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Restaurant TOYO ソムリエ徳重パリレポート No.8 【冬のブドウ畑】

新年が明け、レストランの営業も少し落ち着いてきた1月下旬。
Beaujolais(ボジョレー)地区にあるMorgon(モルゴン)という 村に行き畑を見てきました。

ボジョレーと聞けば、 日本人には馴染みのあるワインなのではないかと思います。
そう、毎年11月の第3木曜日に解禁される、ボジョレー・ヌーヴォーが造られる地域です。

思い返せば、 私がワインの道を志したのも19歳の時バイト先のホテルで初めて経験したボジョレー・ ヌーヴォー パーティーからでした。

そんな私の人生にきっかけを与えてくれたワインが造られている地域をこの目でしっかりと確かめてみたい!!
ひとり高揚感を抱えながらまだ人の少ない列車に乗り込みました。

宿はLyon(リヨン)にとっていましたので、TER(テー・ウー・エール)で少しばかり北上してMorgon村の南にあるBelleville-sur-Saône(ベルヴィル=シュル=ソーヌ)駅で降り、 目的地を目指しました。

今回のテーマは、 「ゆっくり歩くこと」。

駅から畑までの距離はどれくらいあるのか?
その街では土地のワインがどのように扱われているのか?
またそんなワインは どんな畑で、どのような条件下で育つのだろうか?
そこにはどんな人々が居て、どのように生活しているのだろうか?

そうしたことを肌で感じてみたかった。
だからとにかく歩き、そして、ゆっくりと目の前を観察しました。

日々をいちど忘れ、 その土地を見つめる。
畑に入り土を踏んでみる。
畑に混じる石に触れてみる。
しゃがみ込みブドウの樹と同じ高さに目線を合わせ畑全体を 見渡してみる。
そこから顔をあげ、 空を見上げてみる。
それはなんとも新鮮で、特別な時間。

生産者によってブドウの木はキレイに、そして等間隔で並べられているので全て同じかのように見えますが、
我々人間と同じように同じ形をした木など1つとしてありはしません。

歩いていると何人かの生産者が畑に出て仕事をしていました。
昨年の収穫を終えた枝の剪定作業が進められているようです。
畑では厳しい寒さに対峙するように火が焚かれ、時折鳴る「パチパチッ」としたブドウの木の枝が焼ける音とフランスのラジオが流れていました。

その人たちの姿を見て少し前のことをふと思い出しました。
それは私がソムリエ試験に向け勉強をしている頃です。
あまりの情報量の多さに、「なぜソムリエ試験は1年に1度しかないのだろうか?」と思ったことがありました。
年に何度かあればいいに、、、。 今年ダメだったら、 次はまた1年後になってしまう。
そう弱気になることもありました。

でも、それはそうです。
ワインにはヴィンテージがあります。
その数字の背景には生産者の人々の生活があり、努力があり、日々の葛藤があるのです。
どんな気候条件だったか、その中でどのような取り組みをしたか、うまく行ったこと、またそうでなかったこと。
きっとたくさんあると思います。
畑の外でも色々あるでしょう。 造り手さんの体調の良し悪し、人生の機微。
そんな1年の全てを反映したものが、その年のワインです。

だから、 ソムリエ試験も年に1回。
晴れて合格してバッジが届くのもブドウの収穫がすべて終わったあとの11月。

「ボンジュールっ❕」
少し距離は離れていましたが、なんだか声を張ってその人たちに挨拶したくなりました。

「サ ヴァっ?」 作業中のその人たちはにこやかに応えてくれました。

1年を通して生き抜いてきたブドウの木と造り手があって、初めて成り立つ職業であることをソムリエ試験は教えてくれていたのだと、しみじみと思いながらその人たちを後にしました。

こんなに寒いのか、、、
こんなに遠いのか、、、
こんなに広いのか、、、
エネルギーを消費してゆくごとに自らの身体に刻まれていく その土地の声。

1年を通してこの畑は確かにココに存在し続け、凍てつく寒さや茹だるような暑さなど気候がもたらすその全てから逃げることも隠れることも出来ない。
来る日も来る日もブドウの木々は、その日その日を甘んじて受け入れる。

そこには強さと優しさが共存しているように思えてなりません。

木々の悠然とした佇まい、またそれらが連なる地域一体が醸し出す雰囲気はなんとも分厚く、揺るぎない何か、、、。

こんなところで造られたワインをこれまで私は日本で扱っていたんだ、、。
パリのワインショップで見つけたワインはここのワインだったんだ、、。
これまで経験してきた様々な ワインシーンが脳内を巡ります。
目の前にワイナリーの看板が増えてきました。
どうやらモルゴン村に 到着したようです☺

「あっ、ココ知ってる!」
「飲んだことあるぞっ」
発見する一つひとつが、 また楽しい。

そのうちの一つに、Marcel Lapierre(マルセル・ラピエール)の看板がありました。

フランス自然派ワインの父とも言われた方。
ご本人は既に亡くなってしまいましたが、その後を息子さんが引き継いでいます。

ここにあるんだぁ〜。
少し覗いてから先へ歩き出したその時、背後から「Monsieur〜‼︎」と女性の声。
どうやらマルセル・ラピエールの事務の方らしいのですが、ちょっと見ていきなさいとのこと。

これはありがたい!
お言葉に甘えてお邪魔させてもらうことに。
アポも何もとっていませんでしたが、
「私は日本人のソムリエです!」と伝えるとテイスティングルームでいくつかのキュヴェを快く試飲させてくれました。
この地域のテロワールやブドウのことなど細かく解説を頂きながらの贅沢テイスティング🤣

ワインはとてもしなやかで、果実味・酸味・タンニンそのどれもが協調性に富み、非常にバランスのとれた味わい。ただそれらの要素は馴れ合うことはなく、それぞれの個性をしっかりと持ち、表現することを怠らない。だから、味わいにもしっかりとメリハリが感じられる。
やはり、素晴らしいワインでした。

「次回パリに行く時はあなたのレストランに行くよ!」
皆さん仕事中にも関わらず終始気さくに察してくれました。

現地に行き、畑を見て、造り手さんと言葉を交わす。これらのことがレストランでお客様にワインをサーヴする上で、ソムリエとしてどれだけ大事なことか。
肌で感じたこと、そこで学んだこと、生産者の眼差しを、ブドウの木々の力強さを 今後もっと客席で伝えられたら、、、。
きっとそのワインも、造り手さんも、お客様も全方良しになるのではないか?
そんな瞬間をつくるためにまた、ソムリエという職業があるのではないか?

そんなことを思わせてくれた今回の出会いでした。

気がつくとあっという間に夕方になっていました。
携帯の調子が悪いのかなかなか電波を拾いません💦やばいっ

Google Mapsも使えず、駅の方向がイマイチあっているかわかないままとりあえずまた歩きます🤣

また地域や季節が変われば、見える世界も感じることも変わるのだろう。

Morgon村を後にするとき、雲の切れ間から光が差し、視界がふわっと明るくなりました。
そばの畑に目をやると、凍りついた枝の先端がキラキラと光っていました。

シーズンではない冬のブドウ畑、 しかしこれもまたいいなぁ〜。 「また来るね!」 心の中でつぶやき顔をあげると 前方に小さな駅が見えてきました。


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