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賃上げの波と高卒求人について
高卒就職問題研究のtransactorlaboです。
令和5年度がスタートしました。
コロナ禍が収束に近づき、新しい時代の到来を感じさせる話題が巷に溢れています。
最賃区分の再編!
そんな中、高卒就職問題を研究している者にとっては衝撃的なニュースが飛び込んできました。
最低賃金の区分を現行のABCDの4区分からABCの3つに再編することになったというニュースです。全国平均1000円と地域間格差の縮小を狙っての改革だとのこと。
新しい最賃制度は例年9月末から10月初めに発効します。つまり、今年度求人を出される事業者はそれを見越して待遇条件を考える必要があります。これまでになく大幅なアップが予想されますので、現行の基準ではまたすぐに組み直さないといけなくなる懸念があります。
月給換算ではどれぐらいの上乗せか
では、どれぐらいの上乗せが必要でしょうか。
最低賃金額の全国平均額は902円(2020年10月)、930円(2021年10月)、961円(2021年10月)と、約30円ずつ上昇しています。これがいよいよ1000円の大台に乗るかというところが2023年10月の改訂で注目されるところです。
おそらく今年は35円ぐらいにとどまるのではないかと私は見ていますが、仮に35円だったとして月給換算ではどれぐらいになるかというと、だいたい5500円の上昇となります。
これは以下のような条件での試算です。
・週休2日
・年間休日数105日(一ヶ月当たりの労働日数21.5日)
・一日の労働時間7.25時間(8時間から休憩時間45分を引く)
(厚労省が最低賃金ラインの計算方法を出しています。正しくはこちらをどうぞ。)
つまり、最賃961円の地域での月給制の平均的な最賃ラインは
961円×7.25時間×21.5日=149,795円
最賃が35円上がると
996円×7.25時間×21.5日=155,251円
高校現場で手にとって見てもらえるラインは?
ただし、これはあくまで最賃ルール限界ギリギリのラインで、学校のテストでいうと赤点ライン。これをクリアしているとか、1割から2割高いぐらいでは応募が来る可能性はほとんどないでしょう。なんといっても求人倍率3倍以上の超売り手市場です。高校現場で手に取って見てもらえるかどうかのラインはもっと上がります。
現在の最賃区分がC(900円~950円ぐらい)の地域では
・年間休日数110日
・月給19万5千円
このあたりが高校就職支援の現場での仕分けラインになるかと思います。
高卒就職問題に関して
若者人口が減り、若い働き手の稀少性が高まっているにもかかわらず若年層の賃金の上昇は極めて緩やかです。若い世代にもっと多くのお金が廻るようにしなければ我が国の経済は縮小し続けます。そして税収が減り、安定した国家システムの維持が困難になるでしょう。
私が問題視しているのは、高卒就職市場において求人倍率が高騰しているのに初任給の大幅な上昇が起きていないという事実、つまり「市場の不健全さ」です。
高卒の就職希望者の割合は全体の15~20%と小さいものですが、高卒初任給は多く企業の賃金体系の基盤であると同時に、地域ごとの最低賃金算定に大きく影響します。ゆえに、高卒初任給上昇の鈍さは全ての労働者賃金上昇の足かせであると言えるでしょう。
なぜなのでしょうか?何が若者の賃金待遇向上を抑制しているのでしょうか?私は何年も考え続けてきました。
ひとつは、高校生の保護を目的として形成されてきた高卒就職独特のルールです。人が多く求人倍率が高かった時代、イス取りゲームが激しかった時代は保護の効果はたしかにあったでしょう。しかし、少子化・人口減少が進行し、超売り手市場となって以降は、若者ではなく人件費を抑えたい雇用側の味方になっているように思われます。
もうひとつは、私たち大人の中にある古い常識、「高卒ならこれぐらいじゃないの」という感覚です。それは昭和の時代、人口増加の時代、イス取りゲームが激しかった時代に形成されたもので、年配の方ほどその傾向が強いのではないでしょうか。
そして、これらの改善を遅らせているのが待遇相場情報の不足です。高卒市場には、閉鎖的であるという特徴があります。それは前述のとおり、高校生や教育現場を保護する機能を果たしてきましたが、限られた範囲の人しか求人情報にアクセスできない状況を作ってしまいました。
市場が市場として正常に機能するには、一定のルールと相場情報が関係者の間で共有されていなければなりません。ところが、高卒就職市場の場合は、求人事業者が求人情報にアクセスすることができません。
これが求人倍率の上昇に賃金の伸びが伴わないことの要因のひとつになっている・・・私はそのように考えています。
この問題は様々な社会的損失を生んでいます。
我が国にとって最大の課題は少子高齢化による生産年齢人口の減少、税収減少や国家経済の弱体化、そして国家システムの破綻という流れをいかにして食い止めるかです。最近、政府は少子化対策として子育て世代への給付金を検討しているようですが、それが果たしてどれぐらいの効果があるのか疑問です。本当に必要なのは、子育て世代よりももっと若い世代の所得を上げることではないでしょうか。
おそらく、この問題を解決するには職業安定法を初めとする、高卒就職の枠組みを規定する様々なルールや慣行の時代に合わせた改正が必要です。それには沢山の人にこの問題について知っていただかなければなりません。
このような考えから、これからも調査研究活動と発信を続けたいと考えております。
上記ホームページでは、都道府県ごとの待遇相場や充足状況などの調査レポートを提供しています。 自由にダウンロードできますので、どうぞご活用ください。高校生の就職支援や求人待遇条件の見当資料などに使っていただければ幸いです。