『カイゼン・ジャーニー』①一人で始める改善活動
業務改善を題材にしたビジネス小説はたくさんあるが、ストーリーの導入は実に様々。
経営危機からはじまるものもあれば、謎のコンサル登場から始まるものもある。起承転結の「起」の部分は、読者の興味を引きつけなければならず、役割も期待も大きい。
その点、本書『カイゼン・ジャーニー』はこれまで出会ったなかで最高の導入といえるかもしれない。
『カイゼン・ジャーニー』について
『カイゼン・ジャーニー』
市谷 聡啓 (著), 新井 剛 (著)
ITエンジニアとしてSIer企業に勤務する江島は、問題だらけのプロジェクト、やる気のない社員たちに嫌気が差していた。そんな中、ある開発者向けイベントに参加したことがきっかけで、まずは自分の仕事から見直していこうと考える。タスクボードや「ふりかえり」などを1人が地道に続けていると、同僚が興味を示したため、今度は2人でカイゼンに取り組んでいく。ここから、チームやクライアントを巻き込んだ、現場の改革がはじまる。チーム内の軋轢、クライアントの無理難題、迫りくるローンチ…。さまざまな困難を乗り越え、江島がたどり着いた「越境する開発」とは。
内容(「BOOK」データベースより)
IT企業が舞台なので、製造業とは少し異なる事情があるのは否めない。物語が後半になればなるほど、アジャイル開発を中心とした内容が色濃くなっていく。
物語は3部構成で
・第一部 「一人から始める」
・第二部 「チームで強くなる」
・第三部「みんなを巻き込む」
となっている。このうちの第一部「一人から始める」がとても胸に響いたので、noteで本書を取り上げたいと考えた次第。
改善の始まりはいつも孤独
新しいアイデアを思いついたとしよう。せっかくなのだからチームや組織全体に広げて大きな改善につなげたい。そう思うことは決して珍しいことではないと思う。
しかし常につきまとうのは「じゃあどうやって?」という問題だ。自分が経営者やマネージャーなら強い影響力を発揮できるのかもしれない。が、もし自分がただの一担当者にすぎなかったら?何から始めてどうつなげる?
本書では主人公である江島の視点を通じて、一つの成功例を疑似体験することができる。きっと多くの読者が似たような経験をしたことがあるだろう。「ひょっとしたら、これは自分がモデルではないのか?」とすら錯覚するかもしれない。(はい、僕自身もそうでした。)
本書最大の魅力は、この第一部にある。改善の火を点し、実践につなげていくための「心理描写」ど「実践方法」の提示が具体的で素晴らしい。
一方で第二部と第三部は、担当者からマネージャーの視点に移っていくので、人によってはあまり感情移入できないかもしれない。
同時に、先述のように、アジャイル開発に焦点が当てられるので、必ずしも期待する改善手法が学べるかどうかも人によるところだろう。
というわけで、このnoteでは第一部の魅力についてまとめていくつもりだ。第二部、第三部は気が向いたらということで勘弁してほしい。