〈読書録:SDGsが問いかける経営の未来〉
■同書概要:
企業体として利益を追い求めるだけだと淘汰される世の中になってきたという話。
SDGsという「持続可能な社会」、はたまた「循環型社会の実現」に根付く枠組みに準拠せず、抜本的経営の変革をなせなければ、会社は多方面から(社員からも投資家からも消費者からもetc)支持を得られず、グローバル競争で勝てないような仕組みになってきているという話。そして日本はまだまだグローバルなその方針・基準になかなか追い付けてないから急がないといけないという話。
■そもそもSDGsとはなにか?
「持続可能な開発目標」の略。持続可能な社会の実現を目指し2030年に向けて、世界各国で総力を挙げて解決すべき深刻な社会課題と具体的な達成目標。
枠組みは大きく「ベーシックヒューマニズム」「持続可能な経済」「環境保護」という枠組みの中で17のゴール、169のターゲットが組まれ、その進捗を244の指標で測る。
■そもそもなぜこのゴールは制定されているのか?
このままだと社会が持続しない可能性が高い。深刻な部分は深刻。
例えば、世界がどうにか適応できる気温の上昇はあと2度が限度。4度は現状人間が生存するに大きく関わる自然災害を招く可能性が非常に高い。その上昇を2度未満に抑えるには21世紀半ばまでに最低でも温室効果ガスの排出量を半分かそれ以下にし、22世紀にかわるまでには0にしなければならない。が、世の中は社会システム、経済システム、多様に複雑に絡み合っており、何かを抜本的に解決すれば叶うということではない。
多様な方面から持続可能な社会を目指すことが急務であり経済・社会・環境のバランスを再構築をしていかなければならない。
■なぜ企業経営がSDGsに基づいて変革がなされないといけないのか?
<企業の経済活動を支えるあらゆるステークホルダーから支持を得られなくなる>
例えば、
・投資家の支持
ESG投資という「環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資」が活発化している。機関投資家のESG評価の高い企業は事業の社会的意義、成長の持続性など優れた企業特性を持つと言えるのだが、2016年度欧州12兆ドル、アメリカ9兆ドル、日本はまだまだだがそれでも4760億ドルという金額のESG投資がすでに行われている。
・消費者の支持
グローバルで57%、日本で43%の購買者が、社会的・政治的な問題に対するブランドの姿勢如何によってそのブランドの製品やサービスを購入するかボイコットするかを決めている。(PR会社エデルマン2017年購買者意識調査)
みな「環境を、そして何が良いことなのか?を意識し始めている。教養が高まったということもそうだし、生活水準が高まり、安価なもの、良質なものはもはや飽和。満足しない消費者が増えている。
■CSV型経営モデルとはとは
経済価値を創出しながら、社会的にニーズに対応することで、社会価値をも創造する。という企業価値創造の新たなアプローチと定義される。
※CSRは社会の一員としていい行いをすることがゴールだった。
■CSVのアプローチによっての新たな企業の戦い方と勝ちパターン
「大義力」×「秩序形成力」×「再現力」
「大義力」
製品/サービスの普及を通じて社会課題解決を実現するという「大義」を高らかに掲げる力を向上させ、その魅力を訴求することで消費者だけでなく、政府機関やNGO等、社会を構成する多様なプレイヤーを大義のもとに束ねるとともに、
「秩序形成力」
その実現を促進するためのイノベーティブなビジネスモデルやルールを提唱し、新たな社会秩序をしたたかに構築することに挑むことで、成長市場の形成とそこでの競争優位を狙い、かつ
「再現力」
このような新たな戦い方を経営サイクルに埋め込み再現可能な形で自社の新たな競争優位の量産を着々と進んているのである。
「品質」「価格」による20世紀型の戦い方を無効化し、コモデティ化が進む市場の周囲で既存のルールを変えながら新たな市場を発掘し拡大し、当該市場において、構造的な競争優位の枠組みを創り出す競争を仕掛けている。
■CSV型経営モデルへのシフト
このシフトは抜本的変革。
経営目標から経営戦略・事業戦略の在り方、経営管理指標や組織・業務、さらには人材に至るまで、企業価値を創造するエンジン自体を変革していくことであり、企業活動の土台も含めた抜本的再構築。
これは外部から要請された義務によってやり遂げられるものではない。企業の経営者から末端の従業員に至るまで、社会価値創出が自社にとって必須であることを腹落ちしていなければならない。
■CSV型経営モデルへのシフトへの道筋の見出し方
①何を目指して変革を進めるのか(勝利の大義は何か)
②どこで戦うか?
③どう勝ち抜くか?
④新たにどんな能力を備えるか?
⑤どんなマネジメントシステムが必要か?
そのなかでも
・何を目指して変革を進めるのか(勝利の大義は何か)
大義が外部のステークホルダーや、自社の従業員に、目標達成に向けた熱狂をもたらし、実行の推進力となる。競争力ある事業を作っていくうえでエコシステムが重要になっているのに伴い、大義自体が競争力を左右するものになってきている。
・どんなマネジメントシステムが必要か?
持続可能性と短期的な利益が相反するときにどのようにトップが意思決定をしてきたか?持続可能性を推進する組織と事業のリーダーシップの持ち方、社員への持続可能性に対する教育の徹底度合い等、戦略ストーリーを再現可能な形で組織能力として蓄積していくために組織、管理指標、プロセスを適切なものに選択し直さなければならない。
■大義の意義
世界の経営者のうち株主価値を最大の関心事として捉えている経営者は22%のみ
その約3倍の65%以上の経営者が、包括的な成長/持続可能な社会への前進を最大の関心事のひとつに選んでいるという裏付け。
また企業にとっての勝利は、経済的成功だけで測られるべきではないと考えるミレニアル世代の割合は経営者よりも多く、86%(2017年デロイトグローバル調査)。
中長期的に優秀な人材を引き付け、最終的に勝利を得ていくためには、骨太な大義を掲げて、社会課題解決を推進していくことが必要である。
※ただし「勝利」を意識した大義であることは超重要。
■日本でCSVが根付いていない
※society5.0には技術的イノベーションばかりで、経営モデルのシフトには触れられていない。
日本の場合は、政策策定の際に、個別の先進企業ではなく、「業界団体」の声を重視する傾向があり、結果的に保守的な企業に合わせた政策になりがちである。
そして日本企業のほとんどが、これまでの持続可能な社会の実現へのステークホルダーからの要求を表面的に。もぐらたたきのようにしか対応してきておらず、本質的な手が打てていない。