『No show問題』 〜飲食店の予約無断キャンセルの実情〜
緊急事態宣言が解除されコロナウィルスの感染拡大も、落ち着きつつあるこの頃ですが、飲食店の活気が以前のように完全に戻る気配がなさそうだと感じている経営者は少なくないようです。
時短営業や営業自粛により、多くの顧客は自宅での飲食を充実させ、飲酒量は減らし、特には深夜の時間帯に出歩く習慣がなくなりつつあります。
この生活スタイルの変化で、外食機会自体が減退し、これから、さらに飲食店を訪れることは、もっと特別なものになり、何週間か前にしっかりと検討した上で予約をしてから来店するお客様が増えている傾向は、すでにみてとれます。
一方、古くから飲食店を悩ませていることとして、No show(予約の無断キャンセル)という問題が存在します。
いつもよりスタッフを増やし、大人数のコース料理を仕込んで待っていたのにお客様が姿を表さなかった時の喪失感を味わったことは皆さんも一度はあると思います。
この無断キャンセルは年間を通して考えると相当額の損失であり、非常に大きな問題なはずですが、毎日起こるようなことでもないため、なぜか「しかたがない。」と考えがちです。
そして、長い間、この問題の改善をしようとしなかった飲食業界は、他の業界に比べて、非常に特異な状態であることを認識すべきです。
今回は、この問題について掘り下げていこうと思います。
1 無断キャンセルの現状と実害
20席の居酒屋で、15名で20:00から席だけの予約が入ったと仮定しましょう。
(あくまで例えで、そもそも、このような条件では受け付けないようにしている店舗も多いでしょう。)
この予約の時点で、経営者が考えることは
・20席中15席が予約ならば、残りの席はお客様を入れづらいので貸切りにするしかないかも。
・コース料理ではなく、単品で頼まれると準備ができないし大変だから、一人スタッフを増やそう。
・20時からという中途半端な時間だと前後にお客様を入れられないから、今日はこのお客さんだけかな。。。
・直前に人数がそろわないとかは困るな。
こんなことを考えるでしょう。
この予約の時点で経営の観点からすると相当不利な状況です。
そして、当日、人数が減ったり、全体がキャンセルとなったりした場合、1日分の営業自体を棒に振った形になり、相当額の損失となります。
食材のロス、その準備・待機にかかった人件費が無駄になり、ゴミの処理費まで必要。
この辺りまでは当然把握できると思います。
しかし、さらに消費者側のお客様が失っているものがそこには隠れています。
満席のため予約できなかったお店が、実は空席なのに入れないといったお客様の利用機会を奪ってしまったり、宴会の参加者に好き嫌いがある人が多いので席だけ予約したいが、無断キャンセルが多いからコース料理が条件になっていたりと、お客様の利用意欲も削いでしまっているのです。
また、宴会をメインとしている飲食店においては、無断キャンセルや直前の人数変更を見越して、コース料理の料金を設定して割高となっている店舗も存在しているのです。
引用:経済産業省
No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート
飲食業界の年間の無断キャンセルによる損害額は2000億円とも言われ、規模としても、この問題は無視できないでしょう。
そして、このままでは『お店・お客様』のどちらもが得をしておらず、大袈裟ではなく食物やエネルギーさえも無駄にしてしまっているのです。
2 なぜノーショーは起こるのか?
最初に挙げられる原因は、IT化により、ネット上でクリック一つで予約できるようになったことです。
これは顧客に気軽さ、使いやすさを与えたかわりに、慎重さや責任感を失わせてしまったとも考えられます。
そして、もう一点はキャンセルをした場合、どうなるのかということが把握できていないことが原因で、漠然とキャンセルの連絡するのは不安と考え、それなら、面倒だから、このまま無視してしまおうと考える人が多いことも挙げられます。
「キャンセルをお店に伝えるのは怖い。」
この心理が問題の根幹かもしれません。
3 アップデートされていない飲食業界のノウハウ
予約をキャンセルしても、キャンセル料がない。
これは、そもそもフェアーな取引なのでしょうか?
ホテルや旅館の予約でも、キャンセル料は明確になっており、新幹線のチケットさえも、発車した後であれば特急料金は返金されないのに、なぜ飲食店だけがキャンセル料を取らないのでしょうか?
引用:経済産業省
No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート
飲食店の予約方法が、いまだに電話がメインであることが一因でもありますが、システムを利用していたとしても、ディポジット(預かり金)として、予約時点でクレジットカードを登録するなどの方法が採用されていないことも背景としてあるようです。
また、予約をしないで飲食店に行くお店が、いまだに多い屋台文化のあるアジア圏であることと、デポジットという概念が浸透していない日本に根強く残る問題なのかもしれません。
そもそも、キャンセル規定を設けないことが、飲食店側だけではなく、消費者であるお客様側にも損失を与え、まさに誰も得をしていない状態が社会全体で起きていると考えていいでしょう。
予約をするということは、お店とお客様が契約を結んでいることでもあります。
この契約を無断で破棄されたということは、損害賠償が発生すると考えていいのです。
そして、飲食業界全体に与えている損害は、年間で約2000億円とも言われており、業界全体で取り組むべき課題と捉えるべきです。
4 どう対策をするべきか?
この問題を考えた時、最初にクローズアップしてしまいがちなのは、「キャンセルは許せない。」と傾倒してしまうことです。
そもそも予定の変更、取りやめは必然的に起こってしまうことで、それに対して、どうにかペナルティーをとるということではありません。
無断で連絡さえも入れないで、お店に来ないことを減らすことが第一の目的であり、そのためには、キャンセルの連絡をしやすい環境を整備することが重要なのです。
飲食店としてやるべき施策は、以下の4点です。
・予約前日などでの再確認の徹底
メール、SMSなどを利用し、最低でも前日の時点で、予約の再確認をするべきです。
・顧客がキャンセル連絡をしやすい仕組みをつくる
現在は、さまざまな予約サイト、アプリが存在しますが、そのシステム上で、キャンセルや変更が完結することが望ましく、特にキャンセルに関しては、電話で伝えるのは気まずいと考える人が多いことから、SMSやメールでも受け付けられることが最善です。
・キャンセルポリシーやキャンセル料の明示
今の飲食店では、この作業が明らかに遅れており、明確に提示されている店舗が非常に少ないのです。
少なくとも、当日キャンセルは規定を設けることで、防御策になるはずです。
・事前決済や預かり金の徴収等の導入
お店とお客様の間での契約、約束の意味でも、予約の時点で、クレジットカードの情報などデポジット(預かり金)として登録してもらうことが必要です。
これらの施策をできるだけ多くの飲食店が実施することで、飲食店の予約に関する世の中全体のスタンダードが変わっていき、お店側の実害をなくすことができるはずです。
5 どのようなツールで実施するべきか?
今後、無断キャンセルの実害をなくすための仕組みの選定が必要になってきます。
この選定の際に進める手順としては
1. お店のキャンセル規定を決める。
キャンセルになった場合の期日ごとのキャンセル料を決定します。
これを機会に、実際のお店の損失を計算し、再認識することも大切です。
2. 預かり金をいただくか、クレジットカード情報を予約時にいただく。
予約システムなどで、予約時にクレジットカード登録を登録していただくことを前提にし、万が一の時にキャンセル料を徴収できるツールを選ぶことが最もスマートです。
3. その中でも、特にお客様がご来店されるまでの連絡のやりとりを気軽にできるものを選ぶ。
キャンセルの手続きをスムーズにできるような体制を整えることが重要です。
飲食店でも今後の人材不足を考えれば、IT化、DX化を相当なペースで進めていかなければなりません。
これを機会に、特に予約時のトラブル、無断キャンセルを防止する仕組みは、いち早く対応していくべきでしょう。
おわりに
キャンセルポリシー、規定の整備とデポジット制の確立、これらで無断キャンセルのリスクに備えることは最低限必要な経営戦略ではなく『基本』です。
すぐに実行に移すべきです。
また、予約人数の10人中1人が15分遅れるとしても、「お店に迷惑がかかってしまう。」と連絡してくれるようなお客様がたくさんいるお店であることが一番。
根本的にお店とお客様との信頼関係を築き上げることに勝るものはありません。