登山ひつじ
北海道の田舎町。 恋愛関係で問題を引き起こす母親と二人暮らしの澄華は、それぞれ家庭に問題を抱える幼なじみの二人と一緒に灰色の中学校生活を送っていた。 スクールカースト。不穏な噂。閉塞的な日々。 ある日、転校生がやって来たことで、そんな日々が少しだけ波を立てて軋む。 フィクションです。実在の人物・事件・団体等には一切関係がありません。また、特定の個人等に対するいかなる権利も侵害する意図はありません。
こちらで以前に投稿をご報告させていただいた作品が一次選考を通過しました。 応募作品1,076作品中の295作品に残していただけました。今はWEBへの投稿をスローペースにしている時期なのですが、過去の頑張りが報われたようで嬉しいですね。二次選考の結果は今月下旬に出るそうなので、また楽しみに待ちたいと思います。拙作の他にも素敵な作品がいっぱいなので、どうぞご覧下さいませ。
ビギナーズラックでAmazonギフト券が当たってから、脊髄反射で参加してしまうようになった企画。 モノローグで語られる小説が好きなんですが、自分の技量が届いていないことを毎度痛感させられて辛いです。精進します。 ところで、pixivを使っていてふと思ったのですが、コメント機能でスタンプを送られたらpixivはスタンプ送り返せますよね? エブリスタでページスタンプを送って下さった方に、スタンプをお返しすることは出来ないんでしょうか…? 色々と試してみたんですが、出来ないのかな
「♯家族の物語」へ参加した「灰色の海に揺蕩う」の投稿が本日で終了いたしました。スキをくださった皆様、ありがとうございます。 さて、今回も参加させていただきました。超妄想コンテスト。皆様、小説のジャンルカテゴリーの分類って迷いませんか? 私はいつも迷います。自分が書いたものが、ファンタジーなのかSFなのか曖昧で困惑すること多々です。藤子・F・不二雄先生にならって「少し不思議もSFなんだ!」という意気込みでSFに投稿していますが、果たして良いのかこれは……? 煩悶の日々です。
澄華の左掌にあった傷が癒えて、瘡蓋が取れたのは夏休みに入る直前だった。肉が白く盛り上がって、筋を作っている。たぶん、この痕は消えないだろう。 フジコサンに関する一連の噂は、学校から綺麗に排除された。 タカサキもクラミチも、クラスにいるが前ほどの勢いも元気も無い。毎日のように生活指導に呼び出されて、何らかの話し合いがなされている。とはいえ、それは表面上のことだ。夏休みが始まり、新学期になれば彼女たちはまた、いつもの調子に戻るだろう。彼女たちが本質的に反省も後悔もしていない
怒鳴り過ぎて、泣き過ぎて頭が痛い。 目覚めは最悪の気分で、乾いた涙が固まって瞼が開かない。 なんとか起き上がった布団も敷いていない床の上。 朝の光が差し込むアパートの部屋の中は、がらんとしていて澄華一人きりだった。 昨日、澄華が包丁を自分で片づけるだけの分別を取り戻したのを見届けて、亮とあざみは心配げに帰って行った。 亮には不安定な家庭が、あざみには陰湿なイジメの問題が降りかかっているというのに、優しすぎて泣けてくる。 パートから帰って来た母親に、玲との父親の関
「――何がどうなってんの?」 玲の問いかけに、澄華は目を逸らして答えた。 「カッとなってやった。今は反省している」 「いや。そんな犯行動機みたいなこと言われても」 呆れた顔の玲が、澄華の横で所在なげに座るあざみを見た。 「関口さん、なんか飲む?」 「ココア飲みたい」 無性に甘いものが欲しい。澄華の言葉に、玲は素っ気なく言った。 「スミに聞いてないし。つーか、無いよ。ココアなんて。麦茶な。今、持ってくるから」 聞いておいて、テキパキと飲み物を決めると玲が腰を上げて部屋か
ボロボロの机の前で呆然としてから、澄華は職員室に駆け込んだ。 まだ教師の大半が出席していない職員室は、ガランとして静まりかえっている。その中で一人、パソコンに向かっているのは教頭だった。ひょろりとした体型で、黒縁の眼鏡をかけている。昔の担当教科は理科だったらしい。時々、代理で教壇に立ったりしている。 それは、ともかく。 「教頭先生、ちょっと、教室がヤバいです」 要領を得ない澄華の説明に、怪訝な顔をしながら教頭は腰を上げた。 3組の教室。 関口あざみの机を見て、教頭
「――玲ちゃん、土日泊まらせてくれない?」 顔を出した玲の部屋では、亮が泣き言を口にしていた。三隅家の家庭内事情は深刻を極めているようだ。 幼なじみの申し出に、玲はあっさりと首を振った。 「今、ウチの両親が契約更改の会議してるから。やめておいた方が良い」 その言葉に、澄華はクッションを引き寄せながら呟いた。 「マジで。もう、そんな時期か」 久我家の夏の風物詩だ。 普段は家の中にいてもロクに口を利かない夫婦が、この日ばかりは連日顔を合わせて真剣に話し合いを行う一大イベ
タカサキやクラミチが率いるキラキラ女子たちへのあざみの対応は見事だった。 甘ったるい声と、無邪気を装って発されるデリカシーの無い問いかけが出尽くすだけ待って発したのはたった一言。 「アンタたちに関係ある?」 その言葉で、質問を一蹴した。 そのまま、ぴたりと貝のように口を閉ざして無表情を貫いている。 最初はあの手この手で気を引こうとしていたタカサキやクラミチだが、あまりの手応えの無さに小さな罵倒や舌打ちを残して引き下がっていった。 あざみに対して行った嫌味な噂話もあ
転校生・セキグチアザミへの風向きが変わったのは、転入の次の日だった。 スマートフォンを片手に、深刻ぶった顔で女子生徒たちが情報を交換している。 澄華は餌場の鯉を思い出す。口を開けて、物欲しげに餌を貪る――色とりどりの魚。 幻の新婚生活に備えて、ままごとのように家事を始めた澄華の母親並に醜悪だ。 玲の家で吐き出した心の澱は、家に帰って現実を目の当たりにさせられると、再び心の中に降って積もる。ああ、嫌だ。 「アニキがクスリで捕まっちゃったから、こっちにやられたんだって」
休み明けの月曜日、ということを差し引いても教室のざわめきは普段のそれより大きかった。早朝の海辺に響く海鳥たちのさえずり。あれに良く似ている。 興奮と好奇心と期待が入り交じった囁き声。 「転校生」 「見た?」 「女」 「今、職員室」 「東京から」 「なんで?」 「きょうだい、いる?」 「どこに住んでるの?」 「可愛い? 可愛くない?」 勿論、それらの囁きは澄華の耳にも届いてはいた。内容も理解出来ていたが、感想を抱く気にはなれなかった。ハッキリ言ってどうでも良かった。 胸
なんと150回目だそうです。三行から応募できる超妄想コンテスト。 そして河出書房新社さんが、作品の選考に加わるそう。毎回、参加している人も凄いなぁと思いますが、毎回お題を出す方も凄いなぁと思います。 150回も、それなりに小説にしやすいお題を考えると思うだけで脳みそが干上がりそう。 出来はともかく、挑戦は出来ました! これからはもっと質を上げていきたいと思います。
太陽が昇りきって間もない、ひんやりとした空気の中に、爽やかな潮の匂いがする。風の影響だろう。町が海の香りに浸っている。こんな香りを楽しめるのは一年の内で数日だけだ。 初夏。 うだるような暑さが襲い掛かって来る前にだけ、この匂いがする。澄華はそれが嫌いでは無い。 自転車のペダルを踏み込んで、学校へ向かういつもの道を走っている。 部活動にも委員会活動にも参加していない澄華が、誰よりも早く学校に登校するのは、母親と過ごす時間をなるべく減らしたいからだ。 築三十五年。1L
教室は海に似ている。 青いのに透明な水だとか、白い砂浜だとか、ああいう陽気な南の海では無い。 澄華が思い浮かべるのは北の海だ。それこそ、自転車をトバせば三十分もしない内にたどり着く灰色の砂浜。 流れ着いたプラスチックの生活ゴミや釣り具が散乱して、濃い磯の臭いがする。そんな群青色の海だ。 ――気が滅入る。 突っ伏していた机から顔を上げると、群れを成した女の子たちの笑い声が漣のように、長方形の空間に広がっていく。 身だしなみと称して化粧をし、色の付いたリップクリーム
年代物の腕時計を修理したい、と知り合いが言う。 半世紀近く前に、その人の親類が購入したブランド物だ。正規店に出したら、とんでも無い額の修理代がかかりそうだと言う。 ちょっと心当たりがあるから時計を預けてみないかと言って、その店に時計を持ち込んだ。 地方都市のショッピングセンターの雑然としたラインナップの中。百円ショップと和菓子屋の中間地点。腕時計と壁掛け時計、それからいくつかの宝飾品がガラスケースに収められている時計店。 客が入っているところを見たことは無い。 オープンスペ
ご存知、三行から応募出来る短編コンテスト。 散々にお世話になっているのに、上限が8,000字だということを忘れて、やたらと長い作品を応募してしまってから我に返ること多発。 うっかり、うっかり。 これからは気をつけます。