お金の勉強をしましょう
昨今、電子決済アプリという非常に便利なアプリがあるため、高校生でもネットショッピングや店舗での買い物が簡単にできます。
そのため、これまでと比較すると、お金との距離感が近く、「お金を使う」「支払う」という感覚が緩くなっていることが今の社会において事実です。
そうした中、鹿児島県の公立高校で、生徒10人以上が電子決済アプリ「PayPay」を使った詐欺事案に関わった疑いがあるというニュースが世間を騒がせました。
高校生というパワーワードだからこそこんなに注目されていますが、実際は社会人でも詐欺事件に被害者、または加害者として巻き込まれています。
高校生はもちろんですが、社会人の多くの方がお金を稼ぐ大変さを理解できていません。
高齢者をターゲットにしたオレオレ詐欺については、高齢者の判断・理解能力の低下を狙い、不安を駆り立て、だますというひどく卑劣で悪質な詐欺であるため、家族、行政、地域で高齢者を守る環境が必要です。
一方、投資詐欺などのよくあるうまい話については、お金を稼ぐことの仕組み、大変さをしっかり学び、理解することで被害を防ぐことができます。
本記事を通して、学生さんはバイトで稼いだ給与や親からいただいたお小遣いの大切さを、社会人の方は給与の大切さを知っていただければと思い、書き上げていきます。
1. 利益の仕組み
利益の仕組みについて簡単に説明していきます。
利益は、売上から様々な費用を差し引いて計算をしていきます。
そして、損益計算書(P/L)に表示される利益は5つあります。
売上総利益(粗利)
営業利益
経常利益
税引前当期純利益
当期純利益
1-1. 売上純利益(粗利)
売上純利益(粗利)とは、企業の商品やサービスの利益を表します。
売上純利益(粗利) = 売上 - 売上原価
1-2. 営業利益
営業利益によって、企業の営業活動の成果を表すことができます。
営業利益 = 売上純利益(粗利) - 販売・管理費
1-3. 経常利益
経常利益は、営業利益に営業外の利益・損失を足して算出します。
損失が大きい場合、営業利益がプラス(黒字)でも経常利益はマイナス(赤字)になることもあります。
経常利益 = 営業利益 + 営業外損益
1-4. 税引前当期純利益
税引前当期純利益は、経常利益に特別損益(会社の業務内容とは関係なく偶発的に発生する利益と損失)を足して算出します。
この計算がマイナスになった場合は、税引前当期純損失と言います。
税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別損益
1-5. 当期純利益
当期純利益は、税引前当期純利益から税金を差し引いて算出します。
企業が1年間経営を行い、プラスであれば黒字、マイナスであれば赤字となります。
当期純利益 = 税引前当期純利益 - 法人税 - 法人事業税 - 法人住民税
世間一般では「あそこの会社は儲かっている」などと言ったり、勤めている企業、バイト先などで「こんなに儲かっているのに」とおっしゃる方がいますが、それは売上であって、売上から様々な費用・税金が引かれ、残ったものが利益となります。
すなわち、儲かっている(売上)= お金がある(利益)ではありません。
売上を立てるには、企業の商品やサービスをアピールする必要があるため、広告宣伝費を増やしたり、現場に人が足りないという声があり、新たに人を雇えば、人件費が上がるため、必然的に費用は増加し、利益は減少します。
2. 人件費
人件費とは、企業の経費のうち、従業員に関わる費用のことであり、先述した利益の中の販売・管理費に該当します。
人件費には、給与だけでなく、賞与や社会保険料、福利厚生費、退職金、拠出金なども含まれます。
社会保険料には、健康保険料や厚生年金保険料、労災保険料、雇用保険が含まれており、これらは従業員が健康的に働くことができ、かつ老後の生活に困らないように企業が保険料の1/2の額を負担してくれています。
税金では、子ども・子育て拠出金があります。
徴収の対象となるのは、厚生年金の加入者(従業員)です。
したがって、厚生年金に加入する従業員を抱えるすべての企業に納税する義務が課され、全額企業負担となります。
つまり、企業とは従業員に対して労働に見合った賃金を支払うだけでなく、従業員の生活を守る役割を担っています。
また、従業員側としては、労働に対しての対価をもらっているだけの関係ではなく、企業が自分の生活を守ってくれているという認識を一人ひとりが持つことが大切です。
これは正規職員だけでなく、パート・アルバイトの方々も同じです。
「短時間労働者に対する社会保険の適用拡大」の法律改正により、社会保険料の適用対象が2022年10月1日から従業員数100人超の企業に、そして、2024年の10月1日からは、従業員数50人超の企業に適用することが決まりました。
3. 給与についての考え方
人件費には、給与以外に様々な費用が含まれていることをお話ししました。
人件費 = 給与 + 賞与 + 社会保険料 + 福利厚生費 + 税金など
この計算式から分かるように、従業員は自分の給与分だけを稼いでいるようでは、企業は赤字になります。
より具体的な例として簡単なモデルケースを用意します。
4. モデル事例
年齢:26歳
月収:225,000円
基本給:200,000円
通勤手当:10,000円
住宅手当:10,000円
資格手当:5,000円
ボーナス:3か月分
4-1. 総支給額
給与
225,000円 × 12か月 = 2,700,000円
ボーナス
200,000円 × 3か月 = 600,000円
総支給額
2,700,000円 + 600,000円 = 3,300,000円
4-2. 社会保険料
健康保険料、厚生年金保険料は「年度」と「都道府県」で異なります。
今回は、令和5年度の東京で計算していきます。
健康保険料
健康保険料は10.00%であり、1/2を企業が負担します。
225,000円 × 5.0% × 12か月 = 135,000円
厚生年金保険料
厚生年金保険料は18.300%であり、1/2を企業が負担します。
225,000円 × 9.15% × 12か月 = 247,050円
雇用保険料
3,300,000円 × 0.6% = 19,800円
労災保険料
3,300,000円 × 0.3% = 9,900円
4-3. 拠出金
子ども・子育て拠出金
225,000円 × 0.36% × 12か月 = 9,720円
4-4. 合計
3,300,000円 + 411,750円 + 9,720円 = 3,721,470円
簡単な説明ではありますが、従業員1人を雇用するのに対して、企業はこれだけの費用を負担する必要があります。
さらに、人件費以外にも企業には様々な経費がかかります。
租税公課
地代家賃
水道光熱費
旅費交通費
通信費
広告宣伝費
損害保険料
修繕費
消耗品費
雑費
支払手数料
これら以外にも様々な経費がかかります。
そのため、給与の2倍の売上を立てて損益ゼロであり、
給与の3倍以上の売上を立てると企業の利益を出すことができると考えられます。
5. 個別採算
では、実際に給与に対してどれだけの売上を立てることで採算が合うかどうかを考えていきましょう。
以下の計算式に自身の給与を当てはめると、目標売上が分かります。
月給 ÷ 0.33 = 目標売上
いかがでしょうか。
給与アップを求める場合、4倍以上の売上を立てる必要があります。
社会人の方々や、バイトをしている学生さんは、ぜひ今の自分の給与と労働成果を比較してみてください。
5,000円のお小遣いをもらっている学生さんは、ご両親がそのお小遣いのために15,000円以上の仕事を頑張っていることを忘れないでください。
まとめ
厳しい内容だとは思いますが、お金、給与に関する仕組み、大切さを知っていただきたく書かせていただきました。
お金を稼ぐことは大変なことであり、簡単に増やせる方法はありません。
最低賃金が1,000円を超えた今の時代でも、1時間の労働が必要となります。
それがたかだか数分、数ステップで倍の金額にしてもらえることなんてあり得ません。
社会人の方々が、お金の大切さを子どもたちに教えるべきではありますが、
その社会人の方々の中に、お金や給与の仕組みを知らない人たちが多いのが実情です。
また、電子決済アプリは手軽に使えて大変便利ですが、同時にリスクもあることを十二分に理解した上で使っていきましょう。
本記事を通してお金の大切さを学んでいただき、詐欺被害を1件でも減らし、子どもたちを守れたらと切に願います。
ご高覧いただきありがとうございました。