イケているおじさん。
新橋20時。
恵比寿でナンパされた男性に誘われて合コンに参戦。
アラサーの私たちの焦りを鑑みると、絶対に需要と供給が一致していない会であることは容易に想像できたが、正直なところどんな人が来るのか、と、こわいもの見たさという気持ちが強かった。
サラリーマンでひしめき合う赤提灯系の居酒屋をすり抜けて、小洒落た居酒屋で待ち合わせ。
すでにお店で3人の男性が待っていた。
私と連絡を取り合っていた彼と、その先輩が2人。
たぶん、人生で初めて会った。
まっじでイケているおじさん達。
私の知り合いが連れてきたのは、私たちよりひとまわり以上歳上の40代中盤バツイチおじさんだった。
商社に勤めているという彼らは存在がとんでもなくカッコ良かった。
見た目は清潔感と健康そのもの。
まず、見た目が36歳くらい。日に焼けた顔と、鍛え抜かれた胸板や腕がジャケットの上からでも主張していた。
きちんとセットされた髪と、サラッとつけた嫌味のないアップルウォッチが丁度よくて、とにかく洗練されたサラリーマンという好印象を持った。
だから私は薬指に指輪がはまっていないことをそっと確認した。
そして、テンポのいいトーク。
彼らは、おじさんであることを恥じらわない少し古い鉄板ネタを堂々とやってのけた。
もちろん場が盛り上がる時もあれば、ちょっとわからないな〜という雰囲気になる時もあったけど、そこをしっかり自虐で落として全て笑いに変えてくれる。
年の功というけれど、本当に経験や知識を自分のものにしていて、それが自信となって話し方やオーラに現れている彼らは魅力的そのものだった。
モテるんだろうな。
合コンも百戦錬磨で生き抜いてきたんだろうな。
一生楽しかった。
さて、宴もたけなわではございますが、いよいよお席の時間となった時、お会計がすでに済まされていたことにもまた驚いた。
スマートが過ぎる。
お礼を伝え、私は、七三分けツーブロックおじさんの後に続いてお店の外に出た。
みんなで2次会どこ行くのかな、と聞くタイミングでパッと振り返ると、そこには誰もいなかった。
え?
おじさんが言った。
「春子ちゃんと2人で行きたいお店あるんだ」
こわい、よりも
あやしい、よりも、
洗練された男性が女性を連れて行くのはどんなお店なのか、気になった。
「え〜!2人〜?」
と言いながら、促されるまま一緒にTAXIに乗る私。
イージーか、私。
というか、私の友達とおじさん達撒くのうますぎない?
すぐに閑静な住宅街に着いた。
地下に下ると看板も出ていない、バーがあった。
こんなところにお店あるのなんて誰が気づくの?
重い扉を押しておじさんに続いてお店に入る。
カウンターにはフルーツの入ったカゴが置いてあった。
「どれがいい?」
私は迷わず桃を選ぶと、バーテンダーが丸ごと絞ってフルーツカクテルを作ってくれた。
バーテンダーがカウンターからお酒を出す時には薄暗いバーの中で私のカクテルと添えられたドライフラワーにだけに光が当たるようにライトで照らしてくれた。
その演出なに?
やばい、写真撮った方がいい感じ?
「え?待って?すごすぎる、、、私こんなお店来たことないです、、、!」
思わずチープな素の感想を口にしてしまった。
今まで飲んだお酒の中で間違いなく1番美味しかった。
一杯いくらするんだろう、、、
「はい、春子ちゃん。剥きたてのマカダミアナッツ。」
おじさんは隣でお通しのマカダミアナッツを涼しい顔で剥いてくれていた。
ムキタテノマカダミアナッツ?
単語の組み合わせに笑いそうになった。
庶民の私は殻に包まれたマカダミアナッツを初めて拝見した気がした。
美味しかったけど、コンビニとかで買える塩でコーティングされてるのでいいんだけどな。
「春子ちゃんは、元気で明るくて健康な印象の中に、色気があるね」
その要素って共存することあるのかな?とは思ったけど、嬉しかった。
「俺は、女の子には全員に幸せになってほしいから、傷つくことは絶対しないよ。」
バーでは、口説かれてるんだかなんだかよく分からない話と
「俺はもともとおでこが広い」
という話をされた。
少し禿げてきているかもしれないという不安を拭いたかったのかな。
かわいい。
「春子ちゃん、女性っていうのは、28歳〜33歳が1番魅力的なんだよ。
その間に歳上の男性にたくさん育ててもらって、34、35歳くらいで少し妥協して選んだ相手と結婚するのが、1番幸せな道だと思うな。
少し長く生きてるおじさんからのアドバイス。」
だって。
一理あるんだろうなあ。
そもそも育ててくれる大人の男性なんて身近にいないんですけどね。
終電の時間になって、帰ると告げると、じゃあ少しだけ散歩しようと言われた。
路地に入った時は手を繋いで、大通りに出る道を歩く時は、
「ここにはよく文春が隠れてるんだよ〜」
と言って手をパッと離して歩いた。
我々一般市民だから大丈夫だけどね、と言って笑った。
終電がなくなった。
おじさんは、さっと右手を挙げタクシーを捕まえてくれた。
眠たそうな運転手さんより先に私の住所を聞いてカーナビに打ち込んでくれた。
「じゃあ、最後、これに適当に記入お願いします。」
そう言って、運転手さんにタクシーチケットを渡してくれた。
「春子ちゃん、明日も仕事でしょ?家着くまで寝て帰りな、またね」
「本当にありがとうございました!あの、お身体に気をつけてください!!」
とやり取りをした後すぐにタクシーが発進した。
手を振って別れてすぐに、そういえば連絡先も何も聞かれなかったことに気づいた。
これが、イケオジかあ。
ずっと女の子扱いしてくれて、いっぱい褒めてくれたなあ。
ちゃんとチャラいし、ちゃんと余裕があったなあ。
社会人になって、30歳を手前にして、初めて大人の世界を見せてもらった気がする。
きっと、もう2度とない経験だった。
帰宅後、堪らなくなって、おじさんの名前を検索するとすぐにいくつもヒットした。
本当にすごい人だったんだなあ。
昨年の4月に更新されていた記事。
役員と対談をしている写真を見ると、薬指にしっかり指輪がはめられていて。
実際のところ、どうだったのかな。
大人、こわい。
まあ、それも含め、幻みたいなイケオジだったと思うことにした。
いずれにせよ、もう一生会わないのだけれど、勝手にすこーしだけ後ろ髪を引かれる想いになるのは、なんでだろう。
おじさんとの出会いは、
私の人生にとって間違いなくいい社会勉強にはなったのだけど。
こんなに生粋のチャラい紳士がこの世の中にいるってことを教えてくれたけれど。
これに慣れてしまう自分にはなってはいけないと思うのです。
もう一回会いたいけど、もう二度と会いたくない。
特別すぎて幸せすぎるひと時だったなあ。
夏の思い出。