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澄華の左掌にあった傷が癒えて、瘡蓋が取れたのは夏休みに入る直前だった。肉が白く盛り上が…
ボロボロの机の前で呆然としてから、澄華は職員室に駆け込んだ。 まだ教師の大半が出席し…
「――玲ちゃん、土日泊まらせてくれない?」 顔を出した玲の部屋では、亮が泣き言を口にし…
タカサキやクラミチが率いるキラキラ女子たちへのあざみの対応は見事だった。 甘ったるい…
転校生・セキグチアザミへの風向きが変わったのは、転入の次の日だった。 スマートフォン…
休み明けの月曜日、ということを差し引いても教室のざわめきは普段のそれより大きかった。早…
太陽が昇りきって間もない、ひんやりとした空気の中に、爽やかな潮の匂いがする。風の影響だろう。町が海の香りに浸っている。こんな香りを楽しめるのは一年の内で数日だけだ。 初夏。 うだるような暑さが襲い掛かって来る前にだけ、この匂いがする。澄華はそれが嫌いでは無い。 自転車のペダルを踏み込んで、学校へ向かういつもの道を走っている。 部活動にも委員会活動にも参加していない澄華が、誰よりも早く学校に登校するのは、母親と過ごす時間をなるべく減らしたいからだ。 築三十五年。1L
教室は海に似ている。 青いのに透明な水だとか、白い砂浜だとか、ああいう陽気な南の海で…