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「本と大学と図書館と」-50- 本の神話性 (Fmics Big Egg 2023年7月号掲載)

 先月号に書いた通り,SFと時代小説などの小説類44.65m(約2,500冊)を,5.2mを残して処分しました。旧職の知り合いの古書店に紹介してもらった,隣の市のサブカルチャー系古書店にお願いしました。自宅の保存場所から搬出してもらえる点が決め手でした。当初考えていたブックオフでは,玄関まで自力で運び出さなければならないらしく,体力的に大変そうなので諦めました。
 査定総額は3万3千円,1冊13.2円でした。蔵書印を捺してあるものが大半で,古書市場での交換会では商品価値がない結果ですが,ヤフオクなどへの出品による有効活用も考えられ,ゴミとしての運命は辿らずに済みそうです。
 残ったのは,在野研究を継続するための図書館・高等教育関連本17.1m,論文などの資料コピー11.7mです。次は,28.8mを18.4m(7段の本棚3本相当)まで,自炊によるデジタル化の視野に入れ,物理的に絞る予定です。
 娯楽諸説の蒐集・保管・処分までの私的な50年間が終わり,本の機能について改めて考えさせられました。読むだけでなく,必要部分の参照,積読,コレクション,出版流通,文化などが考えられます。本を買って,読まずに持ち続けることは,家庭の経済効率的には感心しない行為と判断して処分したわけです。
 大学図書館に視点を移すと,蔵書の評価指標の一つに,館外への貸出の回数が考えられます。図書館業務が電算化されて以降,図書の貸出履歴は分析可能です。幸いにして,個人情報を保有する部署内における利用と他機関への提供について業務遂行上に必要な理由がある場合の利用が認められていたので,2013年度末時点での貸出可能な蔵書38万件について,2001年度からの13年間の貸出履歴を分析したことがあります。「開架 一般図書」162,357冊のうち,貸出回数が0回の図書は91,084冊(56%),そして「書庫 一般図書」224,233冊のうち,貸出0回は199,370冊(89%)となりました。
 教育・研究に資する大学図書館蔵書の機能を根拠に,保管経費と購入の必要性が正当化されるなら,個人蔵書も生活の豊かさと個人の興味を根拠に,書庫機能を備えた書斎もあり得ます。永江朗『狭くて小さいたのしい家』(原書房 2004)では,地下の書斎に50m分の本を収納する小さな家「ガエ・ハウス」が紹介されています。小説類を処分してしまったことが早計過ぎたと悔やまれますが,決意を新たに,在野研究用図書・資料に囲まれた書斎での愉しい老後生活を模索してみます。

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