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「庄内さくら学園」――地域の教育課題に挑む義務教育学校/前編【#とよなかって】【#5】

 皆さん、こんにちは!
【#とよなかって】です。

 今回は独自記事第二弾・前編として、大阪・豊中市の南部地域「庄内」にある、2023年4月に開校した公立の義務教育学校「庄内さくら学園」についてご紹介していきます。

 本記事の執筆にあたっては、庄内さくら学園江原校長、ショコラ館長橋本さんにインタビューにご協力いただきました! ありがとうございました!

左から、庄内さくら学園・江原校長、ショコラ・橋本館長

【#とよなかって】は、独自の取材による記事や、皆さんが【#とよなかって】を付けて発信してくれた情報のキュレーションを通じて、豊中の魅力を創造/想像・発信するプラットフォームです。


「庄内さくら学園」って?――大阪で9校目の"義務教育学校"

義務教育学校って?――1年生から9年生・4-3-2の教育課程

 庄内さくら学園は、2023年(令和5年度)4月に開校した公立の義務教育学校です。

 義務教育学校とは、従来の小学校(6年間)と中学校(3年間)、計9年間の義務教育を、一つの学校で受け持つ形態の学校です。

 いわゆる小中一貫校とは何が異なるのでしょうか。
 小中一貫校は、小学校、中学校それぞれに校長をトップとした教職員組織が置かれ、あくまで6年、3年と教育課程が分かれています。それに対して義務教育学校は、一人の校長のもと、一つの教職員組織が、9年間を通じた教育課程を総合的に受け持ちます

 基本的な教科学習などについては、小学校に相当する前期課程と中学校に相当する後期課程が基となって学びを育んでいきますが、全体的な学習・発達過程の区切りを学校が独自に設定することができるのも大きな特徴です。

庄内さくら学園では、9年間を、

・4年(小学1~4年生相当)
・3年(小学5年生~中学1年生相当)
・2年(中学2~3年生相当)

 の三過程に分け、それぞれのステージに合わせたアプローチで教育を行っています。

 初めの4年間では、学習や社会性などの基礎を身に着けていきます。続く3年間では、様々な学校行事や委員会などにおいて中心的な役割を果たし、様々な面でより主体的な学びを育みます。そして最後の2年間は、下の7学年を見守り導きながら、自身の将来・キャリアに関心を向け、学校の外に羽ばたく準備を行います。

庄内コラボセンター・ショコラとの連携


 また、ハード面においては、複合公共施設の庄内コラボセンター・ショコラと同じ敷地内に学校が建てられていることも大きな特徴です。

1階の地図 さくら学園とショコラが隣り合っているのが分かります。
庄内さくら学園リーフレット より
ショコラとさくら学園を結ぶ「あいさつロード」
2024年2月18日 「キッズランド in ショコラ」の準備中の様子。
「キッズランド in ショコラ」開催中の様子です。
学校と地域の人々の距離感が窺えますね。


 建物の設計に関しては、類設計室が、ショコラとさくら学園両方を併せて担当しています。1階エントランス前のあいさつロードのほか、2階には放課後、部活動の際などに学生と地域の人々が行き来できる渡り廊下があるなど、設計段階から学校と地域の連携が構想されていたことが分かります。

さくら学園、エントランス入ってすぐの大階段です。
こちらはショコラの様子。
木材の雰囲気を活かした内装や、空間を贅沢に使った開放的な造りに共通点が見いだせますね!


庄内さくら学園ができるまで――地域の教育再編


 庄内さくら学園は、従来の小中学校(第六中学校、第十中学校、野田小学校、庄内小学校、島田小学校の5つ)の建物の老朽化や、少子化による各学校のクラス数の削減といった教育課題を解決するために構想されました。

 そこに、その他の公共施設の老朽化や、豊中・南部地域特有の課題(家庭環境を背景とする生活や学習の課題に直面している子どもが相対的に多いことや、地域コミュニティの高齢化など)が合わさり、複合公共施設であるショコラと、義務教育学校であるさくら学園の併設が考案されたそうです。

 あまり前例のないプロジェクトであり、かつ、これまで地域の子どもたちを育んできた歴史ある小中学校を統廃合することに対して、初めは地域の方からも不安の声が多く聞かれました。

 しかし、5つの学校を義務教育学校として統合することで、少子化によりままならなくなっていたクラス替えの実施や、1年生から9年生までの幅広い異学年での交流、教職員の総数の増加、設備における予算投資など、「様々な面において、子どもたちの選択肢が増える」ことを丁寧に説明してすり合わせていった結果、「子どもたちのためになるなら」や「少なくとも、学校の統合に関しては応援する」といった声が次第に増えていきました。


 まずは、先立つ2020年度、「第六中学校」と「第十中学校」が「庄内さくら学園中学校」に統合しました。
 そして2023年度、満を持して庄内小学校、野田小学校、島田小学校の3校も統合し、ショコラのお隣、庄内小学校と第六中学校の跡地に、義務教育学校「庄内さくら学園」が開校しました。

インタビュー中の校長室の様子。(奥にいるのは「#とよなかって」の中村さんです)
地域に愛されていた統合もとの学校を忘れないよう、校旗が飾られています。
奥から、「庄内小学校」「島田小学校」「野田小学校」「第六中学校」「第十中学校」


チャレンジの開校一年目

異学年の交流――年が離れているから面白い!


 大阪でも9校目と、前例の多くない義務教育学校として走り出したさくら学園ですが、中学生相当の7年生から9年生に関しては、3年前に既に統合していたこともあり、あまり大きな混乱は起こらなかったそうです。

 ただ、今年から統合した小学生相当の1年生から6年生、特に低学年に関しては、いきなり人数が増えたこともあり、新たな環境に馴染むまで少し時間がかかったとのこと。

 それでも、一つ一つの課題にしっかり向き合いながら、5つの学校が一つになり、これまでよりも多様性が増した環境の良さを最大限活かすため、江原校長をはじめとした教職員の皆さんはポジティブに、義務教育学校の良さを活かす方法を探していきます。

 例えば、3年生から6年生のスポーツテストを、8年生と9年生がサポートする、というカリキュラムが作られました。8、9年生は、スポーツテストの準備の手伝いや、競技のお手本を見せるなどして、後輩をサポートします。

 すると、サポートしてもらった側の3年生から6年生は「8年生、9年生がかっこよかった! 自分も8年生、9年生になったら、後輩のお手伝いをしたい!」と、先輩に憧れるような感想が。また、8年生、9年生も、少し年の離れた後輩を可愛がる経験や、人の役に立つ経験を通じて、自信を深めることができたそうです。

 秋のさくら会(児童会・生徒会の総称)選挙でも、広く異学年が交わったことによる効果が生まれました。年度前半のさくら会は、それまでの引き継ぎも含め、9年生など、主に上級生が担当していました。そして9年生が引退し、後継を決める秋のさくら会選挙。立候補できるのは5年生から9年生です。しかし、さくら学園の学習過程としては、8、9年生は自身のキャリアに集中することを推奨しているため、5年生から7年生が主な立候補者となりました。

 その中でも本来、小学校と中学校で分断されて関わることのなかったはずの9年生の活躍を見ていた5年生、6年生が、先生方も驚くほど、想像以上にしっかりとしたスピーチで、さくら会選挙に臨んだそうです。

「9年生がかっこよかったから、自分もああいう風になってみたい」

 本来であれば、小学校と中学校に別れて交わらないはずの学年が混ざることで、下の学年はいつもより年上の先輩に憧れ、もう少しの背伸びをすることができ、また、上の学年は、よりたくさんの後輩のお手本として胸を張って過ごすことができます。

学校を地域に開くこと

 さくら学園では、義務教育学校としてのカリキュラムの他にも、「学校と地域の連携」を強く教育の柱として押し出しています。「さくらコミュニティ・スクール」という地域との連携プログラムに、地域の様々な人材が「さくら応援団」として参加していく、という図式です。

 下町的なご近所付き合いや地域の繋がりがまだ色濃く残っている南部地域、庄内の強みを活かし、様々な分野における地域のスペシャリストや、自身で会社やお店を経営しているまちの人々などと交流し、世の中について知る機会をできるだけ広く生み出すことを目的としています。

 しかし、その他にも、学校を地域に開く大きな意義があります。

「昔はみんな豊かではなかったから、継ぎ接ぎの服を着ていても恥ずかしくなかった、それが普通だったんです。でも今は、ぱっと見はきれいな服を着ていても、実はお家でご飯を食べられていなかったりする。周りからすると、子どもたちの様々な困りごとの事情が見えづらい、当事者からしても、そういった苦しい部分を見せづらい。こういった複雑な課題に向き合うためには、学校と地域の連携が不可欠なんです

江原校長

 と江原校長は語ります。

 今は学校からの呼びかけやお願いを積極的に行い、地域との関係を築いていっている最中ですが、教員は数年で異動してしまうことも多いため、少しずつ学校と地域が受け持つ比重が同じくらいに、ひいては、地域先行での呼びかけも起こるような両輪体勢を作り上げるのが理想だ、とのこと。

ショコラの活動を含め、さくら学園の2年目の歩みが楽しみですね!



 さて、ここまで、【#とよなかって】の独自記事として、大阪・豊中市の南部地域「庄内」にある、2023年4月に開校した公立の義務教育学校「庄内さくら学園」についてご紹介してきました。

 続く後編では、「さくら学園」のお話から、江原校長の教育観、教員人生についてシフトし、もう少しパーソナルなお話を伺っていきます! お楽しみに。



 【#とよなかって】ではこのように、独自の取材による記事のほか、皆さんがハッシュタグ【#とよなかって】を付けてくれた投稿などをキュレーションし、豊中の魅力を創造/想像・発信していきます。

あなたの【#とよなかって】投稿をお待ちしています!

 それでは、最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

 筆者:増田ひろ


参考文献:

https://www.city.toyonaka.osaka.jp/kosodate/kosodatetorikumi/shonaimiryoku_school/shonai_sakura/sakuragakuenn.files/sakurariihuretto.pdf

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/08/29/1369749_1.pdf


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