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【Self-reference ENGINE】生まれて初めてのちゃんとしたSF小説体験【書評】

こんにちはtozicaです。
今日は日曜日!

この記事は、エロゲーとか作ってるクリエイターの制作日記です。
noteなので直接的なエロ表現はありませんが、えっちな話が苦手な人は気をつけてね。

注意書き

Self-Reference ENGINE 読んだ

円城塔氏の「Self-Reference ENGINE」を読みました。
前に同氏の「リスを実装する」を読んでみてなかなか面白かったので、代表作であるこちらも読んでみようかな、という流れ。

今までの人生で、サイエンスフィクションというジャンルの本をあんまりちゃんと読んだことがなかったんですよね。
子供の頃に星新一のショートショートを片っ端から読んでたくらい。
なので、本作がサイエンスフィクションという界隈から見てどういう作品であるかというような論評はぜんぜん分からないんですけど、とりあえずぜんぶ読んだ。

本作は、全体の構成としては短編集のような形態をとっていて、20編ほどのお話が収録されています。
一方で、これらのお話は全て一つの世界観をベースにしているので、同じ登場人物が異なる話で登場したりもするし、前の話で出てきた出来事を前提として語られるお話があったりもする。
ここらへんの構成は、個人的には伊坂幸太郎の短編集とかでもよく見るパターンだったので、割とすんなり読めましたね。

今作で軸となる世界観設定として、時間の流れが一次元ではない、という設定が置かれています。
わたし達が住むこの世界では、当然のことながら時間は一方通行です。過去から未来へ伸びる一本の直線。
作中で ”イベント” と呼ばれる事件以後、もともと一本だけだった時間の流れが、向きもばらばらないくつもの線に分かたれてしまった……というのが本作における基本設定になっています。
そんな感じの設定なので、過去改変とか、並行多世界とか、そういう類のワードが至るところでどんどこ出てくる。

20の短編は、そのような世界観における様々な時空の出来事を抽出したような形になっています。
未来から過去に飛ぶ弾丸に撃たれた少女の話。
祖母の家の床下から発掘された20体のフロイトの死体の話。
自然法則をコードとしてプログラムされ、世界を書き換える能力を持ち神となった人工知能、「巨大知性体」の話。
そんな感じで登場人物もノリも異なる、しかし根幹の設定は共通したお話が20個出てくる。
どのお話も面白かったんですけど、個人的には「Tome」っていう話がお気に入り。鯰文書と呼ばれる時間経過で自己消失する文書と、自己消失オートマトンという「自らが存在したという事実すらも消し去る」理論を発明した女性の話。

そんな、わたしにとっては生まれて初めての ”ちゃんとした” SF小説体験だったわけですけど、最初に本作について自分なりの感想を述べるなら「全体像はあんまりよく分からなかったけどなんとなく面白かった」…みたいな感じで、うん、面白かったな。
語り口がちょっと理屈っぽいのに、それでいて軽妙なので、割とするする楽しく読める文章だったのが良かった気がする。
裏で設定がすごい練られてるタイプのゲームを遊び終わった後の「細かいところはよく分からなかったけど…なんか面白かった!」ってなる感じの読み口だった。

短編の間で様々な設定や用語や登場人物が共通してるので、恐らくわたしが読み込みきれてない設定とか伏線とかもあるんだろうなぁと思ったりもするんですけど。
本作のエピローグの中で「これは無数にある多世界の出来事をたった20個持ってきただけだからね!」みたいなことも書かれてるので、実はそんなに真面目に考えなくてもいいのかもしれない。
そういう意味では、じっくり深読みしてもいいし、わたしみたいに上辺だけ楽しんでもいいし、割と懐の深い作品だったような気がする。

そんなわけで、初めてのちゃんとしたSF小説、新鮮な体験でしたね。
これを機に色々読んでみてもいいかもしれないなぁ。

おしまい。

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