高卒就職市場には情報そのものと流れの改善が必要だ
高卒就職問題研究のtransactorlaboです。
今回の提言は、関係省庁諸機関、とくに厚生労働省職業安定局の方々および各都道府県労働局の方々には是非ご覧いただき、早急に対応していただきたいと思います。
本稿タイトル「高卒就職市場には情報そのものと流れの改善が必要だ」は次のような意味を含みます。
・高卒就職には改善すべき問題がいくつも存在している。
・産業種ごとの求人数や賃金、希望者の数、相場が分かる情報が少ない、出てくるスピードが遅い、詳しさが足りない。
求人倍率の発表が遅すぎる
タイトル画像に「疑問 高卒就職 求人倍率情報が遅すぎる」と文字を入れてあります。求人倍率は求人数÷求職者数です。7月1日、高卒求人公開とともに高卒就職戦線がスタートしましたが、あれからほぼ1ヶ月、未だに全国の求人倍率は発表されていません。例年出てくるのは試験解禁直前の9月10日前後です。遅すぎます。なんでこんなに遅いのでしょうか?
就活高校生は7月1日から2~3週間という短い期間のうちに、膨大な数の求人票の山の中から志望候補を3社程度選ばないといけません。欲しい情報が遅すぎるだけでなく、詳しさも足りないのです。
遅いだけでなく詳しさが足りない
欲しいのは産業種別の統計情報
生徒が志望先を選ぶ段階で欲しいのは、当該地域の業種別の競争倍率や賃金等の待遇に関する情報です。つまり、自分の志望選びに関係する相場情報です。全体の求人倍率がいくらかは、大人は気になるでしょうが、就活高校生にとってはあまり重要ではないのです。
ハローワークはそれらを算出するための情報を持っているので、やろうと思えば株式相場のようなリアルタイム表示だってできるはずです。それは極端としても、早ければ7月1日求人票公開と同時かそれ以前、遅くとも7月半ばぐらいには発表できるはずです。
一枚一枚の求人票は差し込み印刷の印刷物みたいなものですので、元のデータベースが存在します。そのデータベースを活用すれば業種別の求人件数・求人数、賃金平均などの集計は全然難しいことではありません。
前々回のブログ「7月1日公開直後の様相」の資料として載せたのは、私が厚労省労働局所管の高卒就職情報WEB提供サービスにあった求人一覧データCSVをダウンロードして集計したものです。つまり、厚労省が持っていてWEBサービス上で私たち教員に「使っていいよ」と公開しているデータベースを全国分縦につなげ、単純に合計や平均を出しただけです(下の表)。
私がこの資料を作るのにかかった時間は1時間半程度です。
あのCSVデータが都道府県単位の小分けでなく、全国を一つにしたものがあれば30分ぐらいでできるでしょう。
また、あのCSVデータの中の産業種が「食堂,レストラン(専門料理店を除く)」のような文字だけの記載ではなくコード番号での表示であれば、下のような産業種別の統計も同じ作業で簡単にできます。(下の表は求人数の集計)
ただしこの集計は前述のWEBサービスCSVデータを元にしたものでなく、(それができれば非常にありがたいのですが・・・)1枚1枚の求人票をダウンロードしてその内容をエクセルに入力するという膨大な作業の末、作ったデータベースを元にしたものです。
何故そんな手間がいるのかというと、WEBサービスのCSVデータには労働日数(または年間休日数)が入っていないからです。他の、はっきり言ってどうでもいい情報はごちゃごちゃ載せているのに、こんなに重要なデータをわざわざ隠すのはどうしてなのか、理解に苦しみます。どこからか圧力でもかかっているのでしょうか、そんな疑いを持ってしまいます。
求人倍率を出すには求職者数情報が必要です。その求職者数は高校が生徒に対して行う、いわゆる進路希望調査がが元になります。高校側はその結果を元に、ハローワークが要求する調査様式に従って毎月報告を送ります。初回報告は5月連休明けあたりですので、求職者側のデータベースは5月末には出来上がっているはずなのです。
7月1日求人票公開と同時に出せるはずの情報を出さないのは何故?
求人側求職者側双方のデータベースを揃えて持っているわけですから、7月1日の求人票公開と同時に、産業別に求人件数・求人数・賃金平均・休日数平均、求職希望者数も産業ごとに、もちろん求人倍率も産業別に出せるはず。それにもかかわらず出さないのは何故なのでしょう?わかりません。紙とソロバンで処理していた時代の日程を現代も守らなければいけない理由はいったいどこにあるのでしょうか。
同時が難しいのであれば(そんなことはないと思いますが)せめて7月第1から第2週あたり、就活高校生が求人票選びをする時期に十分な相場情報があるべきです。それがあれば、例えば、競争率が高い産業種から安全性の高い方への変更、賃金や待遇がよりよい方への変更などの判断材料になり、より効率よく間違いリスクが少ない選択が可能になるからです。ただしそれは、夏休みに入る前でなくては役に立ちません。
現在は残念なことにそのような情報は出てきません。出てくるのは、応募書類を発送し終わった1週間後、9月10日前後です。
これって、就活高校生の役にたちますか?
やろうと思えば簡単で、学校現場から求められる情報なのに出さないのは何故なのでしょうか?「昔からそうだったから」からか、それとも、何か別の理由があるのでしょうか?
全国の労働局の中にはやろうとしているところもある
6月1日が求人票受付開始で7月1日が公開開始ですが、全国の労働局の中には6月中旬に中間発表をしてくれるところも少ないですがあります。または、全てで行っていて発表もしているが、私の探し方が悪くて見つけることができていないのかもしれません。
しかし、見つかった「いくつか」のうちでも、その時点の求職者の状況(就職希望者数や産業別希望者数など)と合わせた産業種別の求人倍率が分かる情報はありませんでした。
だから、「できる」のだということは明白なのです。地域の労働局ごとに統一性がないことも明らか。しかし、やれるのにやらない、やったとしても遅すぎるのが何故なのか、わかりません。
相場情報は求人事業者側にも必要 期待される効果
求人事業者の側にも相場情報は必要です。たとえば、自社の産業種を希望する生徒が当初想定より少ないと分かれば、待遇条件変更の検討をしたり、より採用努力を強めたりすることもできるでしょう。
今は、相場が分かる情報が少なく、出たとしても遅すぎるため、求職者側も求人側も状況に応じた対応を取りにくいのです。このことが市場の動きを小さくし、結果的に不健全な状態を長引かせているのではないか・・・これが私の仮説です。
情報の流れがよくなれば、産業種ごとの求人票の賃金や休日数の平均値、同じく産業種別求職希望者数と求人倍率などの変動活発化が予想できます。
求人倍率が高騰し、高止まりしているにもかかわらず、賃金平均は相変わらず最低賃金ライン+1割から2割程度。この状況は今年もあまり変わっていません。
この市場の不健全さ、または(百歩譲って)変化の遅さにより不利益を被るのは第一に高卒就職者です。若手を採用したい事業者にとっても望ましい環境ではありません。
高卒就職市場の相場には情報の流れの改善が必要なのです。
以上、としようかと思いましたが、関連してもう一言。
学校への調査 ~多大なコストと成果を社会に還元する責任
高校の進路担当教員(通常「進路指導主事」といいます)は、3年生の進路希望状況および合格・内定状況に関する調査報告を月1回から2ヶ月に1回の頻度で行います。調査項目の概要は以下のように多岐にわたります。
(調査項目の概要)
・卒業予定者数
・進学希望者数(その希望学校種 大学/短大/専門学校/その他)
・就職希望者数(県内/県外/公務/その他)
・就職希望産業種(製造業/建設業/卸売小売業/飲食宿泊・・・など)
これらを全て男女別に、県内外別に集計して報告しないといけません。
これだけもかなりの仕事だとご理解いただけるでしょう。しかも調査項目が微妙に異なる調査が文科と厚労の2つの役所から求められるのです。
調査を求める側は自分のところに上がってきたものを見るだけですから現場の負担は何も分からないでしょう。しかし、やらされる方の労働負担とストレスは大きいのです。現場サイドは、一本化すれば大幅に軽減できると分かっているのでなおさら徒労感が強い。
3年生の進路状況という一つの実態に関する2つの役所からの「微妙に異なる」調査に答えるという形です。校長名での数字の報告文書なので、正確はもちろん、両者のつじつまが一致していないといけません。この両者のつじつまは、二つの調査元(文科と厚労)にとってはそれほど重要ではないのですが、学校側は厳密にやります。担当者がもちろん大変ですが、教頭・事務長・校長など何重のチェックを経る必要があるので、かかる時間は相当なものに上ります。
1回の調査報告を作成からチェック完了、発送までに仮に10時間かかるとします。日本全国には高等学校は5500校以上。計5.5万時間!教員の平均時間単価は安めに見ても約2500円。1回の調査報告に少なめに見積もっても1.38
億円のコストがかかる計算になります。
厚労には毎月、文科にははふた月に1回の頻度で、5月から年度末まで続きます。さて、3年生の進路状況調査には年度で合わせるとどれぐらいのコストがかかっているのでしょうか。数十億円規模でしょう。
もちろんこれは教職員の労働力を時間単価に換算しての話ですので、本当にどうかは誰にも分かりません。しかし、現在多大な時間と労力を要するということ、および、一本化すれば半減できるということは確実です。
この進路状況調査の一本化の要望は現場サイドから何十年も出されていますが、ずっと無視されてきています。なんで無視できるのでしょうかね?
非効率な業務の放置は公費の無駄遣いそのもの。放置は罪に近い。私はそう思います。
公費を使った調査ならば結果を速やかに社会に還元するのが調査側の責任であるはず。厚労省は高校卒業予定者の進路状況調査について、高校側に大きな労働コストを負担させてていますが、その成果を社会に十分に還元できているでしょうか。
十分だとは言えないはずです。
以上です。
最後までお読みくださった方、ありがとうございました。
改善が少しでも早まりますので拡散していただけると幸いです。
また、2022年7月前半の全国高卒求人票の統計結果をホームページで公開しています。求職者数データがまだ入手できておらず不足感は否めませんが、いくらかの参考にはなると思います。どうぞご活用ください。
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