本と大学と図書館と-13- 施設利用者の視線 (Fmics Big Egg 2019年11月号)
ショッピングセンター(SC)などの商業施設,市庁舎や複合化する図書館などの公共施設,高等教育サービスや地域住民への生涯学習・地域開放が推進される大学施設に興味があります。3種類の施設に共通するのは,運営・サービス基盤として建築に大きく依存度する点(施設依存)と,不特定多数の人たちが利用する点(多様な利用)です。
商業施設は消費を促進し,公共施設は生活向上を促進し,大学は知的活動を促進します。しかし,施設利用者・住民の立場では,施設の設置・運営者や建築家の意図を超えて,施設を多様な目的で利用しています。飛躍した言い方ですが,施設がつくられた本来の意図を達成できていない施設とも言えます。
フードコートの座席では,買い物もせず,打ち合わせをしている住民グループや,持参の弁当を食べて昼寝している会社員もいます。図書館には,自習禁止の貼り紙を気にせず,本を読まないで学校の勉強をしている中高校生がいて,友人との待ち合わせにも使われています。大学には高額な学費を払っても講義に集中しない大学生も多くいます。このように,施設は多様な利用を受け入れます。
商業施設「テラスモール湘南」を含んだ駅前再開発の物語には,経過・現状・評価と共に,3種類の施設にも通じる建設の意図も語られます。
菅孝能(すげ たかよし);長瀬光市(ながせ こういち)『湘南C-X(シー・クロス)物語:新しいまちづくりの試み』(有隣新書 2014)
特に,植栽や窓広告制限など,景観に関する部分が,ここまで全体的に考慮されていた開発だったのかと,新鮮な驚きがありました。C-Xは成功事例ですが,大規模商業施設が建設されても,供給の増加に需要が追いつかない,既存施設との共倒れ,地元商店街の衰退など,新たな地方の疲弊もあります(p.203)。
広い敷地の公共施設や商業施設の建設は,地方でも都市部でも目につきます。政府の主導する地域創生や中心市街地活性化,そして,文部科学省の関連では,社会教育施設の複合化・集約化が盛んに行われています。新しくて大きい建築は,それだけでワクワクします。
では,建設投資は景気を底上げしているでしょうか。基盤施設は住民生活の利便性を向上しているでしょうか。本当に必要な建設なのでしょうか。もっと必要な投資があるのではないでしょうか。ワクワクする反面,自分事として立ち止まって考える大切さにも気付きたいものです。