GW Advent Calender2日目:読書記録「モビリティと人の未来 -自動運転は人を幸せにするか」
毎日何かを学習し、Noteに進捗報告する!のリスペクト(という名のパクリ)カレンダー、2日目です。
「モビリティと人の未来 -自動運転は人を幸せにするか」を読んだので、感想を。
以下、特に気になった部分について感想を書きます。
第二章 安全と安心の間で
「安心」と「安全」の話。安心の反対語は「不安」だが、安全の反対語は「危険」だけでなく「リスク」であるという指摘は、とても理解できるし、人間がなにかの意図を持って物事を行うことは、変化が起こることであり、それは好ましからざる事態を招きかねません。しかし、何もしないことがより状況を悪化させる可能性が高ければ、人は状況を変えるためにリスクを取らざるを得ないでしょう。
人間が何かを行為がリスクを生じさせるのであれば、リスクをゼロに減らすという事は、人間の意思を全く介在させないということになります。本来であれば「運転の自動化」は人間の意志が介在しない、極めてリスクの低い行為になるはずなのだけど、昨今のゼロリスク志向でなぜかこの点が見過ごされているのは、認知の誤謬としては面白い現象だと思いました。
結局、自動運転が危険と認識してしまうのは、単に我々が人間の運転する自動車に慣れているだけです。「もし自動車が現代に生まれていたら、こんな危険なものは政治や社会の非難によって日の目を見なかった」という説が紹介されていましたが、納得できますし、僕もそうなるだろうと思います。今、自動車が運転できているのは、「たまたま」現代の社会・経済活動が自動車無しでは成り立たないくらい成長し、自動車が社会に根ざした結果です。したがって、経済の成果がない自動運転が受け入れられるには、信頼の積み重ねしかなく、そのためにはどうしても時間が必要になります。
自動運転の道は、技術面の課題よりは、いかに社会に根付かせるかという課題の方が大きいと感じました。もしこの課題をクリアした社会が自動運転について先陣を切ることができるのであれば、中国がトップダウンで覇権を握る可能性は十分にあります。
第3章 「自動運転時代」と日本の戦略
デジタル統合技術によって支えられている社会を、サイバー技術などの「統合技術」と「社会応用(政策郡)」に分けて説明している箇所は、非常に合点がいきました。このギャップは、要するにシステム開発における技術と業務のギャップであり、社会のギャップの本質です。業務サイド(ここでは、社会応用(政策郡)がこれにあたります)の要件を理解しないと、最悪の場合、工数だけかかって歪で役に立たないシステムが出来上がってしまう、というのは、ITプロジェクトあるあるとでも言うべき、典型的な失敗プロジェクトです。そのためITエンジニアにとっては、少なからず理解できる話です。
そう考えると、統合技術側からのアプローチだけでは不十分で、社会応用(政策郡)からのアプローチも必須になります。
ところで、「自動運転」は統合技術の一つであり、「インターネット」「人工知能」などのサイバー技術とは異なる「物理的な」技術でもあります。この分野で、日本はリードができるのでしょうか。
正直なところ、IT技術や官僚の動きはそこまで悪くはないと思いますが、トップであるはずのIT担当大臣この体たらくなので残念ながら無理でしょう。 しかし、実はそれ以前の問題がありました。
第三に、実はこれがより深刻な問題かもしれないが、自動運転やロボティクス、ドローンは、半導体や組み込み技術などの分野で、すでに欧米や中国の後塵を拝していることである(それどころか、かなりの周回遅れだ)。
(モビリティと人の未来 -自動運転は人を幸せにするか P.66)
これは無理だな…。
暗い気持ちになりました。
第6章 ゲームAIから見た自動運転
「ゲームAIを応用して、車自体を1つの自律型人工知能として考える」というアプローチはなかなか面白く、自動車の可能性を大きく広げる良いアプローチに思えました。感覚・認識・意思決定・行動形成と言うプロセスが1面につながると、自律型人工知能の要件が満たされるとのことですが、これはをベースにすれば、自動車の実証実験を繰り返すことで、持ち主・土地に合わせた自動運転も不可能ではなくなります。
ゲームに馴染みがある僕としては、全体的にスリリングでとても興味深い章でした。また、人工知能の話でまさか現象学の話が出てくるとは思いませんでした。現象学、おさらいしようかな。
第8章 自動運転はイノベーションのジレンマを超えるか
このような時代にあって、これまでの行政や大企業だけを社会的な意思決定の実質的主体と捉えるやり方は限界が来てるのではないか。(モビリティと人の未来 -自動運転は人を幸せにするか P.126)
まさにその通りであるし、そうであるからこそ、日本では自動運転のブレイクスルーが起こらないと考える理由がここにあります。日本一の大企業は、「トヨタ自動車」。トヨタを倒しうる破壊的なイノベーションが起こらない限りは、構造が変わらないと読みました。もし起こるとしたら、不動産や銀行等+ ITと言うような異業種連合がタッグを組むぐらいでないと実現しないとすら思います。そのようなことを自動車業界が許すとは思えないし、それに屈しないシナリオが、正直考えられません。
日本はまさに「イノベーションのジレンマ」に陥っていると考えています。
P.130で自動運転の領域を「移動の主体」「価値の分類」の2軸で分類しています。それによると、タクシー・飛行機のような「ヒト主体・移動結果に価値」の分野だけでなく「回転寿司・広告カー」のような「物主体、移動過程に価値」の分野も自動運転がカバーするジャンルにあります。もし破壊的なイノベーションが起こるとしたら、おそらくここでしょう。あまり注目されない分野で技術やノウハウを蓄積し、自動車業界も小さ過ぎて潰せない分野。
しかし、ここで技術を蓄えて破壊的なイノベーションが起こる前に、海外から技術を整備したサービスがやってくる方が先だと僕は思っています…。
まとめの感想
特に第1部は自動運転についての倫理の問題や技術的な問題、適応できる分野の問題など、論点が幅広く整理されており、読んでいて大変勉強になりました。MaaSに関するニュースを見かけたら、振り返って論点を改めて確認するのも良いでしょう。第2部は発展途上のものが多いですが、ICTによる運輸の人手不足の解消など、待ったなしの課題に取り組んでいる事例もあり、こちらも押さえて損はありません。