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言の葉のこもごも

noteを始めてから、辞書を引くことが多くなった。
本を読んだりTVを見たりしている時に、気になる言葉をよく見つけるようになって。
「この使い方は、私が思っていた意味とは違うな。私勘違いしてた?」と。

すべては無理でも、できるだけメモしておいて、辞書を確認する習慣ができつつある。

ある時、TVを見ていて妙に気になった言葉があった。どんな番組かも、何を話題にしていたかも覚えていない。
その言葉だけが気になって、他は忘れてしまった (^_^;)

それは「うでまくり」

聞いた時、「・・・ん? 『袖をまくる』じゃないの?」と気になって辞書を引いた。

辞書には載ってなかった。「腕まくり」も「袖まくり」も。
うーん、どうしようか。たぶん、これは「腕」+「まくる」だよね。
じゃあ、「まくる」を引いてみよう。

【まくる】①物の端を巻いて上げる。「袖をまくる」

角川最新国語辞典 山田俊雄・石綿敏雄 編 1998年 39版

例文には「袖」とあった。
じゃあ、TVで言ってた言葉はつまり・・・腕の、端を巻いて、上げる ?!

失神者続出の映画などを想像してしまって・・・!

ホラー映画やバイオレンスものを想像してしまった💦
(私はそのテの映画はなるべく見ないようにしている)
背筋が寒くなった・・・

いやいや待て待て! まだ他にも書いてあるじゃないか💦

【まくる】②おおっているものを取り除いて肌を出す。「腕をまくる」

角川最新国語辞典 山田俊雄・石綿敏雄 編 1998年 39版


①の方の例文は「」で、②の方は「」。なんで???
はてなマークがたくさん飛んでしまう。
「覆っているものを取り除く」ってことは、「シャツやスカートを」ってことじゃないのかな? なんで肌を出すほうの「腕」をまくるの?

私が持っている辞書は古いから、図書館へ行ってみた。

4冊の辞書があった。出版年順に並べてみた。
私の疑問に関係ない意味は省いて、見比べてみた。
辞書によって微妙にニュアンスが違うみたい。

【腕捲り】袖口をまくり上げて腕を出すこと。 
     積極的に行動しようと意気込む時の様子にも言う。
【捲る】①覆いとなっているものを、一方に片寄せて上げる。
     「そでをまくる」「すそをまくる」
    ②覆われているものを現し出す。「うでをまくる」
※「そでまくり」は無し

岩波国語辞典 西尾実・岩淵悦太郎・水谷静夫 編 2009年 第七版  


【腕まくり】袖口を上にまくりあげて、腕を出すこと。
      しばしば、やる気を見せるという意味を持つ。
【捲る】衣類をまくようにして上げる。「腕をまくる」
※「そでまくり」は無し

三省堂 現代新国語辞典 小野正弘・市川孝・見坊豪紀・飯間浩明
中里理子・鳴海伸一・関口祐未 編 2019年 第六版


【腕捲り】袖口をまくり上げて腕を出すこと。意気込んで物事をする様子を        
     いう。「腕捲りしてがんばる」
【袖捲り】袖をまくって腕をあらわすこと。腕まくり。
【捲る】①端をまいて上げる。また、はぐ。「裾をまくる」「腕をまくる」
    ②紙などを裏返す。めくる。

三省堂 大辞林 松村明 編 2019年 第四版  


【腕捲り】衣服の袖口を捲り上げて、腕を外に出すこと。
    〔意気込んだ様子の意にも用いられる。「腕捲りして議長に詰め寄  
     る」〕
【捲る】隠れている部分が見えるように、端の方から(身に着けている物を)  
    折り返す。「シャツの袖をまくる」「腕をまくる [=腕捲りする] 」
※そでまくりは無し

三省堂 新明解国語辞典 山田忠雄・倉持保男・上野善道
山田明雄・井島正博・笹原宏之 編 2020年 第八版 


1998年にはなかった意味が、2009年には加えられている。
『積極的に行動しようと意気込む時の様子にも言う』と。出版社によって、初めて掲載された年は違うかもしれないけれど。
たった11年で言葉の意味が変化しているのだなぁ。

言葉の変化は思った以上に早いのかもしれないと以前に書いたことがあるけれど、11年とは驚きの早さ。

けれど、物理的には「袖」をまくるんだから、「袖まくり」で良かったんじゃない? なんて考えてしまう。

意気込んでいることを表現したい時、衣服や物よりも、体の一部を使う方がその気持ちをより強調できているように感じる、とか?

・・・これはもしや、一つの言葉に複数の意味を持つ日本語だから、意味と用法がごっちゃになってしまったということかな? 

それだけでなく、造語や流行語の可能性もあるよね?
だとしたら、辞書の次の版が出る頃には、腕まくりは載ってない可能性もあるかも。結果が何年後に出るか、興味が湧くな(笑)

こんな風に考えると、「言葉も生きものなんだなぁ」って思う。
いつの間にか変わっていた言葉や、ずっと変わらない言葉、もう思い出せない流行語とかがあって、変化の仕方もさまざまで。

けれどもすべての人がそれを把握している訳ではないし、世代によって使う言葉やその意味が違っていたら、誤解が生まれたり仕事の上ではミスも起こりかねない。

なるべく多くの言葉と意味を知って、なるべく誤解を生まないように、尚且つ、自分の気持ちに添っている言葉を使いたいな、と思う。 

 

因みにタイトルは、

こと】①ことば。言語。
【こもごも】かわるがわる。つぎつぎ。

角川最新国語辞典 山田俊雄・石綿敏雄 編 1998年 39版

という意味で使用(笑)




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