ。南西部の砂漠地帯を通ることが不思議にも待ち遠しかった。

やがて係員がいつもの発車案内を始め、わたしはバスに戻った。ターミナルを出発するバスの中でさっき入ったコーヒーショップを眺めながら、二度とここに来ることはないし、東部に再び戻ることはないだろう、と考えていた。それだったらもう少し観光っぽい事をしてもよかったかもしれない。わたしは、わずかばかり後悔したが、この旅にそんな精神的余裕はなかったことを、狭いバスの席が思い出させてくれる。

バスはしばらくテキサスの農地の中を走っていたが、それもしばらくすると、農地は荒野に変わっていき、それが砂漠と変わっていく。赤い大地が見える頃になればニューメキシコはもう目と鼻の先だ。そしてニューメキシコ、アリゾナを走り抜ければあっという間にカリフォルニアだ。旅に終わりが見えてきて、フィラデルフィアを出発して初めて安心感を覚えた瞬間でもあった。

南西部の空は広く感じる。日が出ているときでも地平線と空の境界線がわからなくなるときがあった。そんななにもない大自然の中をバスはたまに停車しては乗客を乗り降りさせていた。彼らは、あらかじめ決められたバス停まで送り迎えをして貰うのだろう。こんなところでも人々が生活をしている。案外人というのは、地球上ならば割と何処でも住めるのかもしれない。そんな考えをよそに、バスは夕暮れの砂漠の中をアルバカーキへ向けて高速道路を走り続けた。

つづく


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