欅坂46論 完全版

目次

はじめに

第1章 なぜ欅坂46は渋谷を歌うのか?
●なぜ欅坂46は渋谷を歌うのか
●堤清二と街作り
●欅坂46と再開発
●"欅坂"という名称のナゾ
●けやき坂と森稔
●森稔と堤清二

第2章 欅坂46はアイドルを超えられるのか? 
●アイドルとは?~一つの史観を通して~ 
●ジャンル化とその先へ行く事の困難さ
●Perfumeと欅坂46
●Perfumeとロックフェス
●欅坂46とロックフェス

第3章 欅坂46とサイボーグ009
●サイボーグ009とは
●秋元康とサイボーグ009
●団結と孤独、そして親子
●衣装変遷の類似点

最終章 欅坂46と東京オリンピック
●1964から2020へ
●秋元康と開会式と椎名林檎
●東京オリンピックと欅坂46
●欅坂46が2020年までに獲得するべきこと

あとがき


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はじめに
 本稿では欅坂46というアイドルグループを扱おうとしている。AKB48の総合プロデューサー秋元康が「乃木坂46 新プロジェクト」として手がけ、2015年の結成以降、1stシングル『サイレントマジョリティー』では女性アーティストのデビューシングル初週推定売上記録を塗り替え、さらにその年の第67回NHK紅白歌合戦に出場するなど、すでに人気グループの一つになった欅坂46。

 この経緯から欅坂46は乃木坂46の妹分ととして捉えられるかもしれない。しかし双方の在り方やその出で立ち、活動のスタンスを見ていくとまったく別物として捉えた方がいい。現在、秋元康が手掛けるAKBグループや過去に手掛けたアイドルグループに比べると明らかに異質な存在であると言ってもいいだろう。

 例えば乃木坂46だと「リセエンヌ」というのを一つの軸として活動を行ってきた。リセエンヌといえば、フランスの中・高校生の女の子という意味であり日本では1983年雑誌『オリーブ』の12月3日号「オリーブ少女は、リセエンヌを真似しよう。」特集から広まったファッションである。これをコンセプトに使った乃木坂は"可憐で美しい"ことを最大の特徴としており、メンバー内でも白石麻衣、西野七瀬、松村沙友理などが女性雑誌専属モデル、レギュラーモデルとして活躍している。

 それに対し欅坂46は乃木坂46のような清楚で可憐というイメージはない。制服というより軍服をイメージしたような服装を身にまとい、楽曲の中では笑顔を見せることなく可憐さ、可愛さよりもクールな美しさを前面に出している。まるでその姿は何かに立ち向かう戦士のようにも見え、また歌詞に関しても常に大人を敵対しながら自分の主張が正しいと私たちに訴えかける。

 はたして欅坂46とは一体何者なのだかろうか?そんな質問を頭の中で巡らせながら彼女たちの活動を見ていくとあることに気付かされる。欅坂46は"ある場所"をテーマとして扱っている。その場所とは渋谷である。

第1章 なぜ欅坂46は渋谷を歌うのか?

●なぜ欅坂46は渋谷を歌うのか
 1stシングル『サイレントマジョリティー』のアートワークは渋谷川で撮影されており、同曲のミュージック・ビデオは再開発中の渋谷駅工事現場で撮影されている。さらに本作のカップリングで平手友梨奈は「山手線」という曲を歌い、今泉佑唯と小林由依の二人組、通称ゆいちゃんずは「渋谷川」という曲を歌う。そして2nd『世界には愛しかない』のカップリング曲は平手友梨奈が歌う「渋谷からPARCOが消えた日」である。

 ここまで渋谷に関連した曲が続くと欅坂46が"渋谷"と言う場所ににこだわりを持っている事がわかるし、それと同時に"なぜ渋谷なのか?"という疑問も湧き起こる。

 その理由を考えていた時、3rdシングルの『二人セゾン』から私はあるひとりの人物を思い出した。名前は堤清二。西部セゾングループの創業者であり渋谷PARCOの生みの親と呼べる人物だ。

●堤清二と街作り
 西武セゾングループというのは西友、西武百貨店を中核とする流通系企業グループであり70年代以降、百貨店やショッピングセンターを都会的な洗練された消費の発信地とするイメージ戦略を展開させて一時代を築いた人物だ。また堤清二は辻井喬という名前で詩人、小説家としても活躍し、その感性は経営にも生かされた。

 そんな彼の経営戦略を見る上で一つのキーワードとなるのが"街づくり"である。兵庫県尼崎市につくられた「塚口プロジェクト」(つかしん西武)のコンセプトを決める会議。幹部が「新しいショッピングセンター」のコンセプトを説明すると、堤は激しい口調で幹部にこう言った。

「全然、違う。俺が作りたいのは店なんかじゃない。店を作るんじゃない、街を作るんだ。計画を白紙に戻せ」(立石泰則『堤清二とセゾン・グループ』)

 堤清二は"店"ではなく"街"という視点でセゾン文化を作り上げた。もちろんこの功績は堤清二とともに仕事を行ってきた増田通二のものでもあるのだが、そんな彼らが作り上げた最大の街こそ渋谷であった。

 そもそも渋谷はすり鉢状で放射状に坂道が伸び、区役所通りから見る街並みには駐車場や雑居ビルが並ぶのどかな街であった。しかし1964年の東京オリンピック重量挙げの会場として設立された渋谷公会堂がこの街に人を呼ぶことになる。当時ホールが少なかったため、この場所ではクラシックのコンサートからテレビ番組の収録まで幅広く使用された。そうなると当然のことながら渋谷に大量の人が流入する。それに目をつけた堤清二はここに一つのショッピングセンターを作る。それが渋谷PARCOであった。

 渋谷PARCOが出来たのは1973年。ただの百貨店ではなくファッションの専門店の集積として出来た渋谷PARCOは渋谷を瞬く間にファッションの街へと変えていった。喫茶店と花街しかなかった渋谷にはファッションの路面店が並び、神南から渋谷区役所に通じる「区役所通り」と呼ばれていた緩い坂道はPARCOがオープンしたことをきっかけに整備されて、PARCOの日本語訳である公園という言葉から「公園通り」と名づけられた。

 また詩人という一面を持っていた堤清二は渋谷の文化事業を立ち上げた文化の最先端を紹介しつつ、新しい表現の場を作り出していた。西武劇場(後のパルコ劇場)ではニール・サイモンや青井陽治、さらには三谷幸喜まで新進気鋭の作家たちによりユーモラスで刺激的な作品が次々と生まれ、パルコギャラリー(後のパルコミュージアム)では日比野克彦や村上龍などのアーティストにいち早く目をつけ、また海外のストリートカルチャーをいち早く紹介したりした。何もなかった渋谷という街は80年代になると完全にカルチャーの街に変わった。

●欅坂46と再開発
 話を欅坂46に戻す。堤清二が行ってきたこと、それは街自体を新しく作り替える"再開発"であった。そう考えると例えば1stシングル『サイレントマジョリティー』のPVでは再開発中の渋谷駅工事現場で撮影されていた。また『サイレントマジョリティー』のカップリング曲でゆいちちゃんずが歌い、ジャケット写真にもなった「渋谷川」では現在河川の再開発が進んでいる。

 また平手友梨奈のソロ曲が「渋谷からPARCOが消えた日」はそんな再開発のシンボルであった渋谷PARCOも2015年7月に、建物の老朽化などで再開発を決定し、2016年8月7日に閉鎖したことから生まれている。(なお現在渋谷PARCOは2019年9月を目標に建て直しを実施中)

 そして、渋谷以外でも4thシングル『不協和音』Type-Dのジャケットは目黒駅前で再開発されているビル群を背景としている。このように考えると欅坂46は渋谷を歌う事は"再開発"をテーマとしているという事がおぼろげながらわかってくる。また、この"再開発"のキーワードは欅坂46に隠された一つの謎にも光を当ててくれる。名前の由来だ。

●"欅坂"という名称のナゾ
 欅坂46の名前の由来は公式では完全には明言されていない。乃木坂46に関してはレーベル会社であるソニー・ミュージック・エンターテイメントがある東京都港区赤坂の「SME乃木坂ビル」がその由来であるのだが、欅坂は東京港区六本木にある「けやき坂」から取られた名前ではある以外には「なぜ"けやき"を"欅"と漢字表記にしたのか」「また、オーディション開催時は鳥居坂46として集められたのに、なぜ欅坂46に変更したのか」はすべては明かされていない。ちなみに「完全には」というのは以前、欅坂46運営委員会委員長でもある今野義雄がインタビュー内でこのように語っているからだ。

もとは鳥居坂46っていう名前だったのを欅坂46に変えたひとつの理由が、運の良さなんです。当初(秋元)先生からいただいていたアイデアは「けやき坂」だったんですけど、名前を占おうってときになぜか漢字で調べちゃって。そしたらどの占いで見ても凄まじくいい運勢を持っていて、字画的に最強ともいわれ、これはいいじゃないかと。(太田出版『QuickJapan vol.129』)

 また以前、テレビ東京で放送されている『欅って書けない』9月12日放送分で齋藤冬優花が楽屋内で欅の画数がメンバーの数と同じ21画であるという事を発見している。ここから考えると21画で縁起が良く、そして21人のメンバーで一丸となり勝負するグループであるから欅坂46という見立てもできなくはない。

 しかし、この"再開発"というテーマで見ると別な見方ができる。欅坂の名前の元になった「けやき坂」と言う場所もまた再開発地域であるのだ。

●けやき坂と森稔
 欅坂46の名前の由来になった六本木けやき坂通りは、港区六本木6丁目にある六本木ヒルズを横切った400m程度の通りである。周囲にはテレビ朝日のけやき坂スタジオや六本木ヒルズにグランドハイット東京、ルイ・ヴィトン、ジョルジオ・アルマーニなどの高級ブランドのショップが軒を連ね、クリスマスになるとイルミネーションが点滅する、まさに「おしゃれ」という言葉がよく似合うところである。この場所も2003年に再開発によって生まれた。

 1980年代、六本木ヒルズ周辺は住宅密集地であり、住宅地の中は車と人がやっとすれ違える程度の狭い一方通行の道路で、消防車が入れず防災上の課題を抱えた地域であった。そんな街の不条理な構造をアークヒルズの高層階から眺め嘆いた男がいた。名前は森稔。森ビル株式会社代表取締役社長であり森ビルの実質的な創業者である。彼はアークヒルズから見える住宅密集地を「都市機能を縦に集積したコンパクトシティを作り、歩いて会社に通勤でき、かつ自由時間を楽しめる街を作りたい」と考え、17年の歳月を経て六本木ヒルズは完成した。

 そして森稔はこの六本木ヒルズがオフィスビルや居住空間としての建物としてだけでなく、商業施設・文化施設・ホテル・シネマコンプレックス・放送センターなど「住む、働く、遊ぶ、憩う、学ぶ、創る」といった多様な機能が複合した街としての機能を果たす場所、すなわち「文化都心」というコンセプトを掲げた。そもそも森稔はアークヒルズにサントリーホールを作ったりと以前から文化的事業にも積極的に関わっており、それは彼が元々は文学青年であり学生時代には文学研究会にて同人誌の編集や小説を書いていたりしていたことが背景にある。

●森稔と堤清二
 ここまで六本木ヒルズの在り方や森稔の過去の生い立ちを追っていくと誰かに似ているように感じる。渋谷を作った男、堤清二だ。

 先ほども語ったが堤清二はPARCOから街を作り、森稔も六本木ヒルズから街を作った。しかしながら堤清二が作り出した渋谷が若者が気軽に楽しめるカルチャーとしての街であるのに対して、森稔はもっとクラシカルでエレガントな気品のある街を作り出した。そこに両者の文化的戦略の違いを感じる。

 また、セゾングループがバブル崩壊で90年以降衰退していき、93年に森稔が父親のあとを継ぎ森ビルの社長になり、その10年後の2003年に六本木ヒルズが建ったことは世代交代を現しているかのようでもある。両者がお互いを意識していたかはわからないが、堤清二が80年代の音楽の拠点として作った六本木waveが現在では六本木ヒルズの玄関口でもあるメトロハットになってる姿を見るとそんな考えも浮かんでくる。

 さて、もう一度疑問を最初へと戻す。
「彼女たちが渋谷を歌っているの一体なぜか?」

 今の時点で再開発地域から名前を取られたグループだからと結論付けるには尚早で浅識だ。そこで考えてほしいのが彼女たちの歌の構造である。彼女たちは大人と敵対しながら自分の主張が正しいという訴えを楽曲の中で何度も繰り返している。そしてこの構造は大人を渋谷または堤清二、子供を六本木ヒルズまたは森稔というように読み解くことができる。

 つまりは"再開発"をテーマとすることで以前からあった文化に対してその文化を乗り越えていくという存在、"世代交代"について欅坂46は歌っているのではないだろうか。だとしたら子供は欅坂46だとして、大人は誰か。結論を言えば大人は乃木坂46でありAKB系列のアイドルグループであり、その他のアイドルグループであると私は考える。

第2章 欅坂46はアイドルを超えられるのか? 

●アイドルとは?~一つの史観を通して~ 
 そもそもアイドル(idol)は「幻影」という意味のギリシャ語「εἴδωλον」(エイドローン)のラテン語形である「idolum」(イードールム)から端を発す。そしてイギリスの哲学者フランシス・ベーコンが人間の先入的謬見のことをこの「idolum」の複数形である「idola」(イドラ)を使ったことから、それが今日のアイドルの語源へとつながっている。

 先入的謬見というのは「虚偽の先入観」のことであり、そう考えると松田聖子や中森明菜、小泉今日子といった80年代のアイドルというのは手の届かぬ高嶺の花であり、彼女たちの表層を見ることでアイドルを見守る観客たちは興奮し熱狂した。しかし80年代後半になるとそれまで盛んに出てきたアイドルというものが急激に停滞する。いわゆる「アイドル冬の時代」である。その引き金は「イカすバンド天国」に代表されるバンドブームの急騰であったとも、岡田有希子の自殺が原因だったとも言われる。しかし90年代後半に入り、アイドルのもつ虚偽性を潰しすことでアイドルを復活させた番組が登場する。番組の名前は「ASAYAN」。そしてそこから登場したアイドルこそ、モーニング娘。である。

 ASAYANはそれまでのアイドル番組でのアイドルの表面を映し出すスタンスではなく、より内面を抉り浮き彫りにする番組であった。モーニング娘。という「シャ乱Qロックボーカリストオーディション」の落選組5人で結成されたユニットに対して「全国区5か所で手売り5万枚達成できたらメジャーデビュー」という関門を設けさせ、その販売過程をテレビで克明に見せることで聴取者を巻き込むことに成功。そしていざデビューとなればレコーディングの様子からパート割争奪戦、また突然グループにかかわる重大発表するなど、普段は見ることのできないアイドルの裏側をリアリティー・ショー的に見せることで視聴者の関心を引き付けた。その結果、モーニング娘。は1999年「LOVEマシーン」で国民的アイドルになった。

 そして2000年代に入りAKB48は「会いに行けるアイドル」を打ち出した。秋葉原に常設会場を持ち毎日公演するという、当時のアイドルとしては画期的なスタンスを打ち出した。また劇場に併設しているカフェでもそのままAKB48としてアイドル活動できそうな女の子がバイトしており、後にこのカフェで働いていた篠田麻里子や大堀恵はAKBに加入することになる。またAKB48にCD購入で握手会行う事や選抜総選挙や選抜じゃんけん大会など常に観客が熱狂させるコンテンツを設けることで、現在において確固たる地位を築いたアイドルになっていった。

 時代は2010年に入り、アイドルシーンはかつてないほどの盛り上がりをみせる。この年の1月に東京女子流が結成され、2月に恵比寿マスカッツがCDデビュー、3月にはぱすぽ☆(現在のPASSPO☆)がCDデビュー、4月にはさくら学院が開校する。そして5月にNHKの番組で「MJ」でアイドル特集が放送。AKB48、モーニング娘。、スマイレージ、アイドリング!!!、東京女子流、バニラビーンズが出場し、それを多くのニュースサイトが「アイドル戦国時代」と報じた。あらゆるタイプのアイドルが登場し、完全に飽和状態になったこのアイドルシーンで一歩抜け出た存在になったのが、ももいろクローバーZであった。

 ももいろクローバーZはアクロバティックなステージパフォーマンスや飛道具満載のステージング、さらには露出度の高い衣装や接触系イベントを開催しないなどAKB48が敷いたレールに反旗を翻す形をとったパンクなアイドルであった。実際「会いに行けるアイドル」がキャッチフレーズだったAKBが人気が出たことで人気メンバーが劇場に出ないことがあり、そんな状況を逆手にとったももいろクローバーZ は「今会えるアイドル」と書かれたビラをAKB48劇場の前で観客に配ってqいたというエピソードがあるほど実に反骨精神に満ちたグループであった。

 また2010年代中盤にはでんぱ組.incはオタクカルチャー、さくら学院から派生したBABYMETALはハード・ロックやヘビー・メタル界隈を密接に結びつける形でファンを拡大していく。またこの両グループは海外にも拡大していき、特にBABYMETALは日本のアイドルの中では初めてロンドンのウェンブリー・アリーナにてワンマン・ライヴを行い1万2000人の観客を熱狂させた。

●ジャンル化とその先へ行く事の困難さ
 さて、この頃になると既にアイドルは80年代に持っていた虚偽性をはらむ高嶺の花であった者からは遠く離れた者になってしまったように思える。そしてそれはでんぱ組.incの夢眠ねむのこの発語からも読み取れる。

 かつてアイドルは、人形のようにアイドルであることを演じていたそうですが、今のアイドルは違います。やらされているアイドルよりも、アイドルであることにアイデンティティを持っている子のほうが多い。自覚とプライドを持ってアイドルになっている。(「覚悟を決めて夢眠ねむと向き合おう」夢眠ねむ/生きる場所なんてどこにもなかった——「W.W.D」発売記念連続インタビュー https://cakes.mu/posts/1101)

 しかしこの"自覚的にアイドルになる"ことは、世間におけるアイドルのジャンル化を深め、同時にアイドルという呪縛から解放されないという現象を生み出す。東京女子流のアーティスト宣言はまさにこの例になるだろう。

 2015年1月にUstream番組『アーティスト東京女子流 宣言へ』が放送された。この東京女子流は、今後アイドルフェスへ出演をしないことや、アーティストとして活動していくと宣言した。ちなみにもともと東京女子流はアイドルと名乗った事はなくダンス&ボーカルグループとして、アイドルシーンで活動していたのだが、このように宣言までしないとアイドルと言う呪縛からは逃れられないという決断だったように思える。

 さて、このような90年代以降のアイドルの系譜を眺めた時に欅坂46はどうかと問われれば、楽曲やクールでスタイリッシュなダンス、そして彼女たちに対して私たちが抱く「クール&ビューティ」という言葉の通りの舞台上では笑顔を見せない所は、それまでのアイドルというものに対して批判的な立ち位置にあるようにさえ見え、既存のアイドルに一矢報いるため、アイドルの仮面をつけた"アイドルを超える存在"を作っているのでは、と思えてくる。

 そう考えたときに私はある一組のアイドルグループを思いだした。そのグループは2000年代にアイドルという呪縛を開放し、いまやアーティストと呼ばれる立ち位置を築いたグループでもある。そうPerfumeのことだ。

●Perfumeと欅坂46
 Perfumeは元々、広島のアクターズスクール出身のアイドルとして2000年に結成し、2003年に東京へ進出。そこで中田ヤスタカと組むようになったのだが、この当時は今とは違いかわいさあふれるテクノポップを歌い続けてきた。

 ところが2005年のメジャーデビューで近未来的な衣装に身を包み、アイドルの中で一番大事な声にオートチューンをかけてまるでロボットが歌っているようにした。そして2007年の「ポリリズム」がヒットし、以降現在のようになるのだが、私はこのPerfumeという存在が実は欅坂46のロールモデルとしてあるのではと思う。

 そもそもPerfumeと言うのは中田ヤスタカによるアイドルへの批判として作られた。

『この子たちはアイドルだからアイドルソングを作ろう』みたいなおざなりな感じで、アイドル風にやっても『誰が聴くの?』ってやっぱり思ったんですよ。/そうじゃなくて『Perfumeだけの持つ価値観を作ろうよ』って思ったんです。(MARQUEE Vol.64『capsule 中田ヤスタカの描く最新型ポップカルチャー』)

 Perfumeをアイドルとして売り出すのではなく、Perfumeだけの持つ価値観を作る。それは今まであったアイドルというものへの批判であり、アイドルでもアーティストに変えられるという批評をPerfumeという形でやったのだと感じる。そのため彼女たちはアイドルの持つ可愛らしさという物を一切廃し、自らをポップアイコン化した。一番大事な声を奪い、スキルの高いダンスを見せることで彼女たちは3次元のボーカロイドとしてアイコン化に成功させたのだ。

 さらに中田ヤスタカはクラブシーンで流行りのジャンルを彼女たちの楽曲に取り込んだ。現在では日本でドームコンサートを行えば即日完売し、大晦日の紅白歌合戦にはほぼ毎年のように出演している。近年ではアメリカやイギリスなど世界各国でコンサートを行う国民的アーティストになった。

 このようにPerfumeを見ていくと欅坂46と共通点が多い。詩と連動した形で展開されるスキルの高いダンスやステージ上では笑顔を見せない所、またデビュー以来、ダンサーや衣装、ミュージック・ビデオやジャケット周りのクリエーターを変えずに1チームで動かしているのもPerfume的である。また欅坂46が常にその物語が大人を拒む子供たちという物語を21人全員で演じている所も、3次元のボーカロイドとして演じているPerfumeと共通する部分でもある。

Perfumeとロックフェス
 そして何より共通するのは売り出し方である。Perfumeは今までアイドルとは無縁な客層にも支持される場所でライヴを繰り広げてきた。その代表とも言えるのがロックフェスでの戦い方だ。

 Perfumeがロックフェスに初めて出たのが2007年のサマーソニック大阪のオープニングアクトであった。この当時、Perfumeは公共広告機構・NHK共同の環境・リサイクルキャンペーンCM「リサイクルマークがECOマーク。」が放映され、そのタイミングでのサマーソニック大阪でのライヴは興味本位で観た観客をも取り込み、朝一番でありながら多くの人が詰めかけた。そしてその翌年、今度はROCK IN JAPAN FESTIVAL(以下RIJ)に参加。ステージとしては2番目に大きいレイクステージ(1万人収容)のトップバッターを飾ったのだが、ここでもPerfume入場規制がかかり大盛況に終わる。

 当初ロックフェスに出ることに対して一部の観客からは違和感もあり、Perfume本人たちもアウェーであると思っていたのだが、この日の経験が彼女達にロックフェスで音楽をやることの楽しさを教える。

ワンマンではPerfume っていうものを、人間性とかを含めて好きになってもらっている感じがあるんですけど、フェスになると音楽っていうものを楽しんでて、ダンスとか、パフォーマンスを楽しみにしてくれている人たちっていうのがすごく新鮮だし。今までインディーズからやってきた中でも、パフォーマンスっていう面で評価されたことがあまりなかったので。アイドルっていう見方になっちゃうと―歌とかはどうでもいいんですよ。本来『こう見て欲しい』というものを(フェスでは)見てもらえてる気がして、ほんとに気持ちよかったです。(ROCKIN'ON JAPAN 2008年 VOL.337  西脇綾香(あ~ちゃん)インタビュー)

 そしてこの翌年の2008年以降Perfumeは様々なフェスに出演し、今ではPerfumeがロックフェスに出ることに対して違和感を持つ観客はいなくなった。なんなら期待する観客すらいるほどである。そして彼女たちは2013年にはRIJの一番メイン取るステージであるグラスステージで3日間大トリを務めるまでに至った。では彼女たちはアウェーであるでなぜ勝ち上がれたのか。音楽ジャーナリストの柴那典氏はバンドが「フェスの場で勝ち上がっていく」姿が可視化され、メインステージのヘッドライナーを目指す「ゲーム」として設計されている事を指摘したうえでPerfumeがRIJに勝ち上がった理由をこう分析する。

独自の構造を築き上げたRIJにおいて、Perfumeはどんな存在だったのだろうか? 実は彼女たちはRIJに5年連続出演を果たしている。初出場は2008年。2番目の大きさのステージへの朝イチの出演である。その時点では、本人たちも、オフィシャルサイトのレポートも、アイドルグループのロックフェスへの出演を「アウェー」と表現していた。しかしそこで入場規制の盛況を記録し、翌年からはメインステージに昇格。2010年と2011年は昼、2012年はトリ前と、順調に時間帯を夜に近づけていく。5年間をかけて彼女たちはアウェーの場をホームグラウンドにしたわけである。(Real Sound「"ゲーム化"する夏フェスで、Perfumeはいかにして勝ち上がったか」http://realsound.jp/2013/08/perfume_2.html )

 つまりは彼女たちは続けていくこと、そして実績を残すことで最終的にはロックフェスをホームに変えた。そしてこのPerfumeがロックフェスに参加したことはアイドルがロックフェスにする契機にもなった。これ以降でんぱ組.incやBABYMETALなどのアイドルグループがロックフェスと参加している。そして2016年のCOUNTDOWN JAPAN(以下CDJ)にて欅坂46がステージに立った。

●欅坂46とロックフェス
 アイドルがロックフェスに出る時代ではある。しかし元AKB48の前田敦子がソロでRIJやCDJに出演したことはあるものの、AKB系列や乃木坂46はロックフェスへ出演する前例はなかった。しかし昨年、欅坂46はCDJ に出演した。ましてやデビューしてまだ一年も経ってない、さらには初のワンマンライヴを3日前にやったアイドルグループがGALAXY STAGEでライヴをした前例はない。ところがここで彼女たちはGALAXY STAGEを入場規制にし、なおかつ受け入れられた。そしてこの時のライヴでメンバーの志田愛佳が

「今日、欅坂はここで爪痕残しにきたんで。来年はもう一個でっかい舞台に行けるように頑張るんで! 幕張見てろよ! 今声出さないと今年終わるぞ!」(COUNTDOWN JAPAN 16/17 クイックレポート欅坂46 https://rockinon.com/quick/cdj1617/detail/153804)

と、今後もロックフェスに出演し続ける事を宣言する。そしてこの言葉の通り、今年の夏にはRIJ、さらにはサマーソニックに参加が決まっている。このことから見ても今後、彼女たちもPerfumeと同様で今後もロックフェスに出演するように思われる。また「ROCKIN’ON JAPAN」4月号に平手友梨奈の1万字ロングインタビューが掲載されたことからも、欅坂46は既存のアイドルとして売り出し方ではない、アイドルを普段は観ない客層にまでアピールをして、Perfumeのようにアイドルを超えた存在になりたいのではと考える。

 さて"再開発"と言うのをキーワードに、どのアイドルにも負けない強靭なパフォーマンスを持つグループとしての欅坂46そのロールモデルは"Perfume"ではないかということを今まで語ったのだが、実は欅坂46にはもう一つのロールモデルがあるように私は感じる。

 しかもそれはアイドルやアーティストではなく、マンガ、アニメ作品の主人公たちだ。その作品でも正義のヒーローがチームが一丸となり悪の軍団に立ち向かうという話であり、多層的な構造や当時の社会状況をトレースしたことで青少年に爆発的なヒットを起こした。その作品の名は『サイボーグ009』である。

第3章 欅坂46とサイボーグ009

●サイボーグ009とは
 『サイボーグ009』は1964年に「週刊少年キング」で連載が始まった石ノ森章太郎の少年漫画である。

 主人公である島村ジョーは、少年鑑別所からの逃走中に謎の男たちに捕まえられサイボーグへと改造されてしまう。彼を捕まえたのは世界の陰で暗躍する死の商人「黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)」。黒い幽霊団は原水爆やミサイルをはじめとした核兵器開発でうかつに戦争が起せなくなった時代に兵器を製造し販売が出来なくなった者たちに対して宇宙でも戦争が出来る戦闘用兵士、すなわちサイボーグという形で世界中に戦争で戦争を起こそうとしている集団であり、この野望を知った島村ジョーを含めた9人のサイボーグ戦士と彼らの生みの親でもあるアイザック・ギルモア博士と一緒に脱走し、黒い幽霊団の野望に立ち向かう。

 このあらすじからもわかるように、『サイボーグ009』は当時の米ソ冷戦下における核開発競争、宇宙開発競争を背景としており以降のストーリーもベトナム戦争やベルリンの壁といった世界情勢とリンクさせた形でストーリーは進行する。そしてこの作品を読んで感銘を受けた少年がいた。その少年の名前こそ秋元康である。

●秋元康とサイボーグ009
 その当時、『サイボーグ009』を読んだ時の衝撃をこう語る。 

「当時のマンガのほとんどが作り事で成り立っていたのに、『サイボーグ009』だけは、科学的にも政治的にも九十九までが事実であった。(中略)もちろん009が主人公で少年時代の僕もまた009に憧れた。しかし特に僕の印象に残っているのは赤ん坊の001と中国人の006 それまでの弱さを見せないヒーロー像に赤ん坊は不向きだし多くの人の関心がアメリカに向いている時代に中国人に目をつけた アジアの時代を先読みしたようなキャラクター設定には今でも大いに感心させられる。」(秋田文庫『サイボーグ009』第9巻解説)

 また、それと同時にサイボーグ009が秋元康自身に与えた影響に関してもこのように語っている。

僕も以前、映像、音楽、放送、活字など、それぞれの分野に長けた同士が集まって会社を作ったことがある。人は万能ではないのだから、ある能力を持った人間が集まり、秀でたところを活かして助け合うのは自然なこと。そんなスタイルも『サイボーグ009』から知らず知らずに学んでいたような気がする。(同上) 

 ちなみにこの"映像、音楽、放送、活字など、それぞれの分野に長けた同士が集まって会社"というのは秋元康が以前立ち上げた会社『SOLD-OUT』の事であり、立ち上げのメンバーには映画監督の堤幸彦がいるわけであるが、それぞれの分野に長けたもの同士というのは欅坂46でも見られる。

●団結と孤独、そして親子
 欅坂46のライヴ演出を手掛ける野村裕紀(株式会社nrs)は欅坂メンバーをこのように評する。

このグループはメンバーの個性のバランスが素晴らしい。だから面白い。それぞれに武器があって、それが被ることがないんです。全体をまとめようとする冬優花がいて、アイデアマンの小林がいる。尾関梨香のキャラクター性も他に類を見ないし、ねるの頭の回転の速さもにも感心します。小池美波も鈴本も、舞台に立った瞬間にアーティストとしての風格を見せつけてくる、もちろん平手も常に目を惹きつけられる。メンバー全員にこういった感覚を持っています。(BRODY4月号『欅坂46初ワンマンライブ衝撃ドキュメント』)

 各々がそれぞれに長けた能力を持ちながら、いざライブが始まると21人が一人の人間のごとく、息の合ったフォーメージョンダンスを観客に見せる姿はまるで各々の特殊能力を使い敵を打ち破る9人のサイボーグ戦士たちを思い起こさせる。

 また、欅坂46は制服と言うよりかはまるで軍服をイメージしたような衣装を身に纏っている。そして「サイレントマジョリティー」では《人が溢れた交差点をどこへ行く/似たような服を着て似たような表情で》と、大人に制圧されて意志を持たず日々を送る人間に対して君は君らしく生きて行く自由があるんだと歌い、3rdシングル『二人セゾン』のカップリングである「大人は信じてくれない」では《大人は信じてくれない/こんなに孤独でいるのに/僕が絶望の淵にいると思っていないんだ》と歌っている。常に大人に対して孤独に戦っていることが伺える。

 『サイボーグ009』もまた孤独な闘いをする。改造された人間たちは社会から突如消えても問題がない存在であった。例えば009の島村ジョーはハーフであり孤児でもあることから差別や偏見に晒されてきた。その結果、犯罪を犯して少年鑑別所に送致され、脱走したところを黒い幽霊団に拉致され、本人が気を失っている間に改造された。サイボーグ009たちは人間界から居場所がなくなった人間ばかりであるため、彼らは誰の助けを借りることなく9人で自分たちを改造した黒い幽霊団と戦いを続ける。

 そしてこの"自分たちを改造した黒い幽霊団に立ち向かうサイボーグ戦士"という構造は言い換えれば"親に対して子供たちが立ち向かう"ことであり、これは欅坂46の大人と戦う子供の構造にも見えてくる。欅坂46の歌詞について以前、秋元康がこうように語っている。

10代半ばの世代というのは、自分たちの価値観について迷うわけです。(中略)もしかしたらその世代の「迷いや戸惑い、思い込み」といったものが僕の頭の中にあって、それが詞として出てくるのかもしれないですね。大人からするとなんでもないことでも、感受性豊かな世代には「アスファルトの上で雨が口答えしてる」ように聞こえちゃうわけだから。そういう意味では、欅坂46では自問自答や、彼女たちの迷いそのものを描きたかったんだなと思います。(日経エンタテインメント! 2016年10月号)

 この《アスファルトの上で雨が口答えしてる》というのは2ndシングル「世界には愛しかない」の歌詞の一節であるが、この歌詞の前には《最後に大人に逆らったのはいつだろう/諦めること強要されたあの日だったか》とある。逆らえることができる大人とは、あきらめることを強要する大人とは誰であるのかと考えた時に待った先に思いつくのは"親"である。親であるからこそ子供の決断に口をす事も、そして子供はその意見に逆らうこともできる。そんな"親に対して子供たちが立ち向かう"という構造は"黒い幽霊団と9人のサイボーグ戦士たち"の構造に共通しているのではないだろうか。そして一番重要となるのが衣装の変遷である。

●衣装変遷の類似点
 サイボーグ009の衣装変遷を見ていこう。原作初期は緑の服であり、その後1966年に放送されたテレビアニメ第1作では白い服であった。そして1979年版の再テレビ化では赤色の服を着ている。そして石ノ森章太郎亡き後、『2012 009 conclusion GOD'S WAR』では青色の服であった。この変遷をアニメにしたのがこの図である。

(原作/石ノ森章太郎・小野寺丈 漫画/早瀬 マサト・石森プロ 『サイボーグ009完結編conclusion GOD’S WAR 1』)

 そして欅坂46衣装であるのだが、乃木坂46と同様に女子高生風の衣装だと思いがちなのだが実は乃木坂と違いシングルによって服のカラーコーディネートをガラッと変えている。1stシングル「サイレントマジョリティー」では緑、2ndシングル「世界には愛しかない」では白、3rdシングル「二人セゾン」では赤、そして4thシングル「不協和音」は青と、欅坂はこのような衣装のカラーコーディネーションを行っている。つまり衣装のカラーの変遷は『サイボーグ009』のそれと同じであるのだ。

(シングル曲における衣装の変遷)

 もちろん今語った内容は私の妄想も入った文章であり、秋元康に『サイボーグ009』がモチーフか?と聞かれたら「違う」と答えるかもしれない。しかし、サイボーグ009の解説を書くくらい、幼少期に影響を受けていたマンガである。オーディションの最終選考に残ったメンバーが、みんな大人しくて、大人や社会と接することを拒否しているような引きこもり感があったと秋元は読売新聞の『秋元康の1分後の昔話』の中で語っている。そんな彼女たちの姿を見て"大人を敵対する子供たち=サイボーグ009"発想が無意識ながらも結びついたのではないだろうか。それは、彼が立ち上げた映像、音楽、放送、活字など、それぞれの分野に長けた同士が集まって会社『SOLD-OUT』のように。

 そしてこの『サイボーグ009』は欅坂46の今後の目的地の事を示唆する1つのファクターでもあると私は考える。今まで出た″サイボーグ009”、“Perfume”、そして“再開発”は今後日本で行われるあるイベントに共通する。そのイベントが開催されるのは2020年夏の東京。前回東京で開催されたのは今から56年前、世界各地の人々が開催国へとやって来る4年に1度のイベントである。そう東京オリンピックだ。

最終章 欅坂46と東京オリンピック

●1964から2020へ
 石ノ森章太郎がサイボーグ009を描いたのは1964年。その10月10日に東京オリンピックは開催された。

 そもそも日本は1940年大会に一度は開催をすることを約束されてはいたものの盧溝橋事件から端を発する日中戦争がはじまり開催権を返上。その後、第二次世界大戦を経て日本は1951年より国際オリンピック委員会に復帰し、1960年の17回大会で誘致の立候補を行ったが、ローマに敗北。そして1964年の第18回大会の立候補を行ったところ誘致が決定。日本及びアジア地域で初めて開催されたオリンピックとなった。

 参加国93カ国、参加人数 5133人、競技種目数20競技163種目で14日間にわたり行われた東京オリンピックであったが、この東京オリンピックが開催されたことで東京の再開発は急激に進んだ。

 この当時、東京オリンピックは別名「1兆円オリンピック」とも言われていた。これはオリンピックの開催経費が1兆円使われたという意味ではなく、関連の事業を含めて約1兆円使われたことを指す言葉である。東京オリンピックの経費としては、組織委員会経費の99億4600万と大会競技施設関係費の165億8800万円との合計265億3400万円。一方で、直接的なオリンピック経費とはいえないが、関連事業として道路整備(1,752億7900万円)、東海道新幹線(3800億円)、地下鉄整備(1894億9200万円)など総額9608億2900万円の事業が行われた。

 そもそもオリンピックによる都市開発というのは前回のローマ大会から行われていたことでもあるのだが、東京オリンピックは「オリンピック=都市の再開発」の図式をより世界にアピールすることになった。

 時は変わって2013年9月7日。東京は1964年以来、2度目のオリンピック開催都市になった。石原慎太郎都知事時代に2016年のオリンピック招致に失敗してからの2度目の招致で東京オリンピックは開催する運びとなった。開催都市が東京に決まり都市の再開発が進む一方で、私たちの耳に入るニュースはオリンピックのエンブレム盗作問題や国立競技場の建設費問題、さらには当初約8000億円と言われた経費も1兆6000億と倍以上に膨れ上がるといったことばかりである。そんな中で2014年に東京オリンピックに関連するある話題がニュースになり波紋を読んだ。秋元康が2020年の東京オリンピックの理事になるという発表だ。

●秋元康と開会式と椎名林檎
 これに対して一部の好ましくないファンからSNS等で抗議が起こり、オンライン署名収集サイトである『chenge.org』では秋元康のオリンピック理事を中止する署名活動まで行われる事態となった。

 そしてその状況を見て立ち上がったのが椎名林檎であった。

「(東京五輪開催が決まって)皆さん「だいじょぶなのか東京」と、不安を覚えたでしょう? 開会式の演出の内容がおっかなくて仕方ないでしょう?」
「昔から脈々と続く素晴らしいスポーツの祭典が東京で開催されるんですよ。もし自分の近いところに関係者がいるのであれば、言いたいことはありますよ。(中略)J-POPと呼ばれるものを作っていい立場にあるその視点から、絶対に回避せねばならない方向性はどういうものか、毎日考えてます」
(2014年 音楽ナタリー 椎名林檎インタビュー)

 その結果、リオ・オリンピックから東京五輪への「引継ぎ式」アドバイスメンバーに椎名林檎が抜擢され、Perfumeの振付師であるMIKIKOもアドバイザーとして参加した。そしてリオ・オリンピックの引継ぎ式でのパフォーマンスはPerfumeでお馴染みの中田ヤスタカによる楽曲やPerfumeのライブ演出でお馴染みの真鍋大度が率いるライゾマティクスのAR技術が使われた。それを観た視聴者からは「これなら4年後の開会式の演出も大丈夫だ」という安堵の声がSNS上で広がっていた。

 さて、このような事態を秋元康がじっと見ていたわけではない。彼は東京オリンピック理事に就任したのと同タイミングで次の企画を動かしていた。そう、それが欅坂46であった。

●東京オリンピックと欅坂46
 欅坂46が最終的にどこを目指しているかと言えばこの東京オリンピックであると私は考える。少々飛躍し過ぎかもしれないが、そのように考えれば、オリンピック開催に伴い急激に再開発が進む東京を歌にしてきたことも、東京オリンピックと同じ年に生まれたサイボーグ009をモチーフにしたことも、またPerfumeのようなアイドルを超えた存在を目指していることも説明がつく。

 欅坂46はアーティステックで、アイドルファンだけでなくより大衆に向けたグループであることは第2部で示したわけであるが、彼女たちのダンスはいわゆるアイドルの振付けのレベルを超えている。音楽評論家でありアイドルにも詳しい宗像氏は欅坂46に関してこのように語っている。

曲、ダンス、衣装、CDジャケットなど、統一美を徹底的に追求した視覚的な快楽がとても強く、見るだけでカタルシスを感じる。これまでのアイドルが歌って踊る、いわゆる"振り付け"とは全く違うものだという感覚です。もはや歌うことを想定していないとすら思うような振り切れ方をしている。ある種の美意識の最終形ではないでしょうか(週刊朝日 2017年4月21日号)

 この統一美の正体こそデビュー以来、ダンサーや衣装、ミュージック・ビデオやジャケット周りのクリエーターを変えずに1チームで動かし、Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100」に選ばれ、マドンナの専属ダンサーであった上野隆博が彼女たちにフォーメーションダンス、ストリートダンスやバレエなどの様々なダンスの要素を詰め込んだダンスを享受したことで、他のアイドルの振り付けとは一線を画したパフォーマンスを実現させた結果である。そしてそれは秋元康を東京オリンピックの理事に反対活動する人間たちに対して「東京オリンピックに出てもおかしくないグループ」という秋元康なりの回答が、欅坂46であったのではないだろうか。

 もちろんこれは妄想の域を出ていない。秋元康も「欅坂46をオリンピックに」とは明言していない。しかしリオ・オリンピック終了後

19歳で迎える東京五輪では、応援ソングを歌いたい。これは絶対にやりたい!(スポーツ報知 8月23日付)

と欅坂46の平手友梨奈は語っており、再開発をテーマにしたことやアイドルを超えようとするような彼女たちの活動を見ていると、欅坂46を構成するベクトルは東京オリンピックに向けられているのではと私には感じる。

●欅坂46が2020年までに獲得するべきこと
 では欅坂46がオリンピックで歌えるような国民的アイドルになれるのか。まず開会式で歌えるかどうかということを考えると現時点では相当厳しいと思う。

 ロンドン・オリンピックの開会式やリオ・オリンピックの開会式を思い浮かべてほしい。ロンドン・オリンピックのではアークティック・モンキーズがビートルズの「Come Together」と自身のデビュー曲「I Bet You Look Good On the Dance Floor」を演奏し、最後はポール・マッカートニーの「Hey Jude」で観客は大合唱する。

 リオ・オリンピックではパウリーニョ・ダ・ヴィオラがブラジル国歌「Hino Nacional Brasileiro」を、エルザ・ソアレスが「オサーニャの歌」を歌い、最後にはカエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルが「Isto aqui, o que é?」を歌う。

 ロンドン、リオの開会式では国内はおろか全世界で活躍する、またはその国の歴史を作ったアーティストたちが開会式に軒を連ねている。日本もこのような形を取り入れるのかはわからないが、もし仮に今現在この枠に立てるアイドルがいるならば海外での人気もあるPerfumeやBABYMETALが妥当になるのではないか。

 ではオリンピック応援ソングではどうか考えると、過去に秋元康が手掛けたAKB48や乃木坂46は応援ソングを歌ったことがない。そして過去20年間のテレビ局におけるオリンピック応援ソングに関していえば、2002年のソルトレイクオリンピックでモーニング娘。が『そうだ!We're ALIVE』を歌って以降、女性アイドルグループは誰も歌ってはいない。しかし逆を言えばモーニング娘。が『そうだ!We're ALIVE』を歌っている以上、女性アイドルでも応援歌は歌えるということであり、もし欅坂46が狙いに来るのなら4年後までにAKB48や乃木坂46といった先輩たちやPerfumeやBABYMETALといった存在をも追い越していくことが今後の課題になるのだろう。

 ただ、現時点でAKB48、Perfume、BABYMETALは東京ドームで、乃木坂46もさいたまスーパーアリーナでライヴするほどの観客動員数があるため、日本という視点だけではなかなかこの4組に追いつくということは難しいように思われる。

 ではどうすべきか。これからオリンピックを本気で狙いに行こうとするならば日本だけでなく、海外で受けるコンテンツ力の高いグループに成長させなければいけないと思う。その場合、まず考えられるのは海外で日本を発信するイベントで成果を残すことが一つの課題となるであろう。

 海外で日本を発信するイベントと言えば最大手はイギリスで毎年開催されている『Japan Expo』というイベントがある。日本のカルチャーを紹介する大規模な博覧会でありここにも数々のアーティストやアイドルが出演している。例えば、きゃりーぱみゅぱみゅや東京女子流、そしてAKB48や乃木坂46もここに出演したことからもここがアイドル・アーティストとして海外へ発信する一つの登竜門的な位置づけになっている。

 しかしきゃりーぱみゅぱみゅ以外は海外展開が今一つ軌道に乗っていない。そして今軌道に乗っているPerfumeかBABYMETALは『Japan Expo』には出演せずに海外での活動を活発化しているのだ。

 ここで2組のライヴにおける特性を考えるとアイドルという側面以外にも、別の拮抗する特性があることに気がつく。例えばPerfumeなら真鍋大度が率いるライゾマティクスのAR技術、BABYMETALなら神バンドの圧倒的なクオリティーの演奏力。要は彼女たちははなからアイドルの土俵で勝負をしていないわけであり、それ以外の強い武器を持っているからこそ海外に通用しているのだ。

 またこの2組はアイドルに特化したイベントではない場所での勝負強さが功を奏したという点もある。Perfumeは2013年の6月21日に開催されたカンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルにてパフォーマンスをした。

 3人が衣装がスクリーンとなり、ダンスにあわせて次々と色鮮やかなグラフィックが映し出されるその演出は見ていた広告関係者やクリエイターから称賛された。そしてこの2週間後にヨーロッパ・ツアーであり大盛況であったことから考えるとタイミング的には最良の宣伝効果を生んだと思われる。そして以降のPerfumeのライヴではこの真鍋大度のAR技術が欠かせない存在になっていく。

 Perfumeがカンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルであるならば、BABYMETALは2013年のサマーソニックであった。この年、サマーソニック初出場であった彼女たちはメタリカのメンバーやそのスタッフが偶然目撃したことで、翌年のソニスフィア・フェスティバルUKに出演。6万人の観客の前で堂々としたライヴをやり、その年のソニスフィア・フェスティバルのベストアクトTOP10に選ばれた。それ以降、海外フェスへの出演やレディー・ガガのオープニングアクトを経て、海外での人気を獲得する。

 では欅坂46の場合はどうすべきかを考えると、まずは今年初出場となるサマーソニックで爪痕を残すようなアクトを行うのが大事である。サマーソニックの参加者の5000人~1万人程度がアジア圏からの観客であり、また開催元のクリエイティブマンプロダクションは今年「サマーソニック上海」の立ち上げを発表している。もし、このサマーソニックで観客を熱狂するようなアクトができれば、来年度以降のサマーソニック上海も見え、一気にアジア圏での活動が具体性を増す。

 また欅坂46が所属するソニー・ミュージックエンタテインメントは子会社の株式会社Zeppホールネットワークは香港、韓国、台湾、インドネシアほかアジア諸国の音楽フェスへの出資を行ったり、またアジア圏にライヴハウス建設(6月末にシンガポールにZepp@BIGBOX Singaporeというライヴハウスが出来る予定)など海外進出に積極的である。また、JKT48やTPE48とアジア各国にAKBの姉妹グループを持つ秋元康であるので、もし今年のサマーソニックで日本だけでなく海外の観客を熱狂させれば一気に世界進出への足掛かりをつかめるのではないだろうか。

 とはいえ、そのためにはアイドルとしてではなくよりクオリティの高いパフォーマンスを見せる存在になることが重要であり、そうでなければ海外での飛躍を見せることなく終わってしまう可能性もある。しかし、海外の観光客を熱狂させれば、アジア進出の道も切り開かれ、オリンピック応援ソングだけでなく、オリンピックの開会式で歌うことも夢じゃなくなる距離に近づくのではないだろうか。

 オリンピックという存在は欅坂46にとってまだまだ困難な障壁であるのかもしれない。しかし彼女達がこれから成長しアイドルではなく、アイドルを超えた瞬間、東京オリンピックで歌う存在になるかもしれない。

あとがき

 全4章からなる欅坂46論楽しんでいただけましたでしょうか。本稿は音楽だいすきクラブ( http://ongakudaisukiclub.hateblo.jp/ )で全4回にわたり連載した欅坂46論をまとめ、加筆・修正を行った論考であります。この『欅坂46論』では彼女たちのまだ表れていない姿を浮き彫りにするというのが最大の目的であり、論を深めた結果、全4章構成で文字数として2万字を超えるものとなりました。

 本来なら最終章で終わろうとも思ったのですが、書き上げた後にどうしても語っておきたいことがあったので"あとがき"という形で記しておきたいと思います。それは秋元康が欅坂46をどう考えているのかということです。

 今回、欅坂46について再開発、アイドルのアーティスト化、サイボーグ009、東京オリンピックというキーワードで語りました。しかし欅坂46の生みの親である秋元康は多分この論で語られたことは意図はしてないし、ほとんど考えていないとも思うからです。

 この欅坂46論を書くにあたり欅坂46に関連した秋元康のインタビューを読んだのですがインタビュアーの質問に「そこまで考えていなかった」「たまたまタイミングが良かった」ということを何度も繰り返し発言をしていました。実際、5月3日に放送された秋元康の10時間ラジオの中でも欅坂46に関して、「笑顔を見せないアイドル」や「反逆のアイドル」といったコンセプトは考えてはいなかったという旨の発言をしており、今回この欅坂46論を書き進めながらも、私の頭の片隅では「秋元康はこんなことを考えてないんだろうな」と思っていました。

 そして秋元康のインタビューを見ながら私はある一人の作家を思い出していました。村上春樹です。村上春樹もまた新刊が出るたびインタビューをされるのですが、そのたびに「知らなかった」「そこまで考えていなかった」ということを発言する作家でもあります。

 しかしそんな村上春樹でありますが、彼の小説について語りたい人が後を立たないのはなぜでしょう?そして秋元康の生み出したAKBや乃木坂、そして欅坂に関して語りたい人が後を絶たないのはなぜでしょうか。私はそのヒントとなるようなツイートを最近見かけました。ゲンロンで行われている批評再生塾内で佐々木敦が語った内容の一部です。批評再生塾では今年、実作者を呼び受講生が批評をするという試みをやっているのでが、それに関連した内容であります。

本当にすごい実作者は、自分が思っている以上のことをやってしまっていることがある。そこに他者の言葉である批評が生起する地点がある。( https://twitter.com/genroncafe/status/872407501509087232 )

 秋元康、村上春樹も本人たちが思っていた以上のことをやっている。そして、それは無意識でやっている。だとすれば本人たちが無意識でやっている部分こそが私たちを引き付ける魅力であるし、そこにこそ様々な「語り」が生まれるのでは、と私は思うのです。

 批評や評論とは"相手を批判する"ものではありません。"新しい価値を伝えるもの"だと私は思っています。この欅坂46論を読んで「私はそうは思わない」「いや、こういう見方もあるのでは?」という方がいましたらぜひ、あなたの欅坂46論を読ませてください。この文章から新しい欅坂46の語りが生まれることを期待して、この拙い文章を終わりにしたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考文献

はじめに
・酒井順子『オリーブの罠』講談社

第1章 なぜ欅坂46は渋谷を歌うのか?
・宮沢章夫『東京大学「80年代地下文化論」講義 決定版』河出書房新社
・マガジンハウス 編『Casa BRUTUS特別編集 渋谷PARCOは何を創ったのか!? ALL ABOUT SHIBUYA PARCO』マガジンハウス
・小沼啓二『森ビル・森トラスト 連戦連勝の経営』 東洋経済新報社
・森ビル株式会社「六本木ヒルズ:コンセプト・開発経緯」(https://www.mori.co.jp/projects/roppongi/background.html)

第2章 欅坂46はアイドルを超えられるのか? 
・洋泉社編『映画秘宝EX激動!アイドル10年史』洋泉社
・香月孝史『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』青弓社
・マーキー編『Capsule Archive』マーキーインコーポレイティド
・ロッキング・オン編『ロッキング・オン・ジャパン9月増刊号ROCK IN JAPAN FES.2008』ロッキング・オン

第3章 欅坂46とサイボーグ009
・山田夏樹『石ノ森章太郎論』青弓社
・秋元康 (監修)『SOLD OUT!!』扶桑社
・MdN編『月刊MdN 2017年 1月号(特集:アイドル―物語をデザインする時代へ)』MdNコーポレーション
・読売新聞よみほっと日曜版「秋元康の1分後の昔話」4月30日付朝刊

最終章 欅坂46と東京オリンピック
・公益財団法人日本オリンピック委員会ホームページ『vol.3 紆余曲折を乗り越え、迎えた10月10日/オリンピックを支えた募金活動』http://www.joc.or.jp/past_games/tokyo1964/story/vol03_04.html
・宇野常寛編『 PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』第二次惑星開発委員会
・柴那典『ヒットの崩壊』講談社
・境真良『「BABYMETAL快進撃!」の絶妙な仕掛け/雛型はPerfume、アミューズ流の戦略とは?』http://toyokeizai.net/articles/-/57210

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