読書感想文『二人一組になってください』木爾チレン著 双葉社

「二人一組になってください」
体育の授業、サークル活動、会社の研修……そこかしこで発せられるこの一言も、本作を読み終えれば、罪の意識、あるいは自分が透明な存在になる恐怖の代名詞に変わってしまうことでしょう。

見て見ぬ振りをする罪。見えないいじめ。単なる令和版バトルロワイヤルで片付けるのは勿体無い、とても大きなテーマに挑んだ意欲作だと思います。私自身、いじめられっ子だったこともあれば、いじめっ子になったこともあり、読んでいる間、自分の犯した罪と心の古傷の痛み、両方から救われたい気持ちでいっぱいでした。

大人と子供の境界、社会性と承認欲求とコンプレックスが入り混じったスクールカーストのいやらしさも、お腹いっぱいになるほど見事に描かれています。そして、結局、大人になっても本質的には変わらない、私たちの生きる現実世界の人間関係だとか、階層構造を想起せずにはいられません。

私の大好きな木爾先生の描くガールズパワーというか、素晴らしい女子の友情描写は本作でも炸裂しており、数え切れないほどの胸キュンポイントがありました。重ためなテーマの中でも、イヤな奴はしっかり酷い目に遭い、救われるべき人には救いがあるおかげで、ちょっとダークな爽快感が生まれています。

もし小説を書くならここをマネしたいなと思ったのは、中盤に中野勝音の章で自ら語っている過去と、終盤に重要人物が語る姿とのギャップです。「信用できない語り手」により、都合よく認識を歪めてしまう人間の性が炙り出されていて、皮肉感たっぷりなところがゾクゾクしました。

失格描写に個性があるのも面白かったです。この人はどうなるんだろう?と各章を楽しんで読むことにつながっています。陰湿銀行員としては、ゲームの実現性や、失格時の制裁のからくりがどんな技術によって実現されているのかとついつい考えてしまうところですが、そこを追求するのは不粋でしょう。エンタメとして素直に楽しむべきだと感じました。

臭い物に蓋をする、都合の悪い何かを透明にしてしまう、これを悪だと真っ向から切り掛かっているところに著者である木爾先生の願いを見た気がします。本当に自分はやらないか?現在進行形でやっていないか?作品を読み進めるためには何度も自問することになります。

私は最後まで確信を持って大丈夫とは思えませんでした。おそらくこれからも、うっすら救いを求める誰かや何かを透明にして生きていくんだと思います。だからこそ、それに勇気を振り絞って抗い、誰かを救おうとする女の子たちの姿に心動かされてしまうのです。

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